宇多田ヒカルも口にした「天然水」の美味しさを育む、“ふかふか森”のヒミツ
日本にミネラルウォーターブームを起こしたサントリーの「天然水」。宇多田ヒカルらが出演してきたCMで映る、清流や湧き水こそ“ソレ”だと思っていたが、実は「天然水」の正体は地下水だった。事実を解明すべく、“おひざ元”の南アルプス白州工場に行くと──。
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ユネスコも認めた“水の森”
「“南アルプスの天然水”って、川に流れる雪解け水を汲んでいるんじゃないの!? 本当は地下水を汲んでいるの!? それって天然水なの?」
そんな疑問の声があちこちから聞こえてきそう。あの「南アルプスの天然水」は地下水だった──。その答えと仕組みを教えてくれるのが、3000m級の山々に囲まれた山梨県北杜市にある「サントリー天然水 南アルプス白州工場」だ。
もともとは'73年に、ウイスキー工場として開場した白州蒸溜所。そのウイスキー製造に不可欠なおいしい水を手軽なペットボトルという形で家庭にも届けたい──、との思いから'96年に同工場が誕生。昨年4月にはリニューアルオープンを遂げて展示物もバージョンアップするなど、水の大切さを学べる工場として人気を博しているのだ。
まず、訪れてビックリするのが、八ヶ岳&南アルプスを眼前に望む雄大な大自然。工場の敷地内には、自然と野鳥の散策路が整備された「バードサンクチュアリ」も併設されていて、実際に森の中を散策することができる。
「南アルプスの森には動物たちだけでも約3000種類、植物も約2000種類近く生息・生育しています。『ユネスコエコパーク』に正式に承認されているんですよ」
と、案内してくれたガイド担当の中村さん。ユネスコエコパークとは、豊かな生態系かつ、経済活動を進めて地域の自然資源を活用して持続可能な生物圏保存地域。国内では屋久島、志賀高原など10か所しか承認されておらず、いかに南アルプスが特別な森であるかがわかる。
地下水でも安心な秘密
一方で、大自然の中にある工場内はまるで最新鋭の博物館のような清潔さ。天然水のプロセスを解説するプロジェクションマッピングや、臨場感あふれる出荷直前の包装ラインの工場風景が飛び込んでくるあたりは、アミューズメントパーク顔負けの舞台演出! 子どもはもちろん、大人までも惹き込まれる。
とはいえ、冒頭の「天然水は実は地下水」だという“もやもや”が頭によぎる。塚本祐二工場長が、取材に答える。
「降雨や降雪で森に降りた水は、自然の生態系が育てた特有のふかふかの土にためられて、幾重もの地層にゆっくりゆっくりと浸透していきます。
その後、南アルプスの特徴でもある“花崗岩”と呼ばれる岩盤をくぐりぬけることで、ナトリウムやカルシウムなどのミネラルがほどよく水に溶け込んでいきます。そうして地下水となってしみこんだ水が、サントリー天然水の源となるのです」
私たちがイメージしていた、山の合間を縫うように流れている清水は、ただの雪解け水であって天然水とは別物。「南アルプスの天然水」とは、ほどよくミネラルを含み、花崗岩(かこうがん)を通過することでおいしくなる、なおかつ身体にいい水だったのだ。
さらに、
「土の中にいる微生物も水をきれいにしてくれる役目があります。木が密集しすぎると、土に光が当たらなくなるため、切ってまばらにする間伐を行います。豊かな動植物、そしてふかふかの土、岩盤といった条件がそろわなければ、森はおいしい水を育んでくれません」(塚本工場長、以下同)
見学では、土壌と岩盤がどのような役割を果たしているのかパネルなどを使って説明してくれるので、天然水と森への理解がさらに深まるはず。雨や雪の水を大事に育ててくれる南アルプスの森。思わず静寂のかなたに「ありがとう!」と叫びたくなる。
「地下水を汲み上げ、砂や葉っぱなどを除去して熱殺菌するだけで極力、人の手は加えません。それがサントリーのミネラルウォーターである“天然水”なのです」
森を育て次世代へつなぐ活動も
もちろん、薬品などは一切使用しない。化学検査で水の成分こそチェックするが、水に異常がないかを調べるために、官能検査員と呼ばれるエキスパートが目、鼻、舌で確認する。各工程における味やにおいの違いを判別できるというからオドロキだ。
それにしても包装ラインを見ていると、大量の天然水が次々と運ばれていく。いつか資源がなくなってしまうのではないか!? なんて心配してしまう。
「採水しすぎないようコントロールしているので、ご安心を(笑)。それにみなさんの想像を超えるほどに、森はたくさんの水を育んでくれます。われわれは、全国の工場で汲み上げる地下水の2倍の水を育む森を育てているんですよ」
サントリーでは全国15都道府県で21か所に「天然水の森」をつくり、水を育む活動に取り組んでいる。その多くは工場とは関係なく、豊かな森と水を守り次世代へとつなぐ環境活動が目的なのだそう。
普段、気にもせずに当たり前のように飲んでいた天然水だが、工場見学を終えた後はなんだかいつも以上においしいと感じてしまう。水への理解と感謝を学べる──、“水と生きる”大切さを教えてくれるツアー、オススメです♪
大人の特権!? 「白州蒸溜所」で希少なウイスキーを試飲したい
南アルプス白州工場では、「白州蒸溜所ツアー」と題して、臨場感のあるウイスキー製造工程を見学することも可能だ。木桶発酵槽やさまざまな蒸溜釜に加え、中に入った瞬間に鼻腔にぽわ〜んと届く華やかなウイスキーの香りが漂う貯蔵庫も見学するため、参加は20歳以上(所要時間約80分/参加費1人1000円)。原料、仕込み、発酵、蒸溜、貯蔵という具合に、ウイスキーができあがるまでのプロセスを解説つきで教えてくれるので、「へぇ〜」と唸ってしまうこと必至! もちろん、見学後は今や入手困難の世界が認めたシングルモルトウイスキー「白州」や希少なモルトウイスキー原酒(非売品)のテイスティングも楽しめる。美味しいハイボールの作り方を教えてくれるなど、帰宅後に活かせるのもうれしい!
■サントリー天然水 南アルプス白州工場
山梨県北杜市白州町鳥原2913-1
営業時間 9:30〜16:30(最終入場16:00)
休業日 年末年始・工場休業日(臨時休業あり)
参加費 無料
(取材・文/我妻弘崇)