日産「ルークス」実際に乗って感じた期待と欠点
今回、試乗した「ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション」(筆者撮影)
2019年に日本で販売された乗用車(普通乗用車+小型乗用車+軽乗用車)は約430万台だが、そのうちおよそ148万台は軽乗用車。つまり、乗用車販売の約35%が軽自動車となる。
そんな軽自動車マーケットの中心になっているのが「スーパーハイトワゴン」と呼ばれるジャンルだ。2019年の実績では、軽乗用車の販売のうち約40%がスーパーハイトワゴンで、その比率は今後さらに高まると予測されている。
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スーパーハイトワゴンの王者はホンダ「N-BOX」で、2019年は25万3500台を販売。以下、17万5292台のダイハツ「タント」、16万6389台のスズキ「スペーシア」と続いて“3強”を形成している。
日産にも「デイズルークス」というスーパーハイトワゴンが存在したが、これまでは上位に食い込めず……という状況だった。
「デイズ」とはまったく別設計
そんな中、日産はシェア拡大の期待を込めて「デイズルークス」をフルモデルチェンジ。名前を「ルークス」とすることで“デイズシリーズ”から独立させた。
その理由について日産は「マーケットが変化したから。以前はハイトワゴンの市場ボリュームのほうが大きかったが、ここ数年でスーパーハイトクラスの存在感が増したので『デイズ』から切り離した」と説明する。
2019年3月に発売されたハイトワゴンの「デイズ」(写真:日産自動車)
ハイトワゴンの「デイズ」は、先行して1年前にフルモデルチェンジを実施しており、新型ルークスもプラットフォームと呼ばれる車体の基本骨格やパワートレインは共用している。しかし、パッケージングは今回の新型ルークスとまったくの別設計だ。
デイズなどハイトワゴンの全高は1650mm前後が中心だが、ルークスのようなスーパーハイトワゴンではそれより100mmほど高い。しかし、単に天井が高いだけでなく、リヤシートの取り付け位置をより後方にして後席の足元を広くしているのが、大きな違いだ。結果として、後席は驚くほどの広さを実感でき、それが人気の理由になっている。
さらに、後席にはスライドドアを備えるのも、ハイトワゴンと差別化される点の1つ。
スライドドアのメリットをおさらいしておくと、開いたドアが張り出さないため、車体の横に広いスペースのない駐車場でもドアを全開にできることと、開いたドアが乗り降りの邪魔をせず乗り降りしやすいこと、そしてチャイルドシートに抱きかかえた赤ちゃんを座らせやすいことも挙げられる。
後席が広くて乗り降りしやすいという、ユーザーにとってわかりやすい長所を持つクルマだけに、軽乗用車市場の中心となるのもうなずける。
では、新型ルークスのライバルに勝るポイントを見ていこう。
まずはパッケージングだ。ズバリ、ライバルよりも「室内が広い」。特に後席がゆったりしているのだ。後席のひざ回りスペース(後席に座った際にひざ前に残る前席との空間)はクラストップを誇る。
空間効率を高めるための工夫
とはいえ、軽自動車は車体サイズの上限が決まっているので、広さにも限界がある。では、新型ルークスはどのように後席空間を広げたのだろうか。
そこには、エンジンルーム長を詰め、車体全長に対する室内スペースの比率を高めたこと、前席の着座位置を高くしてドライバーの位置を前寄りにしたことの大きく2つのポイントがある。空間効率を高める工夫が効いているのだ。
前後ドアを開け真横から見ると室内効率の高さがわかる(筆者撮影)。
荷室の実用性にもこだわっている。320mmというクラス最長の後席スライド量を確保したことで、シートを前に出せば機内持ち込みサイズスーツケースを4つ載せることができる。これは、ライバルより1つ多い。容量とアレンジの幅広さが自慢である。
また、使い勝手の面でも、ライバル以上に思いやりを具現化している。たとえば、スライドドアの最大開口幅は650mmと、これもクラストップ。
さらに上位グレードには「ハンズフリーオートスライドドア」と呼ぶ、足の動きをきっかけに手を触れることなくドアを電動開閉できる機構を組み込むが、これも「左右とも設定している」「開けるだけでなく閉じることもできる」という2つの条件を満たすのは、ライバルの中で新型ルークスと兄弟関係にある三菱「eKスペース/eKクロススペース」のみだ。
後席の快適装備としてロールサンシェード、リヤシーリングファン、そしてUSBソケットの3つをすべて装着できるのもルークス(と三菱eKスペース系)だけ。
ルークスのパッケージングや装備を見ていると「クラストップ」や「クラス唯一」とうたうものが多いことに気づかされる。
