筑波大時代のFW三笘【写真:小室功】

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川崎アカデミーで育ち筑波大へ進学 「当時の自分には自信がなかった」

 ある大卒ルーキーが今季のJリーグをざわつかせている。

 そういえば、大半のサッカーファンはすぐにピンとくるだろう。現在8ゴールでJ1得点ランキング7位タイにつける川崎フロンターレのMF三笘薫だ。

 ボールの置きどころ、右足アウトサイドを使った緩急自在のドリブル、相手を腰砕けにする効果てきめんの切り返し。ブラジル代表の10番、FWネイマール(パリ・サンジェルマン)を彷彿とさせるプレースタイルで、相手DFをきりきり舞いさせ、ゴールを積み重ねている。

 選手層の分厚い川崎だけに、まだまだスタメン定着とはいかない。だが、ひとたびピッチに立てば見るものを惹きつけてやまず、ゴールに向かうプレーが何しろ“エグい”のだ。

 記念すべきJリーグ初得点は、7月26日に行われたJ1第7節、ホームでの湘南ベルマーレ戦(3-1)だった。相手選手のトラップミスを逃さず難なくボールを奪うと、そのまま一気に加速。ペナルティーエリア内まで進入し、追いすがる相手をいなし、迷いなく右足を振った。交代出場から20分後の後半33分、ニアサイドを射抜いたこの一撃はチームを勝利に導く逆転弾でもあった。

 8月に入ると、公式戦5試合連続ゴールを決めるなど瞬く間に知名度を上げた。“三苫”と間違えられることが少なくなかった名字も、“三笘”と正しく知られるようになった。

 小学生の頃から川崎のアカデミーで育ち、トップ昇格の道も用意されたが、本人曰く「当時の自分にはプロでやっていくだけの自信がなかった」そうで、大学サッカー界の名門・筑波大に進学。持ち味であるドリブルを武器に、すぐさま頭角を現していく。

 大学2年生の時に出場した第97回天皇杯のベガルタ仙台戦で、開始6分に50メートル近い単独ドリブルから先制ゴールを奪ってみせた。3年生の夏に古巣・川崎入りが内定し、4年生になった昨年9月に特別指定選手としてルヴァンカップに出場。プロへの階段を順調に上っていた。

 大学時代の三笘は、“違い”を生み出す別格とも言える存在だった。観客席からよく感嘆の声が上がり、一挙手一投足に視線が集まった。だが、消えている時間も少なくなく、ワンプレーの衝撃があまりに大きいゆえに、物足りなさを感じさせる試合もあった。それは天賦の才を持つものに共通する一つの傾向かもしれない。

 いわゆる、もっとできるんじゃないか、もっとやらなければいけないんじゃないか症候群――。関東大学リーグのベストイレブンに3年連続選出されているものの(2017年、18年、19年)、得点王やアシスト王、新人賞、ベストヒーロー賞といった個人的な賞とは無縁だった。

シュート決定率「42.1%」は得点ランキング上位で圧倒的な数字

 大学生活最後のシーズンを戦っていた三笘に目下の課題を尋ねると、「ボールをもらう前の動きの質を上げること、ゴールに向かってスプリントする回数を増やすこと、そして守備」と丁寧に答えてくれた。人柄の良さが滲みあふれ、何がなんでも結果を出す――そんな貪欲さを感じさせるタイプではなかった。

 だが、今は違う。

 三笘といえど、川崎では試合に出るのが当たり前じゃない。出場チャンスを増やすために、短い時間でも結果を出そうという熱が伝わってくる。

 特筆すべきはJリーグが公表するシュート決定率だ。16得点を挙げて得点ランキング1位のオルンガ(柏レイソル)が22%、11得点で続く2位のエヴェラウド(鹿島アントラーズ)が15.7%。それに対して三笘は42.1%と、上位陣のなかで圧倒的な数字を叩き出している(9月22日時点)。

 眩いばかりの快進撃を見せられたら、他チームとしてもただ手をこまねいているわけにはいかない。“三笘包囲網”は一段と厳しさを増すはずだ。それを得意のドリブルで打ち破っていくのか、はたまた封じ込まれてしまうのか。

 若きアタッカーの真価が問われる。(小室 功 / Isao Komuro)