5月下旬に日本で発売されたMAZDA3(撮影:尾形文繁)

今、クルマ好きの間で高い人気を得ているメーカーがマツダだろう。最近は新型車の投入も活発で、2019年5月下旬にはアクセラの後継車種であるMAZDA3(マツダ3)を発売。2019年の夏から秋には、SUVのCX-30も登場する予定だ。


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これらの新型車を含めて、カッコイイ外観と、走る楽しさを重視したクルマ造りが今のマツダ車の特徴になる。居住性や積載性といった実用的な機能より、クルマが持つ趣味性を重視している。

その一方で、今のマツダ車には「外観がどの車種でも同じに見える」という指摘もある。メーカーのWebサイトの「カーラインナップ/乗用車」の項目には、真横から撮影したマツダの10車種が掲載されているが、たしかに似通ったクルマが並ぶ。全車がソウルレッドクリスタルメタリックと呼ばれる赤い外装色だから、なおさら似てしまう。

車種を豊富に用意するのに、どれも同じように見えるのは損ではないのか。いろいろな見せ方をしたほうが、多くの顧客を引き寄せられるだろう。

明確なブランド表現

マツダが複数の車種で同じようなデザインと色彩を採用した理由は、マツダ車の特徴を際立たせるためだ。メルセデスベンツやBMWなどの欧州車も、フロントマスクに共通性を持たせて明確なブランド表現を行う。マツダ車にも同様の狙いがある。

マツダ車の外観の共通化は、今に始まったことではない。1990年代のアンフィニRX-7、センティアなども「ときめきのデザイン」として陰影の美しいボディスタイルを採用した。ただし、当時は人気をいま一つ高められなかった。

そして景気の悪化もあり、マツダ車の売れ行きは1990年代に急落する。1990年のマツダ車の世界生産台数は142万台だったが、1995年には約半数の77万台に減った。決算も1994年3月期には489億円の最終赤字に陥り、フォードの出資比率を高めて生き残りを図った。

その後、マツダ車の世界生産台数は2001年に96万台、2002年には100万台と徐々に持ち直し、2010年には131万台まで回復した。

この業績回復の過程で、2005年頃に立案されたマツダの新たな戦略が「魂動デザイン」と「スカイアクティブ技術」であった。魂動デザインはマツダ車の外観表現で、疾走する動物からイメージを膨らませている。前輪駆動車でもフロントウインドーの位置を後方に寄せてボンネットを長く見せ、サイドウインドーの下端を後ろ側へ持ち上げることにより、躍動感を演出する。

このデザインをすべてのマツダ車に当てはめたことから、Webサイトの「カーラインナップ/乗用車」のように、どの車種でも外観が似通った。

背景にある合理化やコスト低減

スカイアクティブ技術も同様だ。各種のエンジン、6速のATとMT、プラットフォームなどの共通化を進め、複数の車種が同じメカニズムを使う。アクセラがマツダ3にフルモデルチェンジされて新世代プラットフォームを採用したが、今後はほかの車種もこのタイプに移行する。

厳密にいえば、プラットフォームはボディーサイズに応じて複数用意するが、基本的な考え方は魂動デザインのように共通だ。運転すると車両が操舵角に応じて正確に向きを変え、機敏でも鈍くもない。ドライバーが車両と一体になって運転の楽しさを満喫できるクルマ造りを目指している。

ロードスターは後輪駆動だから、プラットフォームはエンジンの配置なども含めて前輪駆動と大きく異なるが、基本的な考え方は同じだ。

メカニズムを共通化した背景には、運転感覚の統一と併せて、合理化やコスト低減もある。メカニズムの種類を抑えれば、開発力を集中させ、優れた商品を割安に造ることが可能だ。また1つの車種が改良を行えば、ほかのマツダ車にもマイナーチェンジなどを施して、水平的に展開できる。各車種を綿密に進化させられることも特徴だ。

スバルも以前から、同じような方法を採用してきた。エンジンは水平対向で、駆動方式は4WDが中心になる。プラットフォームの種類も少ない。スバルは規模の小さなメーカーだが、個性的な機能を集中して採用することにより、高機能で上質なクルマを開発している。

