「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」放送開始に向けて複数のスタッフへインタビューを行ってきました。最後は「編集」を担当する小野寺桂子さんへのインタビューです。小野寺さんはフィルム時代から40年近く「編集」をしているということで、本作についてだけではなく「編集」という仕事そのものについても、いろいろな話を聞いてみました。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」公式サイト

http://ssorphen-anime.com/

GIGAZINE(以下、G):

本日はよろしくお願いします。

編集・小野寺桂子さん(以下、小野寺):

お願いします。ちょうど今、たまたま作業が終わったところです。私たちの作業って、ご存じかも知れませんが、完成した状態とは限らなくて、たとえばもうアフレコが終わっているのに線撮が残っていたりするんです。これを、完成した素材と差し替えたりします。だいたい、カラーのついた絵よりは、線だけの絵の状態で作業することが多いですね。



小野寺:

オーフェンの場合、キムラック編ではみなさん頑張ってくださって、カラーの状態で作業ができています。「アフレコにはきれいな色にしよう」ということで、この話数だと3カット差し替えればアフレコにカラーのものが間に合うという状態ですね。かなりいい状態です。普通はこうはいかないんですよ。

(一同笑)

小野寺:

私はフィルムの時代から40年くらいやっていますが、デジタルになっていいことも大変なこともありますね。といっても、デジタルになってから20年以上経ちますけど(笑)

作業としては、編集は尺を合わせていく作業です。本編はオーフェンの場合、20分30秒なんですが、素材が毎回同じようにいくわけではなく、コンテに合わせて尺を決めていきます。だいたいはオーバーしていることが多くて、3分くらいオーバーしていることもあります。

G:

20分30秒に対して3分オーバーだと、かなりの長さですね。

小野寺:

そこを、セリフを切るなり、アクションをつなぐなり、もっとテンポを出すなりという作業は、相談しつつ編集の段階でやっていきます。アニメーションの場合、アフレコが後にあるので、アフレコでセリフが入ってから私が直すということもあります。絵がカラーならいいですけれど、線画だと音響さんたちが仕込みをするのが大変なので、わかりやすいように「ここでいろいろ動いています」とか「SEが入ります」という印を入れたりもします。

G:

そういうのも編集さんがやるんですね。

小野寺:

なので、我々は圧倒的に大変です(笑) たとえばカラーの絵であれば「こういう場所を歩いているんだな」ということが一目瞭然でわかりますよね。足元の素材が木の板なのか石なのかも色で分かる。でも、線画だけだと素材は何なのか、そもそも暗いのか明るいのかがわからないということがあります。音響さんにしてみれば「音は反響するんですか?」ということがわからない。そういうことがわかるように作業をしていくので、編集にとって線画での作業というのはちょっと大変なんです。



G:

ああー、なるほど。

小野寺:

演出さんの「足音のタイミングはこう」という考えに合わせて、何コマ目と何コマ目で足音を入れるのか、そのことがわかるようにするんです。今のアニメーションの現実としてそういうことは必ずやっています。私だけではなく、ほとんどの編集さんが、編集の日には尺を出して、アフレコをして、その後の仕込みのために音をわかるようにする。あるいは、上がってきた絵に差し替えるという作業を何度も行います。キムラック編はありがたいことにカラーですが、第1期ではカラーではない部分もあったので、線撮りの仕事が多かったですね。

G:

さきほど尺に対して3分オーバーしていたという話がありましたが、尺が足りずに延ばすケースというのも……

小野寺:

『オーフェン』に限らず、もちろん、足りないということもございます。やはり、人間がやることですから、監督さんやベテランの方々もコンテを描くときに頭の中で計算はしているのですが、よかれと思って「これくらいの尺でオーバーしときました」といっても、編集でテンポを出したらアクションが切れ過ぎちゃったとか、あるんですよ。つなげてみるとダブっていたり、「ここはなくして、パッとやったほうがいい」とか、作監さんが頑張って動かしても「もっと早いほうがいい」となったり。

G:

ほうほう。

小野寺:

