イタリアの貴婦人に漂う“違う空気感”…悲願のCL制覇へ、ユヴェントスのキーマンは…

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 イタリアの絶対王者ユヴェントスは、実は欧州有数のスロースターターである。

 8月と9月は格下の相手に思わぬ苦戦を強いられることもあるし、たとえ勝っても中身のないゲームを繰り返すことだってある。ただし、もし負けても、つまらない試合をしても、新戦力がフィットしなくても、1人くらい明らかなオーバーウェイトの選手がいても、移籍市場での立ち回りがうまくいかなくても、原因が定かではない不安に苛まれる雰囲気を感じても心配する必要はない。

 10月を過ぎれば落ち着きを取り戻し、11月を過ぎればその年の最適解に近いグッドゲームを演じ始める。12月にはきっちりとチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージを突破し、セリエAでは「冬の王者」に輝く。1月のマーケット稼働期におけるドタバタを最小限に抑えたら、開幕当初の危うさが信じられないほどの安定期に突入する。勝負に本腰を入れるのはそれから。3月にCLベスト8進出を決めたら、まずはセリエAに集中して4月には早めにケリをつけ、万全の状態でCLセミファイナルを迎える。セリエAを8連覇する中で確立したチームマネジメントのピーキング術だ。

 あとはいくつ、タイトルを手に入れられるか。最低限のノルマはスクデット獲得で、コッパ・イタリアはあくまで“おまけ”。CLは五分五分の勝負だから手が届かなくても仕方がない――と、CLとはある意味割り切ったメンタリティで向き合ってきたのだが、近年は少し様子が違う。ビッグイヤーは五分五分のチャレンジではなく、「欲しくて欲しくてたまらないもの」。“イタリアの貴婦人”はまさに貴婦人然とした立ち居振る舞いを貫きながら、その裏側でボロボロになったハンカチを噛み、狂ったように欧州王者の椅子を欲している。

シーズン序盤は苦戦が垣間見えるが…

 近頃の“かき集め”に伴う血の入れ替えも、まさにそのためだ。

 1年前にはクリスティアーノ・ロナウドを獲得してジャンルイジ・ブッフォンとクラウディオ・マルキージオを放出してチームの顔を入れ替えたかと思えば、今夏にはマッシミリアーノ・アッレグリを退任させてマウリツィオ・サッリを新指揮官に迎え入れ、マタイス・デ・リフトやアドリアン・ラビオ、アーロン・ラムジーのみならず、ブッフォンを呼び戻してバランスを整えた。

 迎えた2019−20シーズン。パルマとの開幕戦とナポリとの第2節に勝ったあたりは流石だが、内容的には決して褒められたものではなかった。第3節のフィオレンティーナ戦では“ユーヴェ対策”を講じた相手を攻めあぐねてスコアレスに終わった。それでも問題はない。スロースターターとして許容範囲内の通常運転だ。

 そんな中で迎えるCLは、スペインのアトレティコ・マドリードとドイツのレヴァークーゼン、それからロシアのロコモティフ・モスクワとグループステージで同居する。クラブとしての格、実績、メンバーリストの顔ぶれを見れば、ユヴェントスとアトレティコ・マドリードが突破すると考えるのが妥当な予想だろう。パヴェル・ネドヴェド副会長は言った。

「厳しいグループになるだろう。しかしチャンピオンズリーグに簡単な試合はひとつもない。ユヴェントスは監督が交代し、選手も入れ替わっているが、私は良いパフォーマンスを示すことができると確信している」

 過去20年のユヴェントスを知り尽くすネドヴェドであるから、本心から「良いパフォーマンスを示せる」と確信しているのだろう。しかし、本当にそうだろうか?

主力の負傷と余剰人員も解決すべき問題

 新指揮官サッリは肺炎を患って開幕2試合を欠場し、キャプテンであり守備の柱であるジョルジョ・キエッリーニが復帰まで半年を要する大ケガを負った。右サイドのバックのマッティア・デ・シリオはナポリ戦で、替えが利かない司令塔ミラレム・ピアニッチとそれまで絶好調だったドウグラス・コスタはフィオレンティーナ戦で故障離脱。グループステージの登録メンバーからはMFエムレ・ジャンとFWマリオ・マンジュキッチが外れ、移籍の可能性がありながら残留した前者は「約束が違う」と憤慨し、アッレグリ前監督体制下においてチームの魂を体現し続けた後者は移籍を決断した。