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<ジャレッド・クシュナーとイバンカ・トランプ夫妻の暴露本『クシュナー株式会社』は、痛快だが賞味期限の短い一時のエンターテインメント>

今年3月発売の新刊『クシュナー株式会社――強欲、野心、腐敗』の冒頭は、「アメリカのプリンスとプリンセス」ことジャレッド・クシュナーとイバンカ・トランプ夫妻が、ドナルド・トランプ米大統領の就任式後の舞踏会で踊るシーンから始まる。

その頃クシュナーの両親は、2キロほど離れた所でユダヤ教の安息日を過ごしていた。彼らはクシュナーの弟の悪口を言い、大統領の恩赦に期待を巡らせていた(父チャールズは2004〜05年に脱税や違法献金などの罪で罰金刑と実刑判決を受け、さまざまな権利を剝奪されている)。

本の中ではこんな調子で、米大統領の娘夫妻――ジャレッドとイバンカを組み合わせて「ジャバンカ」と呼ばれる――の穏やかなイメージと、その裏の浅ましい動機の対比が繰り返し強調される。2人を取り巻くスキャンダルと過ちと性格上の欠点について、現時点の集大成とも言える1冊だ。

寄せ集めのスキャンダル

一方で、ホワイトハウスを舞台にした陰謀論の典型でもある。最近、話題になる政治本といえば、情報源が曖昧な上、ばらばらの情報源から寄せ集めたものも少なくない。

『クシュナー株式会社』にも、チャールズ・クシュナーはバイセクシュアルだ、イバンカは美容整形をしている、といった噂話がちりばめられている。

クシュナー家の人々は、ジョシュア(ジャレッドの弟)の妻でモデルのカーリー・クロスを、ミズーリ州出身の無教養な「異教徒」だとバカにした。母セリルは、「ジョシュアの結婚を母親として最大の失敗だと思っている」という。

著者でバニティ・フェア誌の元寄稿編集者ビッキー・ウォードは、そんな記述の真偽を問われた際のリスク管理も抜かりない。「この人物はそう聞かされた」「(現在は)状況が変わっているかもしれない」と断り書きが続き、広報担当者が正式に否定したと締めくくる。

ある章の冒頭では、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたボブ・ウッドワードの本の書評を引用している。ウッドワードの本から直接引いた文章もあるが、実際にはそれ自体が匿名の情報提供者が語った「印象」を要約したもの。このようなアプローチは、いわばインスタグラム経由のジャーナリズムだ。著者の主張を曖昧にする一方で、読者の興味をそそる。

ウォードは、イバンカにはそれほど関心がなさそうだ。大統領の長女は自信過剰で、狭量で、現実離れしていて、特別に賢いわけではないが、夫ほど極悪非道ではないと描かれている。

イバンカが自分のファッションブランドを閉鎖する前に、トランプが外国の要人と電話をしていたときのこと。ある情報源によると、その要人が自分を助けてくれるかもしれないと思っていたイバンカは、電話に割り込んで雑談(「ヨガの話」)を始め、父親にたしなめられた。

著者ビッキー・ウォード BENNETT RAGLIN-WIREIMAGE/GETTY IMAGES

ルース・グラハム(ジャーナリスト)