新型ケーブル船「KDDIケーブルインフィニティ」出航! 海底ケーブル敷設任務前の沖縄で潜入取材
KDDIグループの国際ケーブル・シップ(KCS)が運用する新型ケーブル敷設船「KDDIケーブルインフィニティ」に潜入しました。
「KDDIケーブルインフィニティ」はケーブル敷設船という特殊な役割を持つ船で、主な任務は国際海底ケーブルの設置や補修です。また、国際的な調査活用への協力や、今後日本でも普及が見込まれる洋上発電用の海底電力ケーブルの設置にも対応します。
同船は今年2019年6月にスリランカのコロンボ造船所で竣工したばかりの新型船。9月の運用開始から、これまで3500kmほどの海底ケーブルを敷設しています。
今回、沖縄本島の名護市から鹿児島県西岸の日置市を結ぶ総延長はおよそ700kmほどのケーブルラインが設置されます。この任務就航前に、KDDIケーブルインフィニティの初めての報道向け公開が実施されました。
通信回線の速度はこの50年で劇的に高速化していますが、海底ケーブルの敷設法は、50年前からほとんど変わっていません。数百km分にもおよぶ海底ケーブルを縫い物の「ボビン」のように糸巻きして、船に搭載。実際の設置ルートに沿って航海しながら海に落としていくという手法をとります。
海底ケーブル船には通常の船としての航海設備のほかに、海底ケーブルを巻く巨大な糸巻き(バスケット)や、大きな滑車、海中を掘ってケーブルを埋めるための巨大な"鋤"、海中作業用のロボットなどを搭載しています。
たとえば日米間には約1万kmの距離がありますが、KDDIケーブルインフィニティでは最大2500kmぶんの通信ケーブルを搭載可能。長距離を一気に敷設することができます。
▲海底ケーブルを保管するバスケット
巨大な糸巻き「バスケット」は高さが約3.8mあり、2500km分の通信ケーブルを保管できます。このケーブルを地上で巻くときの作業は人力に頼っており、2500km分のケーブルを巻くときは7人がけで1か月かけて行ったそうです。
また、KDDIケーブルインフィニティは水中での電力線の敷設にも対応する、日本初のケーブル敷設船となっています。今後日本でも実用化されるとみられる洋上発電で需要が見込まれる、幅125mmの電力ケーブルを40kmぶん搭載可能で、電力ケーブルでは重要となる、撚れなく巻ける回転モーターを搭載しています。
▲船底のバスケットから船尾デッキ階層までケーブルを引き上げて、海中へ投下する設備につなげます
▲バスケットから引き上げられたケーブルが接続する大きな滑車
▲海底に落として海中を堀り、ケーブルを埋設する設備。いわば巨大な鋤のようなものです
▲海中ロボットも搭載。このロボットは主に補修向けで、電流漏れから断線箇所を特定したり、アームでケーブルを運んだりできます
▲ケーブルやロボットをつなぐための通信・電力ケーブル(アンビリカルケーブル)、"鋤"を吊り下げるロープは船尾から投下されます
海中で切断されたケーブルをつなぎ直したり、長距離で弱くなった光を増幅する「増幅器」をつなぐ際には、切断されたケーブルをつなぎ直す必要があります。
そのため、ケーブル船は光ファイバーの芯線を融かして接着する作業設備も備えています。切断されたケーブルをつなぐ融着作業は、1時間ほどかかるそうです。
▲光ファイバーの芯は溶かして固めて接続します
▲海底ケーブルのサンプル。現代では芯線が8本あるタイプが主流だそうです。左端の無外装タイプは深海などで使われます
▲赤いパーツが断線したケーブルや継ぎ足すときの接続器具。これとは別に光を増幅する装置を10〜40km置きに設置します
通信事業者ならではの船の使い方として、KDDIでは「船舶型基地局」としてこの船を運用するときがあります。主に災害時などで地上の基地局が使えなくなった際、衛星などの電波をバックボーンとして一時的な携帯エリア復旧に役立てられます。KDDIケーブルインフィニティでは、船舶型基地局のアンテナを常設。非常時にはKDDIのスタッフが基地局設備とともに乗り込み、auの電波を回復させます。
