アップルが、手ごろな価格で購入できる新しいiPhoneを今春以降に発売する、というウワサが出ています。そして、傍らでは「AirPods Pro Lite」という名前のAirPodsの兄弟機の準備も進んでいる――という気になる話も。毎年200モデルを超えるさまざまなイヤホン&ヘッドホンをレビューしている筆者が、最先端の完全ワイヤレスイヤホンのトレンドに照らし合わせながら、AirPods Pro Liteにどんな機能が載ることになりそうか、勝手に見どころを予想(妄想?)してみたいと思います。

2016年9月に発表され、世界中に大きな驚きをもたらしたAirPods。春から夏にかけて、噂の低価格版AirPods Proは登場する可能性はあるのか、完全ワイヤレスイヤホンの最新トレンドに照らし合わせながら、その姿を予想してみたいと思います


AirPods Pro Liteは「iPhoneとの関係性」に要注目

アップルの完全ワイヤレスイヤホンは、2016年末の販売開始以来、大ロングヒットになったオープン型ハウジングの「AirPods」と、2019年秋に発売されたノイズキャンセリング&外音取り込み機能を搭載する上位モデル「AirPods Pro」があります。AirPodsは、2019年に発売された第2世代機からワイヤレス充電に対応しています。

アップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」(左)と「AirPods」(右)。定番となったこの2機種に続く“第3のAirPods”は、今年本当に発売されるのでしょうか?


この2機種だけでも、完全ワイヤレスイヤホンの直近のトレンドを広くカバーできていると見ることができます。特に、AirPods Proに刺激されて、2020年以降はノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホンが増えるだろうと筆者は予想しています。

強力な2本の柱に加わる“第3の役者”となるアップルの完全ワイヤレスイヤホンに、皆さんは何を期待しますか? 本当に「AirPods Pro Lite」という名前になるのかは分かりませんが、筆者は「Lite」という名称が浮上したことに注目して、新しい製品のイメージをふくらませてみたいと思います。

Liteという言葉の意味は「軽い」「簡易な」「入門向け」など、さまざまな捉え方ができます。筆者は少し前に、「次期iPhoneにはAirPodsが付属するのではないか」というウワサが立っていたことを思い出しました。もしかすると、AirPods Pro LiteはiPhone SEの後継モデルと言われている新iPhoneのパッケージにバンドルされるか、または100ドル〜150ドル(約11,000円〜16,000円)前後の手ごろな価格で買えるオプションとして用意されるAirPodsなのではないかとみています。

アップルが、今春以降に「iPhone 8」(写真)に姿形がよく似ている、手ごろな価格で購入できる新しいiPhoneを計画しているというウワサがあります。新しいAirPodsは、この新iPhoneと関係の深い製品になることも考えられそうです


○単なるLite版じゃない? 新機能の搭載もあり得る

AirPods Pro Liteは、比較的安価に購入できるぶん、機能はいくぶん簡略化されるはず。ウワサの通り、AirPods Proの「Lite版」なのだとすれば、きょう体はカナル型イヤホンのAirPods Proがベースになるでしょう。もともとイヤーチップによるパッシブな遮音効果(耳栓効果)が十分に高いイヤホンなので、アクティブ・ノイズキャンセリング機能は省略され、同時に外音取り込み機能も非搭載になりそうです。

シリコン製のイヤーチップによる高い遮音性を実現したAirPods Pro。もし、次世代のAirPodsがそのデザインと機能性を引き継ぐのであれば、あえてLite版としてアクティブ・ノイズキャンセリング機能は省略してくる可能性もあり得ると思います


2019年3月に発売された第2世代の「AirPods」から搭載するハンズフリーの「Hey Siri」は、内蔵マイクが常にユーザーの音声コマンドを待機している状態にするため、SoCであるApple H1チップに負荷をかけます。これを、ステム(イヤホンの軸の部分)に内蔵するセンサーの長押し操作で使う時だけ呼び出せるようにして、さらに専用ケースのワイヤレス充電も省略すれば、音楽再生やハンズフリー通話のために必要十分な機能を残しながら、かなり“Lite”なイメージになってきたと思います。

