「社会インフラ」と呼ばれて…トイレを貸さないコンビニ、批判は正当なのか?
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、客によるトイレ利用を原則休止としていたローソン。ところが、発表翌日には、ドライバーや緊急の場合には、使えるようにすると方針転換した。
背景には、利用者の反対もあったようだ。ツイッターでは、「死活問題」などトラックドライバーらの悲鳴が確認できる。
一方、コンビニ側もドライバーの大変さはわかっている。都内のあるローソン経営者は、元トラックドライバー。「トイレの重要性は認識してます」。しかし、生活がかかっている以上、感染リスクは減らしたい。
「我々が感染してしまったら、店を閉めなければいけない。売る人間がいなくなれば、買いたい人も買えなくなってしまいます」
ネットでは、ドライバーに限らず、一般利用者からもトイレが使えないことへの批判もある。これに対し、トイレを使えるのが当たり前という発想を非難する声も増えている。
しかし、物流もコンビニも便利な社会を支えている「ライフライン」。一般利用客については議論があるだろうが、ドライバー側の意見にも、コンビニ側の意見にもうなずけるところはある。
問題の本質は、公衆トイレがないことだろう。新型コロナという厄介な感染症により、便利な社会を維持するためのコストが、コンビニ加盟店に丸投げされていることが、改めて浮き彫りになっている。
●コロナ前から現場は貸したくなくなっている長時間の居座り、まき散らされた汚物、トイレットペーパーの盗難ーー。コンビニ関係者なら一度は経験したことがあるかもしれない。
「今では当たり前に利用できるコンビニのトイレも昔は使えませんでした。最近ではマナーが欠如した人が増えて、現場は正直貸したくなくなっています」
こう語るのは関西地方のローソンオーナー。そこにきて、このコロナ禍だ。
「不特定多数の方が利用するトイレを掃除するのは、専門の業者ではなく、いちアルバイト。時給も安く、リスクでしかありません」
コンビニバイトは最低賃金近く。上げたくても原資は乏しい。ただでさえ採用が難しいし、使用者としてもリスクから守る義務がある。
「トラック運転手さんもお仕事は大変だと思います」として、「こういう時こそ、本部は専門業者に委託して清掃すればいいと思います」と語る。
●独自判断ですでに閉鎖「やぶへび」冒頭の都内のローソン加盟店では、アルコール消毒液やトイレットペーパーの不足により、店舗判断で3月からトイレを閉鎖していた。
「苦渋の決断でしたが、特にクレームはなく、『仕方ない』とあきらめてくださる方ばかりでした」
そこにローソンがトイレ休止の方針を発表。現場のことを考えてくれているのだと、嬉しく思ったそうだ。しかし、わずか1日での方針転換。
「ドライバーや緊急かどうかなんて、パッと分からないでしょう。これまで平穏に閉鎖できていたのに、これからは『緊急だったら借りられるんでしょ』と言われると思います」
ドライバーの不便さは理解しつつも、マナーの悪い客のために、なし崩し的に利用が拡大することを懸念している。
●行政がコンビニにフリーライド?「コンビニ=トイレ」は、多くの日本人にしみついている。ネットには「もうローソンは利用しない」という投稿も少なくなかった。
ファミリーマートのオーナーでもある、コンビニ加盟店ユニオンの酒井孝典執行委員長は、「コンビニは公衆トイレではないのに、世の中の人がそう思ってしまっている」と語る。
「『当たり前』だから、マナーも悪くなる。本来は公園とかに行政がつくるもの。お金がないから、いろんな機能をコンビニに任せている」
2019年から2020年にかけて開かれた、経産省の「新たなコンビニのあり方検討会」では、コンビニの「社会インフラ」としての機能に世の中がフリーライドしてはいないかという議論もあった。
さまざまなサービスを提供し、客を増やそうとしてきたコンビニ本部と、それに乗っかってきた行政。しかし、加盟店からは負担に見合った利益が出ていないという声が出ているーー。検討会の報告書にもこういう趣旨の記載がある。
「人件費が年々あがり、ギリギリの加盟店は少なくない。トイレに限った話ではなく、社会インフラとして組み込むのなら、(コンビニ関係者が)最低限の生活ができるよう、維持する仕組みを考えてもらいたい」(酒井委員長)
なお、トイレの利用については、ローソンにも、「売上が下がる」「駐車場でされるのは嫌」などとして、封鎖に反対したオーナーが一定数いたことも補足しておきたい。