フィンランド人はととのい知らず!?サウナ文化研究家に聞いた「本場のサ道」
サウナ愛好家の間で大きな話題となっている書籍「公衆サウナの国フィンランド」。本書にはサウナの聖地と呼べるフィンランドの入浴事情が詳細に記されている。公衆サウナの歴史、新旧さまざまな施設オーナーのインタビュー、そしてフィンランド人にとっての「サ道」と呼べる入浴スタイルなど、まさにサウナー必読の書と言える内容だ。なかでも衝撃だったのが「フィンランド人は“ととのう”感覚がわからない」というサウナー衝撃の記述…!著者こばやしあやなさんにフィンランドサウナのホントのところ、教えてもらいました。
ホームステイ先のおじいちゃんと全裸でサウナデビュー
── フィンランドのサウナ文化を知るのに、この本は本当に最高でした。カルチャーショックの連続でしたよ…。あやなさんが初めてサウナに出会ったのはフィンランドに行ったときなんですね。
そうですね、21歳の時に初めての海外旅行として訪れたのがフィンランドでした。その時にホームステイ先のおじいちゃんと一緒に全裸で入ったサウナが人生初ですね。サウナにハマったというよりは旅行の素敵な思い出、って感じでしたけど。
── 旅先で泊まった家のじいちゃんと全裸でサウナデビューって強烈ですね(笑)日本に戻られてからサウナに通うことはなかったんですか?
帰国後にハマったのはサウナではなく銭湯でしたね、建築を学んでいたこともありましたので、自然と惹かれました。日本のサウナはフィンランドとあまりに違うので、ちょっと別物のように感じていました。
しばらくサウナのことは頭になかったんですが、その後フィンランドに留学して、学生サークルのサウナパーティという文化を知りました。大学生の男女が年に数回集まってみんなで貸切サウナでパーティするんですよ、ほとんどバスタオル一丁で。「フィンランド人たちは飲み会感覚でサウナパーティするんだ!」って驚きましたね。
貸切のサウナパーティでは、男女が一緒にサウナに入ることもしばしば。写真は水着だが、バスタオル一丁のこともある。日本では信じられない光景だが、フィンランドでは日常。 撮影:Eetu Ahanen
── 日本だったら大事件ですねそのパーティ(笑)。このときはまだ公衆サウナの存在は知らなかったんですね。
現代ではほとんどの家庭や集合住宅にサウナが備わっていますからね。公衆サウナは存在自体が忘れられかけていました。労働者街にインフラとしてぽつぽつ残っていたくらいで、本当にニッチな存在だったんです。留学を経て本格的にフィンランドへ移住し、大学院に通っている時にその存在を知って「まさにフィンランド版の銭湯だ!」と衝撃を受けました。
その後、日本の銭湯文化との類似性におもしろさを感じて、論文のテーマに公衆サウナを選びました。これまでサウナの論文は医学や建築の分野のものばかりでしたので、目新しかったかもしれません。折しもこの時フィンランドには古い公衆サウナの再評価、新しい公衆サウナの計画など、ムーブメントが起こりつつありました。公衆サウナ・ルネッサンスと言えるタイミングでしたね。
フィンランドに水風呂はないし、何セットやるとかもない
── さっそくなんですが、フィンランド人がととのい知らずって本当ですかあやなさん。なんかイメージと違うんですけど!ディープリラックスのためにやってるんじゃなかったんですか!? 教えてください!