2019年春に発売された第2世代のAirPodsに搭載された、ハンズフリーで“Hey Siri”に対応する機能。Lite版のAirPodsでは省略される可能性が高いと筆者は予想しています


ワイヤレス充電に対応するAirPodsのケース。こちらもLite版では省略されるかもしれません


ただ機能を削るだけではつまらないので、“第3のAirPods”らしい新たなフィーチャーもきっとアップルは用意してくるはずです。例えば、本機専用のSoCとして「Apple L1」(またはH2とかH1Lかも?)を新規に起こすかもしれません。

機能を簡略化したぶん、イヤホン単体による連続音楽再生は約10時間前後にまで伸ばせる可能性があります。あるいは、iOSデバイスが搭載するApple AシリーズのSoCとペアリングした時に、ワイヤレスによるデータの圧縮効率を高めて、ハンズフリー通話の音声品質を高めたり、または遅延(レイテンシー)を改善するための新技術が盛り込まれたら画期的でしょう。米クアルコムがモバイルのSnapdragonシリーズとオーディオのQCCシリーズのペアで実現している、イヤホンの接続安定性を高めるための「Qualcomm TrueWireless Stereo Plus」や、昨年末に発表したVoLTE並みの高品位な音声通話品質をBluetoothヘッドセットで実現する新コーデック「aptX Voice」のようなイメージです。

もし実現すれば、5G対応iPhoneのローンチに向けた重要な布石になると思います。特に、AirPodsによる音声伝送の遅延がさらに改善されれば、アップルが2019年にローンチした定額制ゲーム配信「Apple Arcade」にも勢いが付くのではないでしょうか。

AirPodsで音声の遅延がさらに抑えられれば、アクションゲームの多い「Apple Arcade」に弾みがつきそうです


さらに、あとひとつAirPods Pro Liteに関する妄想を膨らませるとすれば、AirPods Proの発売直前にウワサになった「カラバリ追加」が、いよいよここで現実のものになる可能性もあると思います。

AirPods Pro Liteの価格が、筆者の予想する1万円台前半から中ごろになるとすれば、通常の場合はさまざまな機能を載せたり新技術に挑戦すると、メーカー側にとっての開発生産コストと釣り合いが取れなくなるもの。しかし、アップルの場合は新しいiPhoneとAirPodsをペアで一緒にプロモーションをかけて、数を多く販売することによってギャップを埋められる強みがあります。もし、アップルが2020年をiPhoneとAirPodsの革新・拡大にとって重要な時期に位置づけているのであれば、ここで魅力的な製品を投入して一気にスパートをかけてくることも十分にあり得ると考えます。

○アップル初のヘッドホンだとすると「Beatsにないもの」が求められる

ウワサのAirPods Pro Liteは、実は「アップル初のヘッドホン」ではないかと予測する向きもあるようです。せっかくなので、ヘッドホンについても勝手に妄想を膨らませてみましょう。

アップル傘下のファミリーにはBeats by Dr. Dreという、イヤホン&ヘッドホンを中心に手がける、若い音楽ファンを中心に人気を集めるブランドの存在があります。アップルが独自にヘッドホンを商品化するならば、“Beatsがやっていないこと”に踏み込まなければ意味がないと思います。となると、アップルが次世代のヘッドホンに「革命」を起こす必要があります。

Beats by Dr.Dreから発売中のアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するオンイヤースタイルのワイヤレスヘッドホン「Solo Pro」。すでに高い完成度を備えるBeatsのヘッドホンとアップルのヘッドホンは、どのようにすみ分けられるのでしょうか


筆者は、それが「ヘッドホンで楽しめるイマーシブオーディオ」だと考えています。イマーシブオーディオは「3Dオーディオ」と呼ばれることもある立体音響のこと。映画やゲーミング用などで3Dサラウンドが楽しめるヘッドホンはすでに数多く発売されていますが、iPhoneとポータブルタイプのヘッドホンを組み合わせるだけで、一般的な音楽コンテンツもライブ感あふれるイマーシブ(3D)サウンドで楽しめたら最高だと思いませんか?