アクションシーンだと緩急をつけるために延ばしたいという部分も出てきます。そうすると、監督さんが「これは10秒」と考えていたカットが「15秒にした方がいいんじゃないですか?」ということも出てきます。テレビ、映画でもそうですが、私たちは尺との勝負をしています。「あるだけやれる」というわけじゃないし、放送というのは特に1コマでもオーバーしてはいけないので、一番気を遣います。それに、せっかくみなさんが頑張ってくださったのに、ガチャガチャしちゃって緩急がつかず「何が起こったの?」という形で終わってしまったら、面白くないじゃないですか。

G:

はい。

小野寺:

見せるところ、じっくり泣かせるところ、笑わせるところ、アクションするところをテンポよく作ってやるというのが編集の仕事だと思ってます。長くしなくちゃいけないときもありますし、どうしてもカットしちゃうと面白くなくなっちゃうってこともありますしね。でも、とにかくフォーマットってものがありますんで、フォーマットに合わせるために考えて延ばすということもやっています。

G:

オーバーするときはどこかを切っていくということになりますが、延ばすときには、どうやって延ばすのですか?

小野寺:

そこですよね。私たちは「切った貼った」の商売で、今はデジタルなので止めコマをさっと入れることもできますが「ここは延ばしたいな」と思うところが出てきます。私はセリフを読みながら仕事をしているんですけれど、作家さんや演出さんが考えたシート通りに上がってきた会話シーンでも、実際に読んでみると間が不自然になっていたり、「このキャラクターはもっとゆっくりしゃべるよね」というのがあったりするんです。そういう部分を巧みに突いて延ばしたり、監督さんに「このカット、パンを長くして、シートを変えて状況をもうちょっと長く見せましょうか」とお願いしたりします。もちろん、監督さんが「ここ、もっと間を入れましょう」と延ばすこともあります。

G:

ほうほう。

小野寺:

あまり短く刈り込んでいっちゃうと、今度は長いところが欲しくなるというのはあります。みなさんがドラマや映画を見ていても、ガチャガチャっと進んでしまって「さっきのところ、どうなったんだっけ」となることがあると思うんです。

G:

はい。

小野寺:

そこを緩急、メリハリをつけるという感じです。キムラック編の場合は、これまで謎だった部分に迫る話なので、その謎の部分に寄ったりじっくり見せたり。謎が解かれていく中で、「この人はなぜこういう状態になったんだろう」というような話だと、ゆったりした方がよくなるので、そういうところは延ばします。だいたいそういう部分は、すでに演出さんが長くしてくれていますけれど。だから、さきほどのオーバーの例だと、そういう考えで「長い方がいいだろう」ということで延びちゃったんだと思います。それをうまく演出さんと監督さんと一緒にまとめました。楽しい仕事ですよ、絵があれば(笑)



(一同笑)

小野寺:

40年くらいやってきて、フィルムの時代はもっと大変だったりしましたし、スケジュールも大変だったりしましたけれど、本当にこの仕事は楽しいです。たとえば、『魔術士オーフェン』はこのシリーズの前、昔もありましたよね。

G:

はい、20年ほど前にありました。

小野寺:

同じ原作で同じことを繰り返したとしても、描き方が違うし、演出さんも違う。カッティングを私がやるのと、他の編集さんがやるのとではまた違う。一期一会なんです。だから、やっていてつまらないと思ったことはないです。同じような作品をやったとしても、同じものが2度と作れるわけないので、この仕事を辞めたいと思ったことはないです。フリーですから、仕事の波はありますけれど、面白いですよ。

G:

なるほど、同じ作品の作業でも、話によってまったく異なる仕事なんですね。

小野寺:

監督さんがトータルで見ているので、この作品だと浜名さんのカラーが出ますけど、作画さんや演出さんが違うとガラッと変わります。浜名さんカラーの中に、それぞれの演出さんの個性が出ているんです。それに合わせてやっていくのも楽しいですよ。『オーフェン』の場合、原作が25年もずっと支持されている作品なので、原作の色が強いかも分からないですけど、監督さんの力っていうのは、やっぱり出てきますよね。それは一言では言えないんですけど、「ああこれは浜名さんっぽいな」「なになに監督っぽいな」っていうのはあります。私は『オーフェン』が浜名さんとは初めての仕事ですが、やっぱりあるなと感じます。他の仕事だと、また別の監督の「この人はこういう感じで来るんだ」というのがあって、それもまた面白いところです。