ちょっと落ち着いてください(笑)うーんそうですね、そもそもフィンランドのサウナには日本で言う水風呂はありません。湖に飛び込むことはもちろんありますが、それは湖水地方などコテージでの話です。都市部ではシャワーと外気浴だけが当たり前ですね。それも日本のように快感を求めてクールダウンするのではなく「ずっとサウナに入っているとのぼせちゃうので」というニュアンスです。サウナとクールダウンがセットなのは間違いないんですけど。
── なんと…!それって日本で言うところの、あつめの露天風呂入ってる途中で岩に腰掛けて涼むみたいなイメージってことでしょうか。
まさにそんな感じですね!むしろフィンランド人たちは「日本人はサウナでなにかディープな快感を得ているってホントなの!?」と頭にハテナを浮かべています。
日本のメディアでは凍った湖に穴をあけて飛び込む「アヴァント」や、雪の上で転げ回る様子が当たり前のスタイルみたいに紹介されますが、あれやったことあるフィンランド人は3〜4割くらいですよ。全員あんなエクストリームなことしてるわけじゃありません。女性は特にそうなので、私も挑戦したら周りに「クレイジー!」って言われましたよ(笑)
ついでに言うと「サウナは3セットが基本」みたいな考え方も全くないですし、そもそも「セット」という概念がないですね。サウナの楽しみ方が人によって違いすぎるというか、ルール的なものは全くと言っていいほど存在してないですね。
凍った湖でクールダウンする伝統的な入浴法。マイナス20℃では何もしないと一瞬で湯冷めしてしまうが、一度肌を極限まで冷却すると長く外気浴を楽しめる
── ちょ、ちょっとショックが多くて頭が追いつかない…。水風呂はないにしても、フィンランドの方々も日本のサウナーと同様に「クールダウン後の休憩でディープリラックスを楽しんでいる」ということは疑いもしませんでした…。
もちろん同種の気持ち良さは感じていると思いますが、それがメインではないので、ピンとこないのかもしれませんね。そのかわりにフィンランド人は酔っ払いながらサウナに入る気持ち良さは満喫していると思います。小瓶のビールはサウナのお供の定番ですね。むこうは自己責任の文化なので、サウナ×お酒も成立するんです。私もサウナでほろ酔いになるのは大好きですよ!
ビールはサウナの良きお供。カフェ・バーが併設されている公衆サウナも多く、外気浴中にもお酒を楽しむ 撮影:かくたみほ
── なるほど!子どものころからサウナに親しんでいるからできる芸当なのかもしれませんね。しかし想像してたサウナ大国の姿とギャップがあって驚きました。
サウナ同士で比較するとそうかもしれませんが、フィンランド人にとってのサウナと、日本人にとってのお風呂は本当に近いものがあります。日本人も毎日家のお風呂で、全力で快楽を追求するってことはしないですよね?それと同じ感覚です。サウナには文化やエンターテイメントの側面もあると思いますが、それ以前に日常の習慣という面が圧倒的に強いので…。赤ちゃんも生後半年くらいからはサウナ入りますし。
ちなみにフィンランド人へのお土産話の鉄板ネタは「日本のサウナにはテレビがあるんだよ!」と「機械で冷やした水風呂があるんだよ!」なんですよね。キンキンに冷やされた水風呂の話をすると「テコ(疑似)アヴァントじゃん〜〜!!」ってものすごく喜びますよ(笑)
── うーむ、なんだか水風呂を愛する日本のサウナ事情とはとらえ方がずいぶん違いますね。もちろん日本の風土や嗜好などを反映して今のカタチになっているのだと思うので、それはそれで良いと思うのですが。
本当にそうですね。どっちが正しい!っていう話ではないと思います。例えばドイツのサウナ文化をみていても、フィンランド人からすれば目を丸くするようなエンターテインメント特化型に進化していますし。歴史的にサウナの文化が混ざっているロシアのバーニャ(ロシア版サウナ)ですら、やはり別モノですからね。多様性があっていいんだと思います。ただ、フィンランドではこれが肌感覚っていうのは間違いないですね。
ソンパサウナは「お台場に誰かが勝手にサウナ建てたようなもの」
2011年に突如あらわれた作り手不明のサウナがきっかけで発展し、現在も市民が運営するソンパサウナ 撮影:Kimmo Raitio
── 「公衆サウナの国フィンランド」にはさまざまな公衆サウナが登場しますが、個人的に一番強烈だったのがソンパサウナでした。
あれはフィンランドのサウナ文化の中でも異質ですね。ヘルシンキ中心街からほど近い埋立地の湾岸に、誰かが勝手に建てたサウナ小屋が発端です。小屋の壁に「ご自由にどうぞ」と書かれていたことで、いつのまにか市民が自治で管理する公衆サウナになったという。
