薬の持つ特徴を知っておいて損はない(写真:GrandJete/PIXTA)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、さまざまな医療情報が飛び交う中で、解熱鎮痛剤の「イブプロフェン」をめぐる情報が錯綜している。

世界保健機関(WHO)は新型コロナに感染している疑いがある場合について、その症状が抗炎症薬「イブプロフェン」によって悪化するおそれがあるとの指摘を受けて、自己判断での服用を控えるようにいったんは呼びかけたが、その後、「控えることを求める勧告はしない」と見解を180度変えた。

イブプロフェンは発熱時や痛みがあるときに、日常的に誰もが使う可能性がある身近な薬。新型コロナウイルスに対して有効なのか、あるいは弊害があるのかどうかなどについては、専門機関による本格的な研究結果を待たねば結論は出ないが、服用するにせよ、しないにせよ、そもそもこの薬の持つ特徴を理解して、安全な服用に必要な注意事項を確認しておいて損はない。

頭痛、生理痛や発熱、炎症を抑える

イブプロフェンという成分の名前ではピンとこなくても「イブ」「ナロンエース」「ノーシンピュア」などの商品の名前を聞けば身近に感じるのではないだろうか。

イブプロフェンは、テレビCMでおなじみのロキソプロフェン(商品名:ロキソニンSなど)や、アスピリン(商品名:バファリンAなど)などと同じく抗炎症薬のうち非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に分類される。

関節の腫れなどの炎症症状、頭痛、生理痛などの痛みや、発熱があるときに、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用という3つの作用を発揮してつらい症状を和らげてくれる。

さまざまな症状に有効性があるNSAIDsはいいことだらけの薬に思えるかもしれないが、決してメリットだけをもたらしてくれるわけではなく、時には私たちの体に好ましくない影響を及ぼすこともある。

イブプロフェンなどのNSAIDsを薬局でもらうときに、薬剤師から「空腹時は避けて飲んでください」とか「ひとくちでもいいので何か食べてから飲むように」と言われたことはないだろうか。「具合が悪いのに食事なんてできるか」と思う人もいるだろうが、薬剤師のしつこい注意の裏には理由がある。胃を守るためだ。

NSAIDsを飲むと胃がムカムカすることがある。これはNSAIDsによって胃粘膜を保護する力が低下したり、NSAIDsが直接粘膜にダメージを与えたりして起きるとされている。このうち、粘膜に直接及ぼされるダメージは胃の中に食べ物があることによって軽減すると考えられている。だから胃を守るために、薬剤師は口を酸っぱくして「なにか食べてから」と訴えるのだ。

「食欲がない」「胃がムカムカする」といった症状は胃の粘膜へのダメージが軽いうちにみられる症状で、ひどくなると胃や十二指腸の粘膜が傷ついて胃潰瘍や十二指腸潰瘍になって、そこから出血することがある。

厚生労働省が公表している「重篤副作用疾患別対応マニュアル 消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、NSAIDs潰瘍)」によると、胃潰瘍の自覚症状としては一般的に上腹部を中心とした疼痛がみられるという。ところがNSAIDsによる潰瘍の場合、NSAIDs自身が発揮する鎮痛作用のためか痛みを自覚症状として感じる頻度が低いとされている。

したがって早期発見には、一般的な自覚症状であるみぞおちの痛みをチェックするだけでは見落としてしまう可能性がある。便が黒くないか、出血による貧血でめまいや労作時の息切れはないかといった症状についても気に留める必要があるだろう。

「でも潰瘍なんて、長い間NSAIDsを飲んでいる人だけの話でしょう? たまにしか飲まない自分には関係ない」と思った人がいるかもしれないが、油断は禁物だ。

NSAIDsによる潰瘍が起きやすい時期は服用初期、とくに最初の1週間に起きることが多いとされている。風邪を引いて熱が出たときや、頭痛がしたときなど、ほんの短い期間だけ服用するようなケースにも起こりうる。

暑くなる時季は脱水に注意、腎臓にダメージも

とくに気をつけたいのは65歳以上の高齢の人、過去に消化性潰瘍になったことがある人、ほかのNSAIDs等の併用薬がある人などだ。これらの要素はNSAIDsによる潰瘍発症のリスクを高めるとされている。少し面倒だと思うが、併用薬がある場合は自己判断での服用はなるべく避けて主治医や薬剤師に相談することが勧められる。