これは、ライバルを徹底的に研究し、そのうえでライバルの上をいこうという強い決意の表れだろう。単にライバルたちを目標とするだけでなく、それを超える内容を実現したことが、ルークスのすごさと言っていい。
そして、見逃せないのが、今やクルマを選ぶ際のキーポイントになりつつある先進の安全装備や運転支援機能だ。
ブレーキ警告は2台前のクルマまで検知するように(写真:日産自動車)
たとえば、衝突しそうな際にドライバーに注意を喚起するブレーキ警告は、レーダーを使って2台前のクルマの動きまで検知し、音と表示で警報を発する「インテリジェントFCW」という機能を搭載。
いち早く危険を察知し、ドライバーにブレーキ操作を促すことで、玉突き事故を防ぐのだ。普通車でもこれを搭載している車種は限られている。もちろん軽自動車初採用だ。
高速走行で速度管理(ACC:アダプティブクルーズコントロール)とハンドル操作(車線維持)をアシストする「プロパイロット」は、ライバルの中で(三菱eKスペース系を除いて)唯一、渋滞時の停止保持まで実現。
N-BOXは、ACCや車線維持機能をほぼ全車に標準装備する強みがあるものの、速度が低くなる(車線維持は65km/h、ACCは25km/h)とシステムが休止するし、「タント」は渋滞対応こそするものの、停止保持までは行わない。
同乗者には「便利さ」と「快適さ」、ドライバーには「運転しやすさ」と「安全」を提供する。ルークスに触れると、そんな狙いを強く感じた。
視界の広さは長所だが、それゆえの難点も……
ドライバーとして運転席に乗り込んでみると、まず驚いたのは視界のよさだ。ライバルと比べても着座位置は高く、見晴らしがいい。
アイポイントやインパネ位置から視界は広く開放的(写真:日産自動車)
同時にインパネ上面に対してアイポイントの位置が高いから、インパネに視界を邪魔されにくく、背の低いドライバーでも車両前方周辺がよく見えるのも優れた部分だ。ドライバーの上下見開き角は、30度と大きい。
ただ、開放感や視界のよさを重視したレイアウトの結果として、ドライバーに対してカーナビの画面が遠く、手が届きにくい傾向は否めない。また、タッチパネルとしたオートエアコンの温度調整の操作性は、旧型に比べると向上しているものの、物理スイッチの水準には届いていない。
走りはどうか。今回、試乗したのはターボエンジンを積む「ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション」の2WDモデル。走り始めてすぐに気がつくのは、安定感と落ち着きだ。
トレッドが狭く、ホイールベースが短いわりに重心が高いスーパーハイトワゴンの動的性能は、物理特性として不利で、各社ともその走行感覚のレベルアップには苦労している。
片方の駆動輪が空転した場合に反対の駆動輪にブレーキをかけて駆動力を確保するブレーキLSD機能を搭載する(筆者撮影)
しかし、交差点を曲がる際などの安定感や落ち着きは、そんな不利な要素を感じさせないほどで、車体構造からサスペンションの味付けまでしっかりと作られていることが伝わってくる。旋回時のグラッと不安な挙動も、しっかり押さえ込まれていた。
高速道路に入り速度を上げると、車体の上下動が気になるシーンもあったが、ライバルに劣るかといえばそうは思えない。
プロパイロットは、わずか1年前にデビューしたデイズよりも制御が高度化していたことを実感した。下り坂での速度維持、前方車両との車間が詰まった際の減速制御の自然さ、車線維持機能のスムーズなステアリング制御など、一層滑らかで使いやすい自然な制御となっていたのだ。
追い越し前は、ウインカー操作に連動して車間を若干詰めて追い越しをサポートするなど、ドライバーの違和感を減らしていたのも印象的だった。
リヤシートに乗って感じたのは、音が静かなこと。騒音が大きくなりがちな高速道路走行中でも、声のボリュームを上げることなく自然に会話できることには驚いた。
今回の試乗車がエンジン回転数を抑えられるターボエンジンだったこともあるが、日産によると「デイズに比べて遮音や吸音などの対策をしている」という。
緊急事態宣言が解除されたこれからが勝負
新型ルークスは、果たして販売面でもライバルを超える存在になれるだろうか。
日産によると、発売から約1カ月(2020年4月末時点)での受注台数は3万台弱。好調なスタートを切ったと言える。しかし、4月の販売台数は王者N-BOXをはじめとするライバル“3強”よりも、低い水準にとどまった。
とはいえ、これはコロナ禍の影響を受けた結果のため、現時点で多いのか少ないかを判断するのは難しい。緊急事態宣言や外出自粛でペースが落ちていた経済活動が再開されてから、本当の勝負が始まるといえるだろう。