開幕からゴールを重ねているアンス・ファティ。恐るべき17歳だ。(C)Getty Images

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 このインターナショナルウィーク期間中、スペイン代表でもっとも注目を浴びた選手のひとりがアンス・ファティだ。約1か月前のウクライナ戦(スペインが4−0で勝利)、そしてシーズン開幕以来のバルセロナで鮮烈なインパクトを放ち続けており、しかも弱冠17歳でハイレベルなプレーを平然とこなしてしまうその姿にクラックとしての資質を感じさせる。

 今のパフォーマンスを続けていけば、近い将来、ファティ中心に戦術を構築する可能性も高まってくる。ちなみに監督のルイス・エンリケはバルサを率いていた時にリオネル・メッシ中心のチームを作った経験がある。当時の第2監督のロベルト・モレーノが本紙(エル・パイス)のインタビューでこう証言している。

「レオにはだいたいのゾーンを指定するだけで、あとは自由にプレーしていいと伝えていた。インテリジェンスの塊のような選手だからね。常に相手の守備陣形を見ながら、パスを受けるスペースが生まれるのを狙っている。レオのその持ち味を削がないように、われわれは彼が主にプレーするゾーンを分析して、最終的に4つに絞った。それをもとに、他の選手のプレーゾーンをシチュエーションごとに決めていった。チームのバランスが崩れないようにね」
 
 ただ当のL・エンリケ監督は、ファティに同じ役割を託すのは時期尚早だと否定する。

「まずはチームありきだよ。毎試合チームを勝利に導く活躍を期待するのは酷だ。今の段階でそのような役割を任せることはアンスのためにはなるとは思えない」

 アンス・ファティが13歳から16歳の時にバルサのカンテラ(下部組織)で指導したマルセル・サンスもルイス・エンリケの意見に同調する。

「アンスの課題は今のパフォーマンスを維持することだ。安定感を手にした時に初めて、彼中心の戦術を構築する可能性を考えていけばいい。重要なゴールや決定的なプレーで注目を集めているのは確かだからね。チャンスをしっかりモノにしている。誰もここまでの活躍は予想していなかったはずだ」

 さらにマルセル・サンスにかつての愛弟子がカンテラ時代にどのようなプレーを見せていたのかと水を向けると、「メッシと同じだよ。子供の頃からまったく同じプレーを見せていた。いまみんなが目にしているそのままのプレーだ。とても難しいことなんだけどね」と返ってきた。
 
 最近の活躍ぶりについてはカンテラ時代のプレーを振り返りながら次のような分析をする。

「アンスはサイドで進行方向に進みやすい身体の向きでパスを受けることができる。ウクライナ戦でもそうやってドリブルを仕掛けてPKを獲得(セルヒオ・ラモスが決めてスペインが先制)した。ファーストアクションで有利な状況に持ち込むというバルサで教えられていることをちゃんと実践している。セルタ戦でのアウトサイドキックから決めたゴール(先制点)は、得点バリエーションの豊富さを示している。

【動画】巧みな抜け出しから正確なフィニッシュ!アンス・ファティの今季3点目はこちら

 フィニッシュの精度はカンテラ時代から高かった。ヘディングの技術にも長けていて、上背に恵まれているわけではないにもかかわらず、よくゴールを決めていたよ。アンスが素晴らしいのは、姿勢が美しいところだ。カンテラの時からそうだった。まるでピッチを跳ねるように走っている」
 

 9番タイプのストライカー不在というチーム事情も重なり、バルサと同様にスペイン代表でもファティをCFとして起用する案が浮上しているが、マルセロ・サンスによると、カンテラ時代にすでに経験しているポジションだという。

「典型的な9番ではなかったが、プレーの引き出しが多い選手だからね。中に入ってパス交換したり、近くの選手とワンツーを仕掛けることもできるし、サイドのオープンスペースに飛び出したり、スピードでDFを切り裂くこともできる」

 まだ17歳。L・エンリケ監督の戦術の中心に据えるのは時期尚早という意見はもっともだ。ただそんな期待を寄せたくなるほど、アンス・ファティのプレーには大きな可能性を感じさせることもまた確かなのである。

文●ラディスラオ・ハビエル・モニーノ(エル・パイス紙スペイン代表番)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。