▲艦橋の右舷側に設置された船舶型基地局のアンテナ
▲衛星通信はインマルサットとVSATの2系統を搭載し、海洋上でも安定して通信できるようにしています
運航面では最新のデジタル海図を採用。誤差1mの高精度GPSを搭載しています。さらにケーブル敷設船として重要なのは、海底で特定の位置にとどまれること。そのため通常の貨物船では1つだけ搭載しているプロペラを、この船では5つ搭載。一部は360度回転したり、必要な時に下ろして使えるようになっており、多少の波がある状態でも誤差1mの範囲内でとどまる性能を実現。さらに横方向への移動など通常の船舶ではできない動きも可能としています。
▲こちらは船前方側のコックピット
▲KCSの船としては初めてデジタル海図を導入。クルマのナビのように効率的な設定が可能となったとしています
▲作業の状況を把握するために、船後方もガラス張りのコックピットを設置
▲船底に設置されるプロペラの予備
▲乗員全員(最大80名)が載れる救命艇を左右に搭載。左舷には作業用の7名乗りゴムボートも設置されています
海底ケーブルという存在について、日常の生活では馴染みがないと感じる読者も多いでしょう。実は、このページを見ているこの瞬間にも、ほとんどの読者は海底通信ケーブルの恩恵を受けています。
海底ケーブルは日本全国はもとより、世界中に張り巡らされており、世界の電話やインターネット通信を支える重要なインフラです。特に、インターネット通信の国際通信の99%が海底ケーブルを経由すると言われています。
インターネット通信の特徴は、2つの地点を結ぶために、さまざまな経路を選択肢から最適なルートを選ぶことにあります。たとえば日本からアメリカのWebサイトにアクセスする場合には、太平洋を横断するルート以外にシベリア アラスカ経由や台湾 フィリピン経由、ロシア ヨーロッパ経由などさまざまな経路が選択されます。物理的なルートを自由に選べるようにすることで、ケーブルに障害が起きたときでも、安定した通信を確保できるようにしているのです。
この通信経路を確保するため、日本を囲むように縦横無尽な海底ケーブル網が張り巡らされています。その海底ケーブルを引いたり保守したりするために必要な作業を行う船がケーブル敷設船というわけです。
KDDIの母体の1つが国際電信電話(KDD)という国際通信を担う電話会社で、これまで1969年の世界初となる太平洋横断電話回線をはじめとして、多くの国際ケーブル網を設置や管理する実績があります。
▲起工式で挨拶する沖縄セルラー電話の湯淺英雄社長
20日に起工式が実施された沖縄本島〜鹿児島間の海底ケーブルは、KDDIグループの沖縄セルラー通信が運用を担います。地域の通信事業者が長距離の海底ケーブルを設置する例は珍しく、KDDIグループとしても沖縄〜九州間のケーブルは約20年ぶりの設置となります。
設置する主な目的は災害対策。実際に、今年2019年9月に沖縄を襲った台風では、八重山諸島で起こった海中の土砂崩れによって2つのケーブルが切断し、石垣島などで11時間に渡り電話やネットが使えない通信障害が発生しました。
沖縄から本州に向かうルートでは、KDDIグループはこれまで沖縄〜九州間は太平洋側(沖縄本島〜宮崎県)ルートの海底ケーブルを2本設置していますが、近いところを通っているため、地震や台風でこの2本が同時に切断されてしまうと、沖縄県からの通信ができなくなってしまうおそれがあります。
それに対策するため、今回は西側のルートを敷設。水深1500mほどの大陸棚を通るルートで、比較的安定した地盤を持つルートとしています。
さらに、5G時代に向けた通信容量の強化についても意味があります。新ルートで設置される通信ケーブルは8芯の光ファイバーを内蔵し、80Tbps(テラビット毎秒)の通信を確保できます。
KDDIケーブルインフィニティは12月中に名護から鹿児島県の日置に向けて出航します。2020年4月までに設置工事を終了し、新たなケーブルラインとして運用が開始される見込みです。
