これぞラグビーの美しさ!最後まで希望の道を選んだサモア代表の誇りが、日本に不死鳥のようなボーナスポイント1をもたらすの巻。

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信じるチカラで攻め勝ったぞジャパン!!

「俺たちは強い」。そう本気で、心から信じている。これほどの頼もしさでラグビー日本代表が本大会を席巻することになろうとは、この大会を招致したとき誰が思っていたでしょうか。ラグビーワールドカップ、日本代表“ブレイブブロッサムズ”は第3戦サモア戦に臨み、4トライでボーナスポイントをもぎとる勝利を挙げました。



天地ほども違うボーナスポイントの有無。

ラグビーワールドカップの順位決定方式では、勝点で2チームが並んだ場合、直接対決の結果で順位を決めることになっています。日本はサモア戦前に2勝で勝点9を獲得していました。勝てば4点を積んで勝点13にはなる。しかし、日本とベスト8進出を争うスコットランドは日本戦の前にまだ1試合を残して勝点5という状態。次のロシア戦…おそらくグループでもっとも格下である相手を圧倒すればボーナスポイントを含めて勝点5をプラスし、勝点10で日本戦を迎えることができます。

勝点13対勝点10なのか。

勝点14対勝点10なのか。

もしも日本が勝点13であれば、スコットランドはとにかく勝ちさえすれば「直接対決の結果」によって日本を上回ります。しかし、日本が勝点14まで伸ばしていた場合は、勝利で勝点4を積んだだけではダメです。接戦となり日本が「7点差以内負けでのボーナスポイント勝点1」を取れば、勝点15対勝点14となり、勝点差で届かなくなるのです。さらに言えば「8点差以上で勝ったけど、日本だけが4トライをあげてボーナスポイントを取る」「点の取り合いで双方4トライの7点差以内」なんてレアパターンもあり得ます。

とにかく大差をつけるか、4トライ以上を記録して自分たちだけがボーナスポイントを取るか。日本がサモア戦でボーナスポイントを取ったことで、スコットランドは「勝ち方を限定される」ことになりました。言うまでもなく、このあとスコットランドが臨むロシア戦においても「絶対にボーナスポイントを取る」ことが求められます。

スコットランドの心理状態は、サッカーで言うところの「アウェーゴール」で負けているときのようなもの。ただ勝つだけではなく、スコットランドはしっかりと差をつけて勝たないといけない。もちろん日本は「負けてもいい」などと考えるわけはありませんが、スコットランドは「勝てばいい」と考えることは不可能になりました。勝てばいいわけではないのですから。最低8点引き離さないといけないんだよ、とミーティングでも徹底されるでしょうから。その確認がいい方向に働くことは絶対にありません。「勝てばいい」と「8点差以上つけないといけない」で、後者のほうがやりやすいなんてことは絶対にないのです。

日本は攻めました。

自分たちを信じて攻めました。

サモア戦の最後のトライはサモアに勝つだけでなく、実際の試合の前からスコットランドを追い詰める「先制トライ」となりました。

日本は「勝てばいい」というシンプルな気持ちで臨めることになったスコットランド戦。この「シンプル」な試合前の状況は日本が自分たちのチカラで作ったものです。本当に小さな差だけれど、本当に大きな差。インゴール前での攻防のように、あと1メートルがなかなか届かないあの攻防のように、この小さくて大きな差を日本は取り切った。それこそが「強さ」だと思います。思い通りにならない現実を、強さでもぎとった。この強いチームが先のステージに進めないなんて想像もできません。

絶対いけるぞ、ベスト8!

絶対いこう、ベスト8へ!!

◆どれだけ信じてもまだ信じ足りない、想像の上をいくジャパン!

「信じる」、それが強さだなと心から思います。この大会、日本代表は心から自分たちを信じています。世界屈指のフォワード戦の強さを誇るアイルランドに対して、相手の強みであるフォワード戦を仕掛け、打ち勝ち、勝利したこと。それは「負ける前提」では決してできない戦いであり、「勝つため」でなければ取り得ない戦術でした。「負けを前提にボーナスポイントを狙う」のではなく、どうしたら勝てるかを考えた結果が、それだった。

そして、サモア戦に臨む前もその姿勢はまったく変わりませんでした。天候によってはボールが滑るかもしれないから、せっけんを塗って滑り対策をしようかと提案した選手に対して、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチはこう言ったといいます。「自分たちのスキルを信じろ」と。滑り対策は一見すれば賢いようでいて、その実は「落としそう」という不安の表れにほかなりません。そんな練習をしても急にハンドリングが上手くなるはずもなく、感覚が狂うだけ。それよりも自分たちが積み上げた20年・30年を信じろと。自信、自信がこのチームの支柱です。



