■プレジデント誌が発した重大懸念、ついに現実となった

「1機200万円もしないドローンが、イエメンの武装勢力によってサウジアラビアの石油施設を攻撃し、全世界石油供給量の5%に該当するサウジアラビアの原油生産量の半分を止めてしまった」。この一報に世界は驚愕した。

 
もし日本と中国との間で戦争が起きたら、日本は苦戦必至!(時事通信フォト=写真) -  

筆者が、プレジデント誌で繰り返し指摘してきた事態(ヤマダ電機で買えるような安価なドローンによる軍事攻撃)が起きたのである。ただし、この攻撃手法や攻撃者については諸説紛々であった。

2019年9月18日、サウジアラビア国防省は、自爆ドローン18機と巡航ミサイル7発をミックスした攻撃にあったと発表した。自爆ドローンは新型のタイプであるが、イスラエル軍のレーダー破壊用自爆ドローンIAI Harpy NGに似ており、これを模したものと思われる。

このことは何を意味しているのか。

■安価・発見困難・製造容易・高性能・操作容易という兵器

第1に、安価な自爆ドローンを巡航ミサイルにミックスする攻撃は、極めて有効だということだ。仮に自爆ドローンが対レーダータイプであった場合(その可能性は過去の事例から高いと考えるが)、自爆ドローンで敵のレーダー網や防空網を潰しつつ、巡航ミサイルで攻撃するという世界初の高度な戦術が採用されたことになる。

敵防空網破壊(DEAD)攻撃は、航空自衛隊ですら至難であり、これに巡航ミサイルをミックスしたものは、おそらく世界初であろう。

辺境の武装勢力ですら、航空自衛隊には不可能なミッションを実行できるところに、ドローンという安価・発見困難・入手および製造が容易・高性能・操作容易という兵器の意義がある。

第2に、安価なドローンを使えば、辺境の武装勢力でも戦略爆撃(それも全世界の石油価格に影響を与える)がついにできるようになったのだ。米空軍幹部が「ドローンの登場により、朝鮮戦争以来なかった空爆を米軍は受けている」と発言してから1年8カ月。ここまで、ドローンの軍事革命は来た。

自衛隊ドローンで、新興国にも後れをとる

では、なぜ、ドローンがこれほどまでに有効活用できるのか。それは、ドローンが新たな戦闘空間を切り開き、ほしいままにしているからである。

これまで、高度5〜500メートルという「低空」は、一時的な利用はあっても、基本的に恒常的な軍事利用はなかった。その空域を今、ドローンが活用しているのである。「空地中間領域(InDAG)」とでも名付けるべき、第3の新しい戦闘空間の登場である。

この高度5〜500メートルという地上と空中の中間にある「中途半端な空間」がブルーオーシャンとして登場し、その空間の争奪戦を中東のテロ組織から米・中軍までのあらゆる軍事組織が繰り広げているのが現在の状況なのだ。

そして、それにもっとも遅れている後進国が日本だ。

■100億円以上の戦闘機も、10万円程度のドローンで破壊される

米シンクタンク「New America」がまとめた、武装ドローン開発国の一覧図によると、北東アジアでは、中国、ロシア、台湾、韓国、北朝鮮ですら武装ドローンを装備しているのに、日本だけが装備していない。南アフリカ、トルコ、ウクライナ、イラン、豪州、インド、スウェーデン、レバノンも武装ドローンを保有しているにもかかわらずだ。そして、悲しむべきことは、フーシ派のような辺境の武装勢力ですら、武装ドローンを活用していることだ。

ドローンに関して、日本の自衛隊は先進国どころか、新興国にも後れをとる配備状況なのだ。ようやく19年度の概算要求で対ドローン装備の導入を企図しているのが現状で、ある自衛隊駐屯地では投網を用意している有様だ。

これでは、もし中国との戦争が起きたら一方的に、通常のレーダーに映りにくい安価な自爆ドローンによって重要インフラは炎上するだろう。

1機100億円以上のF-35戦闘機も、現状では、弾道ミサイルしか迎撃できないのに数千億円するイージスアショアも、手りゅう弾を積載した10万円程度の民生ドローンで破壊され、戦わずして、主要戦力が壊滅しかねない。自衛隊が勝利、もしくは未然に抑止するためにも、あたらしい戦闘空間における優勢の獲得は急務である。

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部谷 直亮(ひだに・なおあき)
慶應義塾大学SFC研究所上席所員
一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構上席研究員。成蹊大学法学部政治学科卒業、拓殖大学大学院安全保障専攻博士課程(単位取得退学)。財団法人世界政経調査会 国際情勢研究所研究員等を経て現職。専門は安全保障全般。
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(慶應義塾大学SFC研究所上席所員 部谷 直亮 写真=時事通信フォト)