今季のFC東京は94年ワールドカップに出場したイタリア代表と共通点がある印象だ。写真は久保(左)とバッジョ(右)。写真:サッカーダイジェスト

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 国内外を問わず、クラブ、代表を併せて「一番好きなチームは?」と訊かれたら、迷わずにこう答える。1994年のアメリカ・ワールドカップを戦ったイタリア代表だ、と。
 
 当時のイタリア代表はアリーゴ・サッキ監督の下、ゾーンプレスを標榜。だがそれを上手く体現できず、ワールドカップ本大会では粘り強い守備と天才ロベルト・バッジョの個人技を頼りに決勝まで勝ち上がった。アイルランドとのグループリーグ初戦でいきなり黒星を喫し、ナイジェリアとの決勝トーナメント1回戦では終了間際までリードを許すなどサッカー大国らしからぬ脆さを露呈しながらも、勝負どころで底力を発揮してファイナルへと駆け上がったのだ。

 グループリーグ第2戦から準決勝までの勝負強さは圧巻。ピンチを乗り越えて最後は勝者になるドラマチックなストーリーに心を奪われたのを、今でも鮮明に覚えている。
 
 ドラマチックだったのが、ナイジェリア戦だ。25分に先制されたイタリアはなかなかペースを掴めず、75分にFWのジャンフランコ・ゾーラをレッドカードで失う。これでイタリアのワールドカップは終わったかに思われた。
 
 しかし、イタリアは死ななかった。瀕死のチームを救ったのは、R・バッジョ。終了間際の88分に同点弾を流し込むと、延長前半の10分にはPKを沈めて逆転勝利に導いた活躍は“伝説”と言っても過言ではない。
 
 
 粘り強い守備とひとりの天才──。当時のイタリア代表とどことなく似ているのが、今季のFC東京だ。決して守りに徹しているわけではないが、森重真人とチャン・ヒョンスの両CBが軸の最終ラインは強固そのもので、ファストブレイクの起点となる久保建英の創造性豊かなプレーは観る者を魅了している。
 
 断っておくが、「久保=R・バッジョ」とは到底思わない。ただ、仕掛けや崩しの局面で明らかな違いを作っている久保は紛れもなく天才の部類に入る。
 
 事実、相手の急所を正確にえぐるスルーパスの質からして凡人のそれとは違う。ドリブルのコース取りも絶妙で、一つひとつのアクションに確かなインテリジェンスも感じられる。「(久保)建英のところで違いを見せられるようになったのが今季は大きい」との森重のコメントからも、久保が特別なタレントなのは窺えるだろう。
 
 
 さらに言えば、今季のFC東京はここまでドラマチックな試合が多い。例えば、引き分け濃厚と思われた鳥栖戦(3節)は88分にオウンゴールでリードを奪うと、90+3分には久保のアシストから新戦力のジャエルが追加点と最終的に突き放した。
 
 また6節の清水戦は、後半開始直後に先手を取られながらも75分にディエゴ・オリヴェイラのクロスにナ・サンホが左足で合わせたシュートで同点。86分にはジャエルとの素晴らしいコンビネーションで抜け出たD・オリヴェイラが美しいループシュートで逆転弾と、これまた終盤で勝負を決めている。土壇場のゴールで歓喜を呼び込む彼らの戦いぶりは、ある意味、94年ワールドカップのイタリア代表を想起させるものだ。
 
 94年のイタリア代表と今季のFC東京を重ね合わせることに違和感を覚える方もいるだろうが、いずれにしても今季のFC東京は勝負強い。個人的にここまでのベストゲームは、4節の名古屋戦。鉄壁の守備網を築きつつ、文字通りのファストブレイクから1点をもぎ取り、そのまま逃げ切る。狙い通りの戦い方で“ウノゼロ”(1−0)を完遂させたところにイタリア的なエッセンスを感じるのは、はたして私だけだろうか。

 手堅いうえに勝負強い今のFC東京には確かな勢いがある。ただ、大会途中から勢いがあった94年のイタリア代表も、ワールドカップ決勝ではブラジルにPK負けを喫した。最後はエースのR・バッジョがPKを外すというドラマチックな展開で……。その戦いぶりは感動的だったものの、すんでのところで優勝を逃がしたイタリア代表を悲劇の主人公と捉えるメディアも少なくなかった。
 
 願わくは、FC東京には彼らと違う結末、そう、ハッピーエンドを迎えてもらいたい。東京五輪が開かれる前のシーズンに、首都クラブが念願のリーグ制覇──。それを実現できれば伝説として語り継がれる。

文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)