イニエスタに食らいつき、困惑させる。田中の働きが川崎を勝利に導いた。写真:徳原隆元

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[J1リーグ9節]神戸1-2川崎/4月28日/ノエビアスタジアム神戸
 
 川崎フロンターレが4月28日、ヴィッセル神戸を2−1で下してリーグ3連勝。5節まで勝利から見放された開幕当初の低調ぶりが嘘のように調子を上げ、9節終了時点で6位に浮上した。
 
 中村憲剛、守田英正、車屋紳太郎といった主力を怪我で欠いていた神戸戦で、勝利の立役者となったのは、20歳の田中碧だった。小学3年生の時から川崎の下部組織で育った生え抜きのMFである。
 
 とりわけ素晴らしかったのは、アンドレス・イニエスタを困惑させた激しいプレッシングだ。相手の攻撃の起点でもあるこのスペイン人MFにボールが出れば、出足の鋭い寄せで距離を詰め、チャンスと見れば果敢にインターセプトを狙った。
 
「相手はイニエスタがボールを持った時に動き出すので、パスの出どころをどれだけ潰せるかは意識していました」
 

 エースの小林悠が「危険なところは分かっていた。なるべくCBには持たせて、イニエスタに持たれた時に厳しくいく、というのは、みんな意思統一していた」と言うように、川崎はチーム全体でイニエスタを警戒し、その自由を奪おうと試みた。このプランをハイレベルに実行してみせたのが、田中だったのだ。
 
 そのインパクトの大きさは、ボランチでコンビを組んだ大島僚太が「空回りせずに力を出してくれた。元々守備の能力はフロンターレの中でも高いほうです。奪い回数も多いですし、頼もしいかぎりでした」と言うほどだ。
 
 しかも田中は自ら、この“イニエスタ封じ”の役割を買って出たという。『自分がプレスにいきたい。イニエスタとやってみたい!』と言っていたことを、大島が試合後に明かしてくれた。
 
 もちろん相手はワールドクラスのテクニシャンだけに、止めるのは容易ではない。あっさりとダブルタッチでかわされた4分の対応など後手を踏むことも少なくなかった。しかし徐々にイニエスタの動きを掴んでいくと、完全にボールを奪い切るシーンも増えていった。
 
「最初は飛び込んでうまくやられたんですけど、少しずつ距離感を掴んできて修正できた。全部が全部やられる感覚はなかったです。もちろんやられる場面もありましたけど、いかにクリーンに取れるかは意識していたので、そういう意味では取れる回数も多かったので、良かったです」
 
 終盤に決定機を作られ1失点を喫したものの、それまでの田中の奮闘がなければ中盤の主導権を握られ、チームは流れを明け渡してたかもしれない。データサイト『Opta』によれば、イニエスタが川崎戦で記録したパス成功率は79パーセント。これは来日後にフル出場した試合で、もっとも低い数値で、いかに苦戦させていたかが窺える。
 
 次第にイニエスタは田中から距離を空けてポジショニングを取るようになったのは印象的だった。
 
「最後のほうは嫌がって僕のところから離れていきましたね。そこは良かったです。自信にもなりました」
 
 充実した90分間は田中にとって、またひとつ大きく成長する糧となっただろう。試合後に「すごく楽しかった」と振り返る表情は、あどけなさを残しつつも、どこか逞しさを感じさせた。
 

 それでも田中に満足感はない。
 
「今日はそこだけに固執していた部分もあったので、他のところから縦パスを入れられることが多かった。イニエスタという存在が大きい分、そうなってしまうのはしょうがないですけど、全体の守備も含めてもう少しやれれば良かったかな。
 
 あとは奪った後。見えているけど通せなかったり、技術のところでミスがあったりしたので、そこをいかに通して3点目を取るか。攻撃の質に関しては、今日はまだまだだったかなと思います」
 
 そうやって反省を口にするのだから、恐れ入る。急成長を遂げ、20歳にしてチャンピオンチームの川崎で出番を得ているのも納得だ。
 
 昨季リーグ戦は4試合の出場にとどまったものの、プロ3年目の今季は、3節の緊急登板以降(先発予定の大島が左足に違和感を覚えて欠場となり、急きょ出番を得る)、存在感を発揮している。川崎に現われた超新星がブレイクする時は、近いかもしれない。
 
取材・文●多田哲平(サッカーダイジェスト編集部)

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