── これ日本で言えばお台場にいきなり正体不明のサウナ小屋がみつかって「じゃあみんなで使おうぜ!」ってことですよね。しかもどんどん小屋が増えているなんて信じられない(笑)
中心街に近い場所なのに、みんな素っ裸で薪割りしてサウナ入ってますからね(笑)。当初は違法な存在でしたので市に撤去されそうになりました。でも愛好家が協会を立ち上げ、土地の賃貸契約を結び、公的に認められたサウナになりました。最終的にはヘルシンキ市から文化功労賞を授与されたという、異色の公衆サウナですね。
ここは早めに行くことおススメします!本に載っているサウナ小屋の1つはこないだ行ったらもう無くなってました(笑)かわりに新しい小屋が建っていましたね。フィンランドの小中学校では木工の授業もあるので、ほとんどのフィンランド人は小屋くらいならすぐに建てられます。みんな木材に設計図をラクガキみたいに書いて、サクッと建てちゃうんですね。
撮影:かくたみほ
── まるで生き物みたいなサウナですね!そしてフィンランド人のサウナに関するスキルは本当に凄い…。ちなみにソンパサウナのような常駐スタッフや管理人がいないサウナって、トラブルは起きないんでしょうか。
全くないわけではありませんね。書籍で詳しく触れていますが、トラブルも起きています。ソンパサウナは男女混浴であり、しかも一般的な公衆サウナと違って水着やバスタオルの着用も義務付けていません。サウナは裸で入るもの、という理念の方を優先しています。そんな中で、セクハラ事件が発覚して協会内外で大きな問題になりました。監視カメラを置くべきかなど様々な議論が持ち上がりました。でも最終的に、彼らは裸入浴の禁止や張り紙によるルールの厳格化をしなかったんです。
不審者の身元特定と出入り禁止などの対策はとりましたが「張り紙をしても悪い行動を起こす人をゼロにはできない、いつも善良な人の権利が奪われる」という結論に達したんです。行動規範を示して、みんなが良き利用者であることを目指そうと呼びかけています。
── 日本ではなかなか考えられないことですね…!しなやかな結論というか。安全や安心が重要なのは理解できるんですが、それを大切にするあまり禁止事項が増えがちな日本からすると、ちょっとうらやましく感じます。詳しくは本でお読みください!
閉店から救え!フィンランドは日本サウナ界の未来予想図?
2016年にヘルシンキに誕生したLöyly(ロウリュ)は、ハイセンスなデザインとコンセプトで国内外から注目を集めた。世界的な建築賞を立て続けに受賞し、瞬く間にヘルシンキの顔となった。禁止事項などの張り紙をあえて一切掲示せず、利用者同士が協調することを狙いとしている 撮影: kuvio.com © Löyly
── フィンランドの公衆サウナは衰退の時代を経て、現代で再びムーブメントになっていますよね。Löyly(ロウリュ)のような新時代を担うような施設が登場しているのはうらやましい限りです。
2010年代に入ってからは、公衆サウナの大ブームと言える状況が続いていますね。今ではヘルシンキを代表する公衆サウナとなったLöyly(ロウリュ)ですが、オープン前には運用に関して大変な反発がありました。Löylyは公衆サウナとしては異例の男女混浴制、水着着用がルールなのですが、フィンランドでは伝統的にも衛生的にも着衣はタブーとされてきました。しかし彼らは、だれでも同じ空間を共有できることや、性のバリアフリーの理念を優先させました。
結果的に、観光客を取り込むことに成功しています。ハイセンスな施設なのでローカルの人々からも、国外からのお客さんを迎え入れる場として活用されています。革新的なコンセプトの施設に、観光客とローカルが共存しているのはおもしろいですね。
── 老舗ではサウナ・アルラが新オーナーのキンモさんに引き継がれ、その手腕によって閉店危機から脱していますよね。新たな文化拠点、サードプレイスとしての役割を担っているという。
地域の文化拠点としても愛されていたサウナ・アルラは、2006年に現オーナーのキンモさんに引き継がれた。キンモさんは世界各国でテントサウナイベントを行っていたことでも知られるポップカルチャー界の有名人 撮影:かくたみほ
キンモさん自身は「僕はたいしたことはしていない、社会やフィンランド人の価値観の変化が、再興の理由だ」と謙遜されていますけどね。個人主義強めだったフィンランド人がヨーロッパナイズドされて、一期一会の交流に価値を見出すようになり、そこに公衆サウナがピタッとハマったという。でもやはり、アーティストや議員も兼務していた発信力のあるキンモさんが関わったことが大きいです。「古い公衆サウナには文化的な価値がある」と彼が動いたことで、結果的には政府観光局まで巻き込むことに成功し、公衆サウナ自体が観光資源として認知されましたからね。