絞り込んだクルマ造りは、マツダの車種構成にも当てはまる。ミニバンや背の高いコンパクトカーは、重心も高まってマツダの求める走行安定性と運転感覚を実現しにくいため、廃止された。今は天井の低いハッチバックやセダンが中心で、少し背が高くてもSUVにとどまる。

このボディタイプの削減は、マツダ車の個性を際立たせる一方で、解決すべき課題も生み出した。先に述べたように、どのマツダ車も同じように見えて、ユーザーの選択肢を減らしていることだ。

ミニバンユーザーの乗り換えが困難に

またプレマシー、ビアンテ、MPVという生産を終えたマツダのミニバンは、今でも相応に保有されている。このユーザーが乗り替える車種を見つけられず、行き場を失ってしまった。


マツダの「CX-8」(写真:マツダ

メーカーはSUVのCX-8が3列シートを備えるため、ミニバンユーザーの乗り替えを期待したが、実際は難しい。CX-8は全長が4900mmと大柄で、プレマシーやビアンテに比べて取りまわし性が悪いからだ。

CX-8は価格も高く、2.5Lのノーマルエンジンを搭載する中級の25Sプロアクティブでも325万6200円に達する。上級グレードは400万円前後だ。かつてのプレマシーは値引きも大きく、実質160〜180万円で売られていたから、CX-8に乗り替えてもらうのは無理が伴う。

販売店でも「プレマシーなどのミニバンを使うお客様は、乗り替える車種がなくて困っている。車検を取って乗り続けるお客様も多いが、今では最終型のプレマシーが発売されてから9年が経過した。部品の交換が増えたりすると、他メーカーのミニバンに乗り替えてしまう。そうなると車検やメンテナンス、保険などの仕事まで失う」と困惑している。

今のマツダはトヨタと業務提携を結んでいることから、ミニバンの供給を受けるなどの対策も考えられる。一部の販売店ではこれを希望しているが、メーカーは「ヴォクシーなどのOEM車をマツダが取り扱うことはありえない」という。

それでもミニバンユーザーのために、トヨタのミニバンをマツダの店舗で代行的に販売するなどのサービスは行っていいだろう。今後はクルマのユーザーが急減するので、販売店がつなぎ止める対策を希望するのは当然だ。

以上のようにマツダが似通ったクルマを造り続ける背景には、さまざまな理由がある。メーカーのイメージを統一させ、商品開発についても、選択と集中を図って優れた商品力とコスト低減を両立させる。メカニズムが進歩すればほかの車種への応用も短時間で行われるから、足並みをそろえて機能を改良できる。こういったメリットが得られる一方で「外観がどのクルマでも同じに見える」という評価も生じた。

売れ行きは国内と海外で異なる

魂動デザインとスカイアクティブ技術の併用で、2012年以降のマツダ車は商品力を格段に向上させたが、売れ行きは国内と海外で大きく異なる。海外販売台数は2011年3月期が106万7000台、2019年3月期が134万6000台と順調に伸びたが、国内販売は2011年3月期が20万6000台、2019年3月期は21万5000台で伸び悩んでいる。国内販売比率も約14%にとどまり、魂動デザインとスカイアクティブ技術の効果はいま一つだ。


欧州仕様の「 CX-30」(写真:マツダ

今後、CX-30のように比較的コンパクトで、なおかつ空間効率の優れた車種をそろえると、日本国内でもマツダ車を購入しやすくなる。先に述べたマツダのミニバンユーザーに配慮した商品展開も必要だ。

そして6速MTを幅広い車種に用意するのが今のマツダ車の特徴だから、このトランスミッションが似合うバリエーションを整えると、ユーザーから喜ばれる。

例えば高回転域の吹き上がりが優れた自然吸気のガソリンエンジンなどだ。昭和の香りがするオジサン的なスポーティーカーだが、今のマツダは、古典的な価値観に最先端技術を組み合わせるクルマ造りを行う。これは他社とは違う個性だから、突き進めるとよい。

今はクルマ好きの人口が減っているが、それ以上の勢いでわかりやすいスポーティーカーが姿を消している。スズキスイフトスポーツのような小さくて運転の楽しいクルママツダの最先端技術でそろえたら、共感を得られると思う。