G:

監督ごとに違いがあると。

小野寺:

そうです。そこに、さらに演出さんの個性が加わります。演出さんがまた、面白い方がいたりするんです。中には難しい人、面倒くさい人もいますけれど(笑)、それはそれで面白いじゃないですか。みんな通り一遍に事務的に終わってしまったら、編集の仕事する人は面白くないもの。

G:

そうですね。

小野寺:

だから、意見が対立することもあると思います。私自身はあまりそういう経験はないですけれど、そりゃ、ものを作っている現場なんだから、そうじゃないとね。

G:

意見をしっかり戦わせていかないと。

小野寺:

本当、そうですよ。

G:

先ほど、編集ではセリフを読みながら作業しているというお話がありました。これは、テンポを声に出してはかるようなイメージなのでしょうか。

小野寺:

コロナの影響で、最近はアフレコダビングへの参加は自粛していますが、以前はなるべく行くようにしていました。そうすると、私がこれでいいと思っていた間の尺が、役者さんによっては辛そうで「次は長めにしようかな」とか「あの人はテンポ良く話せる人だ」とかがわかるんです。



G:

そこで役者さん1人1人の感覚をつかんで合わせていくんですか。

小野寺:

コロナ禍での制作の事情もあってアフレコやダビングには立ち会わない方針になりましたが、効果さんがダビングでいい音をつけてくれると「なるほど、そうするなら、次はこういう風にしよう」って。相乗効果というか、そうなっていくのも面白いです。

G:

あちこちで相乗効果があるものなんですね。

小野寺:

『魔術士オーフェン』では、第1期のアフレコにはずっと行かせてもらったので「森久保さんたちなら多分こう来るだろうな」というのがなんとなく分かります。特に、森久保さんは以前のシリーズでもオーフェン役を演じているので、作品のことをよくわかってらっしゃると思うんです。だから、私は以前のシリーズには関わっていませんが、森久保さんが「オーフェンの世界はこうなんだ」と教えてくれたような感じです。『オーフェン』は本当にファンが多い作品で、奥が深いです。森久保さんが主役として、引き続き演じてくれているのはすごいことだし、スタッフを導いてくれているという感じがします。

G:

森久保さんがオーフェン一行だけではなく、作品そのものを引っ張っているんですね。

小野寺:

なんとなく声が聞こえてくるんですよね、「おめぇら!」って(笑) 本当にオーフェンならそう言うだろうという声がするし、それに対してクリーオウはこう返すだろうな、ボルカンとドーチンならこんなバカな口を挟むだろうな、というのが聞こえる。実際には、編集のときは全部私が当てるわけですけどね、「なりきり編集」で(笑)



G:

(笑)

小野寺:

実写であればシンクロして音も録っていますが、サイレントでの編集というのがアニメーションの宿命ですから。

G:

編集時に「3分オーバーしている」というのはよくあるケースなのですか?

小野寺:

そんなにはないです。描かれた絵ですから、もったいないですよね。実写なら撮りっぱなしにもできるから、1時間ドラマを作るにあたって、編集室いっぱいに素材のテープが山積みになるということもあります。実写であればそういうことは当たり前です。でも、アニメーションは作画さんが描いたものだから、切っちゃうのはもったいない。でも短いものを延ばすにはないものを作る必要がありますが、長いものを短くするのは「切った貼った」なので助かります。

G:

確かに。

小野寺:

私は昔、フィルム時代に『ちびまる子ちゃん』の編集をしていたことがありますが、あれは会話劇なので、尺をオーバーしていたらセリフを削らなきゃいけないので、本当にもったいないと思っていました。アクションものであれば、意外と切れるので、1分半ぐらいのオーバーは全然大丈夫です。



G:

小野寺さんはキムラック編の編集を進めているところですが、第1期から引き続き担当していて、何か感触に違いはありますか?