サモアの闘いの儀式シヴァ・タウで幕を開けた試合。日本は肩を組み、その攻勢を正面から受け止めます。勇敢VS勇敢の戦い。サモアにとっては負ければ終わりの一戦です。すべてを出して攻めてくるはず。ならば、引けば負けるがラグビーの常道。日本も攻めるしかありません。

日本の試合の入りは悪くありません。立ち上がりから相手と競り合うことを意図したコンテストキックを積極的に仕掛け、ガンガン攻めていきます。攻勢を受けたサモアは反則を犯し、日本は前半3分に早くもペナルティゴールで3点を先制します。前半8分にも再び相手の反則から田村がPGで3点追加。ここまでの2試合、キックの精度を欠いていた田村ですが、この日はピンズドのキック精度です。いいぞ田村。これが本来の田村優です。

ただ、田村の上昇とは逆に、チーム全体のモメンタルは低下気味。この日の審判はタックル後の状況や、危険なプレーに対して厳格に反則を取るタイプであったことから、日本はたびたび守備時の反則をとられます。両チームが等しく取られているので何の問題もありませんが、反則が多くなれば「アドバンテージ中の思い切ったプレー」も多くなります。互いのゴール前を行き来する、激しい戦いに自然となっていきます。日本がPGを3本、サモアが2本決めて9-6。ふぅー、皮一枚を削り合うような神経戦です。田村の好調が心強い。

そんななか、試合を大きく動かしたのはサモアからやってきた日本代表でした。日本代表ラファエレ・ティモシー。この大会ではたびたびタックルを受けながら繰り出す「オフロードパス」で味方のトライを演出してきました。ロシア戦の開幕トライを松島幸太朗に送り込んだのも、アイルランド戦で乾坤一擲のトライを福岡堅樹に送り込んだのもラファエレでした。広い視野とテクニック。守りのタックルも強く、しかも男前。

ラファエレはサモアからやってきて、山梨学院大学⇒コカ・コーラと日本のチームで活躍してきました。聞けばお父さんはサモアのラグビー協会のお偉方だそうで、息子をサモア代表にしたいという希望もあったとのこと。しかし、ラファエレは「チャンスをくれた日本」を選び、今は日本への帰化も果たした文字通りの「日本代表」。その男が、サモアと日本、ふたつの母国の試合で日本を勝利へと大きく前進させます。

危険なタックルにより、サモアが一時的退場でひとり少なくなった直後の前半28分。人数があまった状態でのバックス展開からの攻撃の場面。ラファエレは外に日本の人数があまっていることを知りつつ、相手もそれを警戒していることを見切って、パスをするふりでフェイントをかける「パスダミー」で相手の守備を無効化。最後は自ら飛び込んでトライを決めました!

↓日本にきて、日本でチャンスをもらい、日本の南アフリカ戦を見て心を決めた男が、日本にトライをもたらした!

日本にきてくれてありがとう!

ラファエレがボールを持てば得点の匂いがする!



その後サモアがひとつPGを決めて、前半は16-9で折り返します。決して悪くはありませんし、勝利は十分に見込めそう。ただ、ボーナスポイントを取るにはどうかなという前半でした。はたして4トライを取ってボーナスポイントを取れるのか。後半はボーナスポイントが欲しい日本も、逆転しないといけないサモアも、どちらも一層攻めないといけない状況です。

後半もキックでの陣取りから反則によるPGを取り合う展開に。サモアのフォワードも強く、またこの日の気候もあって動きが落ちるようなところもありません。好ゲームですが、日本にとっては痺れるような試合です。

そんななか頼もしかったのは、この試合でリーチマイケルと二頭体制でキャプテンをつとめるラブスカフニの冷静さ。これまでの試合でもラブスカフニは極めて冷静でした。トライを求めて前のめりになりそうな場面でも、「ここはPGの3点でいい」と指示を送ってきました。それは野球で言うと「キッチリと1点ずつ返していく」ようなこと。一気に大きく取ろうとせず、少しずつ確実に積んでいく。

それもまた「自信」の表れだろうと思います。一気に取りたい、一気に勝ちたいというのは「ラクになりたい」ということでもあります。真の自信があれば本当の勝負所を待ち、そこに懸けることができるはず。ラブスカフニの冷静さは「ボーナスポイント」を意識して前のめりになる日本を、なだめるようでした。まず勝つ。その大前提をやり切る。一歩ずつ、確実に。

そして、チャンスと見るや動く。

19-12で迎えた後半14分。サモアはサントリーでも活躍した日本でもおなじみのレジェンド、トゥシ・ピシを入れて攻撃へのギアを上げてきた場面。日本は田村の見事なキックによって得た、相手陣内深くでのラインアウトからドライビングモールを繰り出します。バックスまで加わって集団でボールを押していくドライビングモール。

サモアは選手交代の流れもあり、まったく準備ができていませんでした。日本の集団ドライビングモールは前回大会でもここぞのトライを取った得意技ですが、サモアはそれに対抗して集合することができません。日本は最終的に10人、11人でモールを押していたでしょうか。それを半分ほどの人数で押し返せるはずもありません。最後は地元愛知出身、日本の誇る重戦車・姫野和樹が押し込んでトライ。冷静かつ大胆なトライで、ボーナスポイントまであとふたつ!