「KDDIケーブルインフィニティ」はケーブル敷設船という特殊な役割を持つ船で、主な任務は国際海底ケーブルの設置や補修です。また、国際的な調査活用への協力や、今後日本でも普及が見込まれる洋上発電用の海底電力ケーブルの設置にも対応します。
今回、沖縄本島の名護市から鹿児島県西岸の日置市を結ぶ総延長はおよそ700kmほどのケーブルラインが設置されます。この任務就航前に、KDDIケーブルインフィニティの初めての報道向け公開が実施されました。
■海底ケーブルを"糸巻き"しながら設置
通信回線の速度はこの50年で劇的に高速化していますが、海底ケーブルの敷設法は、50年前からほとんど変わっていません。数百km分にもおよぶ海底ケーブルを縫い物の「ボビン」のように糸巻きして、船に搭載。実際の設置ルートに沿って航海しながら海に落としていくという手法をとります。
海底ケーブル船には通常の船としての航海設備のほかに、海底ケーブルを巻く巨大な糸巻き(バスケット)や、大きな滑車、海中を掘ってケーブルを埋めるための巨大な"鋤"、海中作業用のロボットなどを搭載しています。
たとえば日米間には約1万kmの距離がありますが、KDDIケーブルインフィニティでは最大2500kmぶんの通信ケーブルを搭載可能。長距離を一気に敷設することができます。
▲海底ケーブルを保管するバスケット
巨大な糸巻き「バスケット」は高さが約3.8mあり、2500km分の通信ケーブルを保管できます。このケーブルを地上で巻くときの作業は人力に頼っており、2500km分のケーブルを巻くときは7人がけで1か月かけて行ったそうです。
また、KDDIケーブルインフィニティは水中での電力線の敷設にも対応する、日本初のケーブル敷設船となっています。今後日本でも実用化されるとみられる洋上発電で需要が見込まれる、幅125mmの電力ケーブルを40kmぶん搭載可能で、電力ケーブルでは重要となる、撚れなく巻ける回転モーターを搭載しています。
▲船底のバスケットから船尾デッキ階層までケーブルを引き上げて、海中へ投下する設備につなげます
▲バスケットから引き上げられたケーブルが接続する大きな滑車
▲海底に落として海中を堀り、ケーブルを埋設する設備。いわば巨大な鋤のようなものです
▲海中ロボットも搭載。このロボットは主に補修向けで、電流漏れから断線箇所を特定したり、アームでケーブルを運んだりできます
▲ケーブルやロボットをつなぐための通信・電力ケーブル(アンビリカルケーブル)、"鋤"を吊り下げるロープは船尾から投下されます
海中で切断されたケーブルをつなぎ直したり、長距離で弱くなった光を増幅する「増幅器」をつなぐ際には、切断されたケーブルをつなぎ直す必要があります。
そのため、ケーブル船は光ファイバーの芯線を融かして接着する作業設備も備えています。切断されたケーブルをつなぐ融着作業は、1時間ほどかかるそうです。
▲光ファイバーの芯は溶かして固めて接続します
▲海底ケーブルのサンプル。現代では芯線が8本あるタイプが主流だそうです。左端の無外装タイプは深海などで使われます
▲赤いパーツが断線したケーブルや継ぎ足すときの接続器具。これとは別に光を増幅する装置を10〜40km置きに設置します
通信事業者ならではの船の使い方として、KDDIでは「船舶型基地局」としてこの船を運用するときがあります。主に災害時などで地上の基地局が使えなくなった際、衛星などの電波をバックボーンとして一時的な携帯エリア復旧に役立てられます。KDDIケーブルインフィニティでは、船舶型基地局のアンテナを常設。非常時にはKDDIのスタッフが基地局設備とともに乗り込み、auの電波を回復させます。
▲艦橋の右舷側に設置された船舶型基地局のアンテナ
▲衛星通信はインマルサットとVSATの2系統を搭載し、海洋上でも安定して通信できるようにしています