小野寺:

私は第1期で浜名監督と初めて仕事をして、『魔術士オーフェン』にも初めて触れたんですが、終わったとき、次が見たかったんです。「この続きはどうなるんだよ! ここで終わるんかい!」って(笑)

G:

旅に出たところで終わるという、一番続きが気になる形ですもんね(笑)

小野寺:

「キムラックって、どういうところなんだ?」って。だから、キムラック編に入って、1話1話、すごくワクワクしています。もちろん、コンテは全部上がっていて、最後まで読んでいるから流れは全部分かっているんですけれど、それでも「次、どうなるの!?」というワクワク感があります。作品に対する自分の関わり方も違ってきますよね。毎週毎週が楽しみです。

G:

なるほど。キムラック編の制作はちょうどコロナの影響を受けてしまうタイミングとなりましたが、編集のお仕事はリモートでも進められたのでしょうか?

小野寺:

簡単な部分はリモートでもやったんですが、私の仕事は監督さんや演出さんとああだこうだと相談する部分なので、作品を作り上げていく編集作業に関しては、リモートではまだ無理かな。機材の問題がなければ解決はできるかもしれないけれど、やっぱり、会社に来てやった方が早いなというのはあります。

スタジオディーン 中田善文プロデューサー(以下、中田):

アニメは1秒24コマが基本なのですが、編集では「ここは2コマ切って欲しい」「3コマ切って欲しい」「さっきの1コマはちょっと厳しいかも」ということが出てきます。リモートで通信のラグが発生すると、それが成り立たなくなってしまうので、カッティングと呼ばれる映像フォーマット作業が終わったあとに、仮のコンテ映像や線画素材でやっていたものをカラーの絵に差し替えるという作業ならいいのですが、タイミング合わせや内容を決める作業については、リモートだと難しいですね。

小野寺:

技術の進歩で解決するかもしれないけれど、今はまだ、会社でやった方が早いですね。直接「監督さん、いいですか?」って声をかけられるので。

中田:

監督、演出、編集と3人の息を合わせなければいけないので、意思疎通という点で、みんながそろってやる必要のある作業です。

G:

なるほど。

中田:

キムラック編は、浜名監督も言うように結構ミステリアスになりましたよね。第1期は結構昼間のシーンが多くて明るいんですが、キムラック編になると暗いシーンが増えますし。

小野寺:

地下に潜っちゃったりするし。

中田:

ストイックな内容になっているし、ちょっと画面の作り方も変わっている感じです。

小野寺:

編集室は今はこういう機材ですが、昔はここにビュワーがあって、ガラガラとフィルムを回して「切った貼った」していたんですよ。上がってきたフィルムを1カット1カット分けて、それをテープスプライサーでつないで……。最初がフィルムで、それがSPテープになって、デジベになって。これはHDカムですね。それからデータになって。

G:

素材の変化とともに、機材もかなり変わってきたのでは……。



小野寺:

大変でしたよ、超アナログ人間の私がデジタルを覚えなきゃいけなくて。20何年前ですかね。当時、いち早くデジタルを取り入れた会社に行って習ってたんですけど、やっぱり右脳と左脳、頭の使うところが違う感じがして「うん?」って思ってたんですよ。でも、慣れですね。「切った貼った」とか、つないで切って延ばしてとか、どういう風に編集すればアクションがうまくいくとかいうのは、フィルムだろうがデジタルだろうが、同じ映像なんですから。要するに、道具が変わっただけってことですよね。

G:

確かに。

小野寺:

アフレコが終わってリテイクが上がってきた部分を差し替えて、尺延ばしの修正をかけて。アニメは絵ですから、直そうと思えば衣装でもなんでも直せるので、いろいろなリテイクがあります。多いのはセリフが合わないときの口の修正ですね。それを直す作業が結構あります。さきほど言ったように、今はアフレコ現場に行けないので、ここで森久保さんたちにお目にかかっているような感じがありますね。

あと、『オーフェン』では魔術でいろいろなエフェクトが入っていて、効果さんは喜んでるんじゃないですか?

