昇格組の勢いの前に、サックスブルーは立ち上がりから圧されているように見えた。4年ぶりにJ1に復帰した松本山雅FCをホームに迎えての開幕戦。ジュビロ磐田はJ1参入プレーオフにまわった昨季と同様に、厳しいシーズンを予感させる戦いに終始した。


大久保嘉人の開幕戦はシュート1本に終わった

 昨季J1で16位のチームと、昇格チームの一戦は、ともに守備組織に自信を持つだけに、手堅いゲームとなると予想できた。

 しかし、その予想をいい意味で裏切ったのが松本だった。開始早々に岩上祐三が壁の下を抜く鮮やかなFKを叩き込むと、その後は持ち前のハードワークで相手の出足を封じ、前田大然のスピードを生かした強烈なカウンターで追加点の機会をうかがった。

 惜しむらくは、後半立ち上がりの押せ押せの時間帯で、2点目を奪えなかったこと。ここで決めていれば、勝ち点3を手にすることは可能だっただろう。

 結局71分に、警戒していた川又堅碁の高さに屈し、勝ち点1を確保するにとどまっている。

「残念という言い方もありますし、よくやったという言い方もあるようなゲームだった」

 無念さをにじませた表情で振り返った松本の反町康治監督は、勝ちを逃した想いを強くしているに違いない。とはいえ、J1でも十分に戦える手応えも得たはずで、今後の戦いに希望を見出す一戦となっただろう。

 一方の磐田は、失望感の募る戦いとなった。不甲斐なかった昨季の屈辱を払拭すべく、迎えた新シーズン。だが、そのパフォーマンスからポジティブな側面を見出すことは難しかった。試合を困難にしたのは、早い時間帯の失点であることは間違いない。

「ゲーム展開を考えたら、立ち上がりのあのFKの失点で松本に大きな自信を、そして我々に大きな失望を与えたゲームになってしまったなと思っています」

 磐田の名波浩監督も、その失点の重みを痛感している。これにより、松本の守備意識はより高まり、得意とするカウンターを繰り出しやすい状況が生まれたのだ。

 追いかける立場の磐田だったが、まるで攻め手を見出せない。パスをつなごうにも、相手のプレスをはがすことができず、簡単にボールを失うシーンも目立った。

「前向きに、前がかりに重心を持っていこうというなかで、シュート数が増えなかったのは残念だったと思っています」

 名波監督も、攻撃が機能しなかった状況に、もどかしさを抱いているようだった。

 今季の磐田は、得点力不足に苦しんだ昨季の状況を改善すべく、新たなスタイルに取り組んでいる。4-2-3-1の布陣をベースとし、最終ラインからのつなぎの意識が高まった。

 特筆すべきは両サイドバックのポジショニングで、ライン際に張るのではなく、中央気味に位置を取る。中央の枚数を増やすことで、中盤のパスコースを増やすとともに、サイドに目いっぱい張り出した新加入のFWロドリゲスとMFアダイウトンの両翼の突破力を生かそうという狙いが見て取れた。

 いわゆる偽サイドバックは現代サッカーのトレンドとなっているだけに、攻撃面に問題を抱えたチームにとっては前向きなトライと言えるだろう。

「サイドバックがインサイドに顔を出すという作業は、(中村)俊輔が交代するくらいまでは何度かできたと思います」と、名波監督も一定の評価を与えている。

 また、センターフォワードの大久保嘉人、トップ下に入った中村も頻繁にポジションチェンジを繰り返し、相手の守備網に揺さぶりをかけようと試みている。もっとも、自由自在でポジションレスなスタイルと言えば聞こえはいいが、実際は「下がると前に人がいなくなるし、前にいてもボールが来ないから、どうしようかなと」という大久保の言葉が現実だろう。

 つまり、人が動いても空いているスペースに他の選手が入り込む連動性はなく、逆に動くことで狭いエリアに選手が密集してしまう場面も見られた。ボールの動きもけっしてスムーズではなく、いわゆる3人目の動きもほとんどなかった。

「ボールは握られたけど、相手はうまくいっている感じではなかった」と、松本のディフェンスリーダー橋内優也が振り返ったように、ポゼッション率が高まっても、磐田のパス回しは相手に怖さを与えられなかったのだ。

 磐田に勢いが生まれたのは、終盤に入ってから。山田大記の大きな展開から両翼をシンプルに走らせ、川又の高さを生かす狙いが結果的にハマった。しかし、それは本来求めていた形とは異なるだろう。磐田の新機軸はまだまだ精度が伴わず、発展途上であることをうかがわせた。

 もちろん、まだシーズンは始まったばかりであり、新たなスタイルは試合を重ねるなかで成熟されていくものだ。新加入選手のフィットやケガ人の復帰など、今後の上積みも当然見込まれる。

 ただし、シーズンが始まった事実に変わりはなく、悠長に構えていることもできないだろう。スタートダッシュの成否がシーズンの行方を大きく左右することは、過去の例を見るまでもなく、明らかだからだ。

「このままだと、去年と同じになる」

 わずかシュート1本に終わった大久保は、危機感を吐露し、会場を後にしている。