ソニーのイマーシブオーディオの技術「360 Reality Audio」は、北米や欧州ではTIDALなどの音楽配信サービスと連携して、ポータブルオーディオ向けの展開を始めています。一般的なステレオヘッドホンやイヤホンで楽しめるのが大きな特徴です


Apple Musicにイマーシブオーディオのコンテンツが加わる可能性はあるのでしょうか。楽しみです


○Wi-Fiや立体音響、画期的な充電にも期待

いまのBeatsのラインアップを見渡すと、「Wi-Fi機能を内蔵するヘッドホン」が不在です。例えば、iOSデバイスで初期セットアップを済ませたら、あとは家のWi-Fiに接続してApple Musicのサービスを直接ストリーミングしながら聴けたり、AirPlay 2を活用してiPhoneから音楽コンテンツをキャストして聴けるヘッドホンがあれば、家の中でiPhoneから離れた場所でもより快適に音楽リスニングが楽しめそうです。

Wi-Fi内蔵のヘッドホンでストリーミングしながら聴けるコンテンツの中に、イマーシブオーディオに対応する音楽コンテンツも含まれてくるのではないでしょうか。現在、イマーシブオーディオのコンテンツ制作と、対応する機器同士による再生環境を提供する技術のひとつに、ソニーが開発した「360 Reality Audio」(サンロクマル リアリティ オーディオ)があります。現在、ソニーはAmazon Musicのほか、海外の音楽配信サービスのプラットフォームにこの技術を提供していますが、Apple Musicのプラットフォームが360 Reality Audioに対応するというサプライズがあっても不思議はないと筆者は考えています。

アップル初のヘッドホンは、高級価格帯の商品になるというウワサもあります。現在発売されているハイエンドクラスのヘッドホンと機能的に肩を並べるとしたら、アクティブ・ノイズキャンセリングに外音取り込みは必須。ハンズフリーのHey Siri対応も欲しいところです。さらに、スカルキャンディの「Crusher ANC」など一部のモデルが採用を始めた、ヘッドホンによる音の聴こえ方をユーザーの耳に合わせて最適化できるパーソナライゼーション機能を載せてもいいと思います。

さらには、ワイヤレスヘッドホンを「充電」する手間からいつか解放されたいものです。アップルが、もし「充電の要らないワイヤレスヘッドホン」を実現してくれたら革新的だと思いませんか? ワイヤレス充電を一気に飛び越して、街を歩いている間に本体内蔵のソーラーパネルがバッテリーをチャージしてくれれば画期的です。

ハーマンインターナショナルがCES2020に出展した、本体にソーラーパネルを搭載して内蔵バッテリーを太陽光や室内光でもチャージできるワイヤレスイヤホン「JBL Reflect Eternal」。Indiegogoでのクラウドファンディングを経て、一般販売も期待されています


あるいは、収束赤外線ビームの技術を使って、端末を部屋の中に置くだけで遠距離ワイヤレス充電を実現する「Wi-Charge」のように、将来性も有望でカッティング・エッジな技術をいち早く採り入れたワイヤレスヘッドホンだとしたら、実にアップルらしくて魅力的だと思いませんか?

赤外線を使った遠距離ワイヤレス充電技術「Wi-Charge」はイスラエルに拠点を置く会社が開発。日本ではNTTドコモがパートナーとなり、モバイル・IoT分野での実用化に向けた開発を進めています


何はともあれ、今年もアップルの“次の一手”からは目が離せそうにもありません。