これからの汗ばむ時季に向けて、イブプロフェンなどのNSAIDsを服用する際に気をつけたいのが「脱水」だ。NSAIDsの服用に脱水が重なると腎臓に十分な血液が供給されずに腎機能が低下する「急性腎障害」を起こす可能性が高まるためだ。

NSAIDs服用中に急性腎障害を起こすリスクとしては「脱水」のほかに「発熱」「食事量の減少」「誤って多量に服用した場合」「ほかの併用薬がある場合」などが挙げられる。想像してみると、いずれのリスクもNSAIDsを服用するときに同時に起こりそうな状況だ。

では、いったいどのようにして腎臓を守ればいいのだろう。厚生労働省が公表している「重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性腎障害(急性尿細管壊死)」によると、急性腎障害は多くの場合は原因を取り除くことで進行を止め、改善させることが可能だという。しかし、中には受けたダメージがもとに戻らない場合もあるため、急性腎障害が起きるリスクを知って、予防に努めたり、早期発見・早期治療に結びつけたりすることが大切だ。

腎臓を守るために誰にでも取り組めることは2つある。まず、併用薬等の薬のことで心配や疑問があれば遠慮なく薬剤師に相談するということ。もう1つは脱水予防のために水分をしっかり摂るということだ。

飲み水だけに注意していてもダメで、食事の量にも留意するのがポイントだ。なぜなら1日に必要な水分2.5Lのうち飲み水から摂取する分が1.2L、それに匹敵する1Lが食事に由来するためだ(残りの0.3Lは体内で作られる)。体調不良で食事が摂れないと、気がつかないうちに水分不足に陥るおそれがある。

発熱するなどして体調が悪いときには「のどの渇きを感じる前に」を目安に、こまめに水分を摂ることを心がけるといいだろう。体の中から体重の約1%の水分が失われると自覚症状として「のどの渇き」が現れると言われている。

アセトアミノフェンの服用リスクは?

このようにNSAIDsの服用にはメリットだけではなくリスクもある。ではWHO が自己判断でのイブプロフェン服用を避けるよう呼びかけていた際、代わりに使用することを勧められていた解熱鎮痛薬「アセトアミノフェン(国際一般名称:パラセタモール)」はどうなのだろう。服用にリスクはないのだろうか。

結論から言うとアセトアミノフェンにも服用にリスクはある。アセトアミノフェンは解熱作用と鎮痛作用をもつ薬で、炎症を抑える力はあまり強くない。NSAIDs とは異なる仕組みで熱を下げたり痛みを和らげたりする作用を発揮すると考えられており、NSAIDsで問題となる消化管などの副作用が少ないとされている。

一方でアセトアミノフェンを服用するときに気をつけたいのは肝障害だ。日常的に多量のアルコールを飲む人では肝障害のリスクが高まる。アルコールの量については添付文書に記載されていないが、厚生労働省は「節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコールで20グラム程度」としている。純アルコール20gはビール中ビン1本、日本酒1合、チューハイ(7%)350mL缶1本などに相当する。この量を超えるような飲酒を日常的にしている人は、アセトアミノフェン服用の際に医師や薬剤師に相談することが勧められる。

また、アセトアミノフェンを高用量服用した場合にも肝障害のリスクが高まる。誰もが陥りがちなのが「うっかり」でアセトアミノフェンを重複して服用するケースだ。

心配や疑問があれば薬剤師に相談しよう

アセトアミノフェンは市販されている多くの風邪薬(商品名:パブロンSゴールドW錠、新ルル-A錠sなど)や、解熱鎮痛薬(商品名:新セデス錠、ノーシン錠など)に含まれている。たとえば風邪薬を飲んでいる人が、熱が出てきたので解熱鎮痛薬を使うといった場合に気づかないうちにアセトアミノフェンの服用量が増えるおそれがある。


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アセトアミノフェンと同じように、熱さましや痛み止めとして使用することが多いイブプロフェンなどのNSAIDsにも、脱水、食事量の減少、空腹時の服用、飲む人の年齢など、副作用発生のリスクを高める「うっかり」陥りがちな落とし穴がたくさんある。

だからこそ、もし自分の判断で使用する際にはメリットだけではなく、リスクも知ったうえで慎重に使用したい。併用薬がある人や、服用に際して不明なことや不安がある場合は、ドラッグストアや薬局にいる身近な医療従事者である薬剤師に遠慮なく相談しよう。