i-MiEVはまさに「小さな高級車」だ

 世界初の量産市販電気自動車(EV)として、なおかつ唯一の軽自動車のEVとして2009年にまず法人向けで販売が開始された三菱i-MiEVが、生産を終えるとの噂がある。だが、三菱自動車工業から正式な声明が出されているわけではない。一方で、昨2019年の年間販売台数は、海外を含めても200台強という数値で、消費者の関心が薄れているのは事実だ。

 2018年には、衝突安全性能の改善のため車体全長が延ばされ、車体寸法が軽自動車規格の枠を超え登録車の扱いとなった。開発の基となったガソリンエンジン車のi(アイ)は、軽自動車の人気がハイトワゴンやスーパーハイトワゴンへ移ったこともあり、2013年で生産を終えている。こうしたさまざまな状況から、i-MiEVの終了の噂が出たのだろう。もちろん、企業としての採算も合わなくなっているはずだ。それでも、正式な生産終了の公表がなく製造を続けているのは、世界に類を見ない軽自動車を基にしたEVという存在に価値が残されているからだと考える。

 また三菱自は、EVを生産する工場に追加投資をこの夏に行なうと発表した。これは、日産自動車が昨年の東京モーターショーで公開した軽EVコンセプトカーのIMkの量産車を、三菱自で請け負うためではないだろうか。日産と三菱自は、ガソリンエンジンの軽自動車について、NMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)で開発し、三菱自が製造し、それぞれ独自の車種名で販売している。その流れに、軽EVも乗ることを示唆しているようだ。そこから三菱自も、i-MiEVの後継となる軽EVを発売するのではないかという予想も立つ。

 三菱i-MiEVの価値とは何か。改めて検証すると、モーター走行のEVであることにより、軽自動車の概念を根底から覆す乗車感覚があることだ。

 何より静かだ。軽自動車のガソリンエンジンは直列3気筒であることから、振動や騒音が登録車の4気筒エンジンに比べ大きくなりがちで、不利だ。それが乗車中の快適性を損なう。そこを、スズキや日産、三菱自のマイルドハイブリッドは、ある程度解消している。さらにEVとなれば、大きく改善されることになる。

 またEVは、床下に動力用のリチウムイオンバッテリーを搭載するため、重量増になると同時に低重心にもなる。これにより、路面からの微振動が軽減され、また乗り心地が重厚になる。走行安定性も高まる。i-MiEVで高速道路を長距離移動しても、静粛さと振動の少なさから疲れにくいクルマであった。ひと言でいえば、まさに「小さな高級車」の価値を得るのである。

これからの時代に意義のある存在!

 今日、軽自動車は多彩な車種の充実により、単に経済的で実用性を追求した、安いから乗るクルマとしてだけではなく、それぞれの生き様や生き甲斐を満たすクルマとなっている。それでも、ガソリンエンジン車ではどこか辛抱しなければならない弱点は残る。ところがEVになれば、我慢する性能がほぼなくなるといっていい。

 唯一、登録車ほどはリチウムイオンバッテリーを多量に搭載できないだろうから、一充電走行距離は短めとなるに違いない。それでも、自宅で充電できる使用環境にあれば日常的には問題なく、遠出の際の急速充電設備は整備がほぼ整っているので、移動中の充電の心配はかなり軽減されている。

 いま、日本市場は、軽自動車と5ナンバーの小型登録車が販売の上位を保持し続けている。理由は、小さなクルマが国内の交通環境にはやはり最適だからだ。グローバルカーの名のもとに、自動車メーカーはモデルチェンジのたびに車体を大型化し、3ナンバー化しているが、消費者はその動きにうんざりしているのではないか。

 i-MiEVが生産を続け、販売を続けることは、国内の市場動向にEVとして合致したことといえる。日産リーフはそれほど大柄ではないが、それでも3ナンバー車だ。輸入車のEVは3ナンバー車で、なおかつより大きな上級車種がほとんどといえる。i-MiEVは、EVであることの本質的なよさや特徴を改めて実感するうえで貴重な存在になっているといえる。

 ところで三菱自は、電動ドライブハウスの取り組みを行なっている。EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を所有することで、家庭での電力利用の一助としようとする取り組みだ。そのための、ワンストップでの手続きに関する案内も行なっている。

 あるいは、東日本大震災のあと、i-MiEVから100Vの電気を1500Wまで引き出すことができるようになり、こうしたEVと暮らしとの連携は、甚大化している自然災害のほか、台風などによる停電において家庭電化製品などへの電力供給ができる。スマートフォンを充電できるだけでも、家族の安否確認や、災害情報の入手が可能になる。単に移動だけのクルマではなく、EVが生活の安心を支援する機能を備えることを、i-MiEVが存続することにより小さなEVで体感することができるのである。

 次の軽EVが登場するまで、i-MiEVにはまだ活躍できる場があるといえる。