通信3社が相乗り出資、AI電話ベンチャーの挑戦
レブコムが展開するクラウド電話サービス「MiiTel(ミーテル)」は、電話での話し方の改善や社内の情報共有に使われている(写真:RevComm)
営業担当者が取引先と電話で話した内容がすべて文字起こしされ、営業トークが徹底的に分析される。そんなクラウドIP電話サービス「MiiTel(ミーテル)」を展開するのがレブコムだ。
通話が終わると、話し方が速すぎなかったか、一方的に話していなかったか、抑揚は適切だったかといったデータが表示される。担当者が自分の会話を振り返り、その後に生かすことができる。
文字起こしがあるため通話内容の社内共有がしやすく、属人化も防げる。「セールスフォース」などの顧客管理システムに会話内容を抜粋して保存しておけば、やりとりの内容を簡単にほかの担当者に引き継ぐことができる。
クラウド電話ということもあり、会社番号宛ての電話を会社の電話機で取るということもなくなる。電話機がいらなくなるためコスト削減につながるほか、パソコンのブラウザやスマートフォンのアプリで通話できるため、コロナ禍で急速に進むテレワークも追い風だ。
15億円を調達、マーケと開発を加速
導入企業は現在約300社、ユーザー数は1万1000人を超えた。創業者の會田武史代表は、「2018年の発売以来、ユーザーの紹介などでマーケティングの費用をほぼ使わずにユーザー数を伸ばすことができた」と話す。
「ミーテル」で表示される通話解析結果の画面。グラフは自分と通話相手それぞれの会話量を表す(画像:RevComm)
コロナ禍での需要拡大や財務基盤の強化に向け、2020年4月以降、レブコムは資金調達を加速。4月の8億円の調達に続き、10月5日には追加で7億円を調達した。「広告宣伝や研究開発、人材採用といった攻めの投資はもちろん、不況に備えて手元資金を厚くしたかった。今回の調達で売り上げが立たなくても5年間は事業を続けられるだけの資金を確保した」(會田氏)。
今回の7億円は事業会社やベンチャーキャピタルなど計10社から調達した。注目すべきは、通信キャリア大手3社が“相乗り”で出資したということだ。NTTドコモ傘下のベンチャーキャピタルであるNTTドコモ・ベンチャーズ、KDDIが運営するKDDIオープンイノベーションファンド、そしてソフトバンクグループ傘下のディープコアだ。各社とも積極的にベンチャー投資を行っているが、3社が同時に出資するのは異例だ。
會田氏は3社の出資の背景について、「どこか1社に肩入れするのではなく、僕らがハブとなって新たな産業をともにつくっていきたいという考えがあった。各社とも法人向けに音声関連のソリューション販売などを手がけており、さまざまな連携の仕方が考えられる」と説明する。
キャリア3社に限らず、出資元の事業会社とは業務提携の側面もある。ミーテルの裏側で音声を認識し、話し方を解析するAIはすべて自社開発だ。今後はこの音声解析エンジンを外部企業にも販売し、新たなサービス開発に役立ててもらう狙いだ。
2020年4月に出資を受けたパーソルグループやエン・ジャパンといった人材会社では面接や社内面談での活用を想定するほか、すでに介護や不動産などの業界で導入が始まっているという。
電話営業の属人化を痛感
単に音声を文字に変換するだけであればアマゾン ウェブ サービス(AWS)やグーグルが提供する音声認識のクラウドサービスがあるが、ミーテルのような話し方の解析まではやっていない。會田氏は三菱商事に勤務していた頃に電話営業の属人化を痛感。事業化を決めると、AIの論文を読み込み、イベントや知人の紹介などでエンジニアをかき集めたという。
會田武史代表は三菱商事出身、ウクライナやサウジアラビアなどでの駐在も経験。今後レブコムとしてはインドネシアなど東南アジアへの進出も計画中だ(写真:RevComm)
レブコムで研究開発を専任で担うのが7人。いずれも大学院や企業の研究所で音声合成や自然言語処理などの研究に取り組んできた人材だという。「一朝一夕には作れないものばかりで、参入障壁は高いと思う。一方でまだまだ改善すべき技術は山ほどある」と平村健勝CTO(最高技術責任者)は話す。
クラウド電話を実現するには、クラウド上に構築したソフトウェア基盤と通信事業者の回線をつなぎ、音声通信を安定させるための工夫が必要だ。また通話の文字起こしなど音声認識の精度に関しては、顧客の営業現場やコールセンターで蓄積された約2200万件の通話データがカギだ。これを基にディープラーニングの仕組みで学習したシステムと、自社エンジニアによる文字変換などの微調整により、精度を上げているという。
強みである話し方の解析は「細かい技術の積み重ねだ」(平村氏)。呼び出しや保留の音と人の声を聞き分けたり、自分が話す側なのか聞く側なのかの判断、句読点を入れる位置、社内や業界の用語の認識など、20〜30の技術を組み合わせている。
「いろいろなものに“ミーテル入ってる”という世界を目指したい」(會田氏)。今後は会議の会話解析や営業のアポイントを取るAIのサービスのほか、コロナ禍で延期したアジアを中心にした海外展開も模索する。