中田:

細かいところまで色がついてたり背景があったりすると、細かい音が入れられるって意味で、そうですね。

小野寺:

昔、フィルムの時代に『カムイの剣』というアニメ映画をやったとき、それまではカラーじゃない作品ばかりやっていた効果さんが、映画で珍しくカラーでやることになって喜んで、生音を録りに北海道まで行ってましたからね(笑)



G:

すごい(笑)

小野寺:

効果さんは、本当はそれぐらいしたいんですよ。それに、アニメの効果さんは実写作品より楽しいと思うんですよ。実写だとウソになってしまう音でも、アニメなら実際にない音を入れたっていいわけですから。だから「いつもはできなかったことが、今回はカラーだからできる!」って北海道へ。そんなこともあったので、私から制作さんにお伝えしたいのは、「カラーでやりたい!」ということです(笑)

G:

(笑)

小野寺:

「切った貼った」と言いましたが、本当にドラマによるので「長ければいい」というものではありません。だからいろいろと見ていただくとわかると思いますが、ただ単にフォーマットで尺が短いから延ばしているということではありません。

G:

なるほど。本編の尺は20分30秒とのことですが、作業としては、どれぐらいの時間をかけるのですか?

小野寺:

差し替えの作業は、ですね。どうでしょうね……。差し替え自体は、オール線撮りで300カットあったとしたら、5倍くらいは差し替えてると思うので、1500以上かな。でも、大変な差し替えばかりじゃなくて、慣れると楽にやれるものもあります。時間を計ったことはないけど、順調なやつで3倍ぐらい……?

G:

順調でも3倍……。

小野寺:

他社さんで昔やった作品なんかだと線撮りで「原撮」っていって、原画を撮影したもので編集することがあったんですけど、作監さんが入った原撮と入っていない原撮があるんです。『オーフェン』とかはそうじゃないけど、その作品は線撮りでも差し替えをしていました。私たちが見ても「どこが違うの?」というぐらいの差だけれど、作監さんがちょっと手を入れたりしていて「小野寺さん、作監さんが頑張って手を入れて、いい絵になったんだから、原撮カットでも差し替えてください」って。そうですよね、絵描きさんが描いてくれて、撮影さんが撮ってくれている。だったら編集も入れようじゃないかとなりますよ。線撮りで3回ぐらい、「まだやるの?」ってくらいやりました。でも、その制作さんが言ったように、1カットでも差し替えた方が、音を付ける人の助けになるし、動きも本撮になったときに楽だから「わかりました」って入れてました。一方で、会社によっては、線撮りにそこまでお金をかけないというところもありますし。カラーだったら何も問題ないですけどね(笑)

G:

やはり、そこに(笑)

小野寺:

これも、カラーになってから直すという考え方もあって、いろいろです。1カット1カット、パズルを解いていくように、やればやるほどよくなるんです。織物は糸を紡ぎますが、線撮りからカラーにしていくというのはあれと同じで、1つ1つ紡いでいく感じ。私たちが作品に愛情を注ぐと作品も返してくれる。それが楽しいです。



G:

編集という仕事について、ここまで詳しく話を聞いたのは初めてですが、これほどまでに楽しそうな仕事だとは知りませんでした。

小野寺:

そうでしょう。私、お守りとしてずっと持ってるんですけれど、これを使っていたんです。

G:

おお!

小野寺:

フィルムの時の和ばさみ。西洋では西洋ばさみを使うんです。ネガを切ったり、削ったりしてたんです。これは最後の方に使っていたやつなので、編集としてデビューしてから何丁目かはもうわからない(笑)



G:

すごい……。

小野寺:

フィルムの時は、カットナンバーを直接刻んだりもしました。私の編集の師匠である浦岡敬一さんは実写畑の人でしたが、フランスで編集作業をしていたとき、和ばさみを持って行ったんです。そうしたら、フランスの編集の人たちがみんな「なんだそれは?」と。向こうの人たちは西洋ばさみを使っていて、刻むときは鉄筆を使っていたんです。でも、和ばさみは切る作業も削る作業も刻む作業も1つでできる。デジタル時代には必要ないですけれど、お守りみたいなものです。

G:

フィルムからデジタルまで時代をわたってきたキャリアから、編集を目指す人に向けて、こうした技能を身につけておいた方がいいというアドバイスは何かありますか?