── 日本では最近、老舗サウナの閉店が多くて…。類似性を感じるフィンランドから、何か学べるところがあるんじゃないかなと。
ヘルシンキも全盛期には公衆サウナが120軒ありましたが、3軒まで減少しましたからね…。日本は湯船が主役で、いわゆるフィンランド式サウナが海外の文化である以上、公的なバックアップはこちらに比べると難しいかもしれません。でも、もしかしたら愛好家の熱量がキーになるかもしれません。サウナ・アルラのオーナーであるキンモさんも元々はお客さんですし、本にでてくる現存する最古の公衆サウナ「ラヤポルッティ」は、廃業同然の状態から地元民が中心となって復興を果たしました。こういったエピソードには、老舗を守るヒントがあるかもしれませんね。
現存する最古の公衆サウナ・ラヤポルッティは、廃業同然だったことから市が取り壊しを計画。これに対して地元民が文化的価値を訴えて立ち上がり、協会を発足して見事再建を果たした 撮影:かくたみほ
── 長い目で見ると、愛好家の母数が増えるのが一番いいのかもしれませんね。マニアックな方向で盛り上がるのも日本らしくて良いですが、母数を増やさないと縮小してしまうのは間違いないですし…日本はいま、過渡期なのかもしれませんね。
「サウナイキタイ」を最後まで作らない国、フィンランド
── ところでフィンランドにはサウナイキタイのようなデータベースサイトはあるのでしょうか?
無いですね、それどころかフィンランドは「最後までサウナイキタイを作らない国」と言えるかもしれません。みんなフェイバリットは当然あるんですが、お話した通り、とにかくフィンランドにおいてサウナは日常そのものなので。
論文を書いた時に年代ごとの公衆サウナの数を調べましたが、記録がない、だれも知らない、役所すらわからないという(笑)。古い電話帳や寄付名簿を片っ端からしらべて、ある程度の把握はできましたけどね。当たり前の存在すぎて誰も気に留めていなかったんです。
── サウナイキタイを最後まで作らない国か…。本を読んだ後だとなんとなく納得してしまいますね。あまりにも日常、ということですね。
日本のサウナーの皆さんのお話を聞いていると、日本はもう少し多様性を認めあってもいいのかなと思います。フィンランド人はサウナで知らない人とおしゃべりするのが当たり前ですし、反対に沈黙も気になりません。どう過ごしてもいいという、多様性を認める文化が根強いですね。尊重しすぎて、なにかあっても誰も注意しないというデメリットもありますが(笑)とにかく人によってスタイルも様々で、他人を意に介さない懐の深さがありますね。
── 日本人よ、ととのうだけがサウナじゃないぞ、ということですね!
それ言うと反発あると思って言わなかったのに…(笑)でもそういうことですね。逆に言えばフィンランド人が口々に「TOTONOTTA!」と言う日がきても不思議ではありません。日本とフィンランドは文化的に似ているところがたくさんあると思いますので、どっちが正解という考え方ではなく、お互いの文化を学び合えるのが幸せなんじゃないかと思います。
さて、この本を読んでフィンランドへ来たくなったあなた、朗報です!2019年にはフィンエアーさんから、フィンランドコーディネーターこばやしあやなと一緒にフィンランドを周るサウナツアーが発売されます!個人旅行ではなかなか行けない絶景のスモークサウナも体験できますよ、ぜひ遊びにきてください!
フィンランド本場サウナの旅7日間
── 素晴らしくスムーズな宣伝ですね(笑)!今年はフィンランドと日本の国交100周年、サウナーに嬉しい企画がどんどん出てきそうで楽しみですね。ここで紹介できなかったフィンランドの公衆サウナ文化も、書籍にはたくさん登場します。サウナー必読の書と言えるでしょう!まだ読んでいない方、ぜひお手に取ってみてください!
トークイベント情報
全国で出版記念トークイベント開催中。
詳しくは公式サイトでご確認ください。
書籍情報公衆サウナの国フィンランド
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発刊予定: 2019年1月
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発刊予定: 2019年1月
著:こばやしあやな/サウナ文化研究家