久保建英はヘタフェでフィットするか。柴崎を見切った指揮官の戦術は
「ようこそ、鮮やかなブルーファミリーへ」
1月8日、リーガ・エスパニョーラ1部のヘタフェは、公式に久保建英(19歳)の移籍入団を発表している。
今シーズン、マジョルカからビジャレアルに移籍していた久保は、ヨーロッパリーグのグループリーグ5戦すべてに先発出場し、決勝トーナメント進出に貢献していた。しかしリーグ戦では13試合に出場したものの、先発は2試合のみ。"カップ戦要員"になっていた。
「久保はまだまだ学ぶことがある」
ビジャレアルのウナイ・エメリ監督は、ことあるごとに言い続けていた。徹底したリアクション戦術において、守備での強度や立ち位置での不満があったのだろう。久保との関係は深まるどころか、乖離していった。
ビジャレアルからヘタフェへの移籍が発表された久保建英
そもそもビジャレアルにとっては、フェル・ニーニョ、ジェレミー・ピーノといった下部組織出身の有望なアタッカーを登用するほうが価値を生み出すことになる。彼らは今後も戦力になるし、高額の移籍金でクラブの金庫を潤す可能性もある。しかし久保は我慢しながら活躍させても1シーズンの契約で、"損得勘定"も滲み出ていた。
そこで久保本人がウナイ・エメリ監督に退団希望を明かし、移籍への流れは加速することになった。カップ戦を主戦場にリーグ戦での出場時間を増やす選択肢は悪くなかったはずだが、ボールプレーヤーとして貢献しても立場が変わらず、忸怩たる思いがあったのだろう。年始のレバンテ戦は初のメンバー外。本格的な移籍交渉に入ったことを示していた。
久保自身が移籍を希望し、レンタル元のレアル・マドリードも出場機会の増加を歓迎。ビジャレアルはボランチのビセンテ・イボーラの負傷離脱で、補強の必要が出ていた(フランス代表MFエティエンヌ・カプエをワトフォードから獲得)。あとは久保を熱望するヘタフェが、250万ユーロ(約3億円)というレンタル料の半分を肩代わりできるか、だけが焦点になっていた。
結局、レンタル料については折半することで合意。言わば、必然の移籍と言える。
では、久保はヘタフェでフィットするのか?
ホセ・ボルダラス監督が率いるヘタフェは、端的に言えば「戦闘力」に特徴があるチームだ。
フィジカルインテンシティを極限まで鍛えられた選手たちは、何より戦う気迫と覇気を感じさせる。前線からピラニアが獲物に食らいつくようにプレスを仕掛け、"出血に興奮する"ように周囲も連動。カウンターでは一気にボールを裏へ。一部では「アンチフットボール」と蔑まれたが、闘争によって勝ち点を積み重ねてきた。
その練度のおかげで、1部に昇格した2017−18シーズンから3シーズン連続で8位以内と健闘し、常にヨーロッパカップ出場圏内を争っているのだ。
「一戦必勝」
その精神は、ディエゴ・シメオネのアトレティコ・マドリードとも似ているかもしれない。勝利のためには、なりふり構わない。
ところが、今シーズンのヘタフェは1月9日現在で16位(18位以下が降格)と低迷している。今年初戦のバジャドリード戦も本拠地で0−1と敗れ、スペイン国王杯でも2部コルドバに敗れ去った。これまでの執念やしぶとさは感じさせず、危機的な状況に追い込まれつつある。3シーズンにわたり主力の多くが、極端に強度が高いサッカーを続け、体力だけでなく精神的にもすり減り、明らかな停滞が見られる。2トップが得点を叩き出してきたが、そのハイメ・マタ、アンヘル・ロドリゲスの調子が上がらず、得点数はリーガで2番目に少ない状況だ。
「新鮮な空気」
ボルダラスは、今のチームに必要なものを啓示的に語っている。久保は新風を吹き込むことができるか。
久保はおそらく4−4−2の右サイドハーフとして、攻撃のリズムを変え、決定的な仕事をする役割を託されることになるだろう。今さら言うまでもないが、攻撃能力は申し分ない。ビジョンやスキルの高さはすでに実証済みで、局面での違いは見せられるはずだ。
しかし、ボルダラス・ヘタフェはインテンシティを重んじるチームだけに、久保がフィットするのは簡単ではない。ビジャレアル時代と同じように、非力さや守備の不安に目をつけられる可能性もある。その場合、移籍は浮かぶ瀬となるどころか、堂々巡りに陥ることになる。
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ボルダラスはエメリほどマニアックな戦術家ではなく、結果を残せば登用するタイプだが、戦術的強度が不足した選手を起用することはない。久保をリクエストしたのは事実だ。だが、かつて日本代表MF柴崎岳にほれ込んで獲得したものの、一時は重用しながら見切りをつけるのも早かった。役割に対しては、厳格な監督だ。
「(久保の挑戦は)簡単ではない」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はその見出しで、あくまで慎重な姿勢を表現した。
注目のデビューは、1月20日、岡崎慎司が所属するウエスカとの一戦になる可能性が高い。