運航面では最新のデジタル海図を採用。誤差1mの高精度GPSを搭載しています。さらにケーブル敷設船として重要なのは、海底で特定の位置にとどまれること。そのため通常の貨物船では1つだけ搭載しているプロペラを、この船では5つ搭載。一部は360度回転したり、必要な時に下ろして使えるようになっており、多少の波がある状態でも誤差1mの範囲内でとどまる性能を実現。さらに横方向への移動など通常の船舶ではできない動きも可能としています。
▲こちらは船前方側のコックピット
▲KCSの船としては初めてデジタル海図を導入。クルマのナビのように効率的な設定が可能となったとしています
▲作業の状況を把握するために、船後方もガラス張りのコックピットを設置
▲船底に設置されるプロペラの予備
▲乗員全員(最大80名)が載れる救命艇を左右に搭載。左舷には作業用の7名乗りゴムボートも設置されています
■国際通信の99%が海底ケーブル経由
海底ケーブルという存在について、日常の生活では馴染みがないと感じる読者も多いでしょう。実は、このページを見ているこの瞬間にも、ほとんどの読者は海底通信ケーブルの恩恵を受けています。
海底ケーブルは日本全国はもとより、世界中に張り巡らされており、世界の電話やインターネット通信を支える重要なインフラです。特に、インターネット通信の国際通信の99%が海底ケーブルを経由すると言われています。
インターネット通信の特徴は、2つの地点を結ぶために、さまざまな経路を選択肢から最適なルートを選ぶことにあります。たとえば日本からアメリカのWebサイトにアクセスする場合には、太平洋を横断するルート以外にシベリア アラスカ経由や台湾 フィリピン経由、ロシア ヨーロッパ経由などさまざまな経路が選択されます。物理的なルートを自由に選べるようにすることで、ケーブルに障害が起きたときでも、安定した通信を確保できるようにしているのです。
この通信経路を確保するため、日本を囲むように縦横無尽な海底ケーブル網が張り巡らされています。その海底ケーブルを引いたり保守したりするために必要な作業を行う船がケーブル敷設船というわけです。
KDDIの母体の1つが国際電信電話(KDD)という国際通信を担う電話会社で、これまで1969年の世界初となる太平洋横断電話回線をはじめとして、多くの国際ケーブル網を設置や管理する実績があります。
■新ルートで沖縄の災害対策に活用
▲起工式で挨拶する沖縄セルラー電話の湯淺英雄社長
20日に起工式が実施された沖縄本島〜鹿児島間の海底ケーブルは、KDDIグループの沖縄セルラー通信が運用を担います。地域の通信事業者が長距離の海底ケーブルを設置する例は珍しく、KDDIグループとしても沖縄〜九州間のケーブルは約20年ぶりの設置となります。
設置する主な目的は災害対策。実際に、今年2019年9月に沖縄を襲った台風では、八重山諸島で起こった海中の土砂崩れによって2つのケーブルが切断し、石垣島などで11時間に渡り電話やネットが使えない通信障害が発生しました。
沖縄から本州に向かうルートでは、KDDIグループはこれまで沖縄〜九州間は太平洋側(沖縄本島〜宮崎県)ルートの海底ケーブルを2本設置していますが、近いところを通っているため、地震や台風でこの2本が同時に切断されてしまうと、沖縄県からの通信ができなくなってしまうおそれがあります。
それに対策するため、今回は西側のルートを敷設。水深1500mほどの大陸棚を通るルートで、比較的安定した地盤を持つルートとしています。
さらに、5G時代に向けた通信容量の強化についても意味があります。新ルートで設置される通信ケーブルは8芯の光ファイバーを内蔵し、80Tbps(テラビット毎秒)の通信を確保できます。
KDDIケーブルインフィニティは12月中に名護から鹿児島県の日置に向けて出航します。2020年4月までに設置工事を終了し、新たなケーブルラインとして運用が開始される見込みです。
関連記事:
auの「船舶型基地局」が千葉に向け出航。台風15号の被災エリアを海から復旧
多くの人が知っておくべき、携帯電話ネットワークの災害対策(佐野正弘)
auの「船舶型基地局」が千葉に向け出航。台風15号の被災エリアを海から復旧
多くの人が知っておくべき、携帯電話ネットワークの災害対策(佐野正弘)