小野寺:

技能というよりは、いろいろ見ることです。「フィルム感覚」、たとえばカッティングのこのリズムが好きだ、気持ちいいというのが、人それぞれにあると思うんです。それは、いろんな作品を見ることによって、自分と合ってる、合ってないということがわかるようになります。「この作品は面白いけど、自分のリズムとは違うな」とかね。そういう経験を積んで、自分の「フィルム感覚」がわかるといいですね。なおかつ、仕事にするなら自己満足ではなく、人に見てもらって楽しんでもらわないといけないから、「うまく見せる」ことが必要になります。

G:

ふむふむ。

小野寺:

そのためにも、まずは自分の中で何が正義かを理解することです。そこへ向けて何をするかというと、とにかく「見ること」なんです。アニメだけじゃないですよ。アニメをやる人は、アニメだけ見てたらダメ。実写とか、ドキュメンタリーとか、コマーシャルとか、何でも見ることです。編集のための理論として、たとえばイマジナリーラインがどうこうとかありますけど、それ以前の問題として「自分の感覚では、これは気持ち悪い」というようなことが分かれば、いざ自分が「切った貼った」するようになったときスムーズにいくし、人にも分かってもらえる作品ができるんじゃないでしょうか。

G:

なるほど。

小野寺:

昔はこんないい時代じゃなくて、映画は映画館に行かなくちゃ見られなかったり、ビデオは買ってこなきゃ見られなかったりしましたから。学生時代には古い映画や白黒時代、サイレントのものを見ましたもんね。サイレントはすごく面白いですよ。今とはリズムが違うけれど、映像だけで見せるわけだから、勉強になります。あとは、舞台もいいですね。生の舞台。

G:

舞台もですか。

小野寺:

アニメーションをやるなら、セリフとかの問題もありますから、生の舞台を見るのがいいと思います。多分に、アニメ的ですから。「こういうシチュエーションのときは、スコーンと抜けた方が気持ちいいんだ」「こういう見せ方があるのか」「ここは、こういうつなぎ方の方がいいんじゃないだろうか」となってきます。そこに至るためには、好き嫌いせずに、たくさん見る。これです。

G:

「この作品を」ではなく、いろいろなものを。

小野寺:

そうです。名作だけがいいとも言えません。意外なところで自分の「好き」につながったりしますから。この監督の作品を見てみたらこっちも面白かった、とかそういうことをつなげていければいいですね。現代は、映画を簡単に見られる時代ですから、やっていただくといいかなと思います。

ずっと映画を見られるなんて私にとっては夢でしたもん。昔はフィルムセンターとかに観にいっていたんですよ。京橋にセンターがあって、100円くらいで過去の名作が見られました。アメリカのフィルムセンターから借りていたという、ハリウッドの黄金期の映画とかも特集されていて、国立なので安かったですよ。

G:

現代は見る手段がいくらでもありますもんね。

小野寺:

そうなるといつでも見られるから、逆に見ないかもしれないけど(笑)

G:

ありますねー(笑)

小野寺:

いっぱい見ると、自然と体が「人にわかりやすく見せる方法」を覚えますから、好き嫌いはしちゃダメです。実際に私の先輩でスポーツマンがいて、ご本人のイメージはどう見てもアクションをするタイプなんですが、編集者としては、カットをすごく我慢するタイプでした。私だったらもう切っているようなところでも、じっくりと見ている。実写の人でしたが、アニメをやったときもアクションものよりじっくりとした作品が得意でした。逆に、おっとりとしているような人がアクションものの編集が上手だったりしますからね。



G:

なるほど。『オーフェン』のことから編集のことまで、長時間にわたりありがとうございました。

アニメ『魔術士オーフェン キムラック編』は2021年1月20日(水)から放送開始です。

『魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編』アニメ PV第2弾 - YouTube

©秋田禎信・草河遊也・TO ブックス/魔術士オーフェンはぐれ旅製作委員会