↓日本の攻撃と守備を支えるNo.8が、歴史に名を残すトライ!

愛知出身、トヨタ自動車所属!

豊田スタジアムに地元のヒーローが降り立った!

相手のボールを奪い取る「ジャッカル」というプレーで魅せる男・ジャッカル姫野、大会後はCMと女性誌の特集で大人気確実です!




これで26-12の14点差。日本はアイルランド戦でトライを決めた福岡を投入し、さらに攻勢を強めます。確実に点を積んできたことで、冒険をする準備はできています。後半23分、さらに日本は京都が生んだ「悪魔的頭脳」スクラムハーフ・田中史朗を投入。アイルランド戦では最後の数分を「なかなかスクラムにボールを入れず、相手のスクラムの組み方に難癖をつけて時間稼ぎで浪費する」という、悪の頭脳を見せた田中。この日も「これが京都人か」「性格わ…抜け目がなさそう」「いやら…相手をよく見ている」と感心することしきり。

後半65分のプレーでは、ラックからスクラムハーフにボールを渡したかどうか、スクラムハーフがボールを持ったかどうかという刹那にタックルで飛び込み、相手の攻撃を潰しました。自身もスクラムハーフだからこそわかる「お前、今、持ったな?」「もう持ったな?」「もうラック終わっとるな?」という京都人の追求。絶対に京都には住みたくな…じゃなくて、これが日本の頭脳です!

↓悪そうでしょ!悪いですよ!
田中の悪魔的頭脳、最高や!

敵ならムカつくけど、味方だから最高や!

そして、この試合の運命を大きく変えるプレーがサモアに生まれます。後半72分、サモアはマイボールラインアウトのモールから、チカラと小技とで押し込んでこの試合初トライ。点差としては26-19に迫られますが、振り返ってみればこのトライが日本の運命を変えたなと思います。

もしもここで「26-19の7点差」にしていなければ、次に日本が3つめのトライを取ったときに「33-12」などの大差になっていた可能性が高い。そうなればサモアはもう戦う理由を失います。しかし、7点差に迫られていたことで、後半75分に日本が3つめのトライをあげたとき、まだ「31-19の12点差」で留まっていました。

サモアはこの試合で勝点1を取らなければ敗退が確定します。しかし、勝点1でも取れば数字上の可能性が残ります。後半40分のホーンを迎えたとき、サモアボールであったにもかかわらず、サモアが試合を継続することを望んだのは「もうひとつトライを取れば、点差を詰めてボーナスポイントが取れるから」にほかなりません。

結果論で言えば、サモアにひとつトライを許したことで、日本は後半40分のホーンのあともプレータイムを得ることができました。サモアが外に蹴り出せば即終了する試合が、サモアが「まだつづけたい」と希望する状況になっていたことで、実に5分近くもプレータイムがつづいたのです。

後半79分の日本のドライビングモールが実らなかったときに「終わった」と思った試合が、サモアの選択によってゾンビのように継続し、スクラム中のペナルティによって日本にもう一度ボールが戻ってきたのです。死んだはずの試合が甦った。

最後のプレー、日本は終盤にかけて相手を圧倒したスクラムで押します。サモアはたまらず反則を犯します。さらに日本はスクラムで押します。押して、押して、押す。「スクラムで勝つほうが強いんだ」というラグビー界の不文律を見せつける日本のスクラム。

↓そして最後の最後の最後のプレー、スクラムで相手を中央に釘づけにしたところから、大外で松島の電光石火のトライ!


すごいよ日本!ファンタスティック!!

アイルランド戦もすごかったけれど、このボーナスポイントも神懸かりだわ!




あぁ、ラグビーって素晴らしいなと思います。消極的な選択や、早々に諦めてしまう選択、相手に嫌がらせをすることさえも選べるような場面で、勇敢に、自分を信じて、希望をつかみにいくのだから。前回大会の日本代表もそうでした。この試合のサモア代表もそうでした。最後の最後まで自分の可能性を追いかける同士の戦いだから、ときにこんな美しい出来事が起きるのだなと思います。いつも、どんな試合も、こうであったらいいのになと思います。

ありがとうサモア代表。

ラファエレに日本を選ばせてくれて。

最後まで希望の道を選んでくれて。

勝った立場なので倍気持ちいいですが、負けた立場でも受け入れられる誇り高い試合を、サモア代表のような試合を、日本もやろうと改めて思いました!



次はスコットランド戦、4年前を超えるためには「勝てばいい」だけ!