お金の情報は「知れば得する・知らないと損する」というものが多い。今回、6つのカテゴリごとに、そんな「耳より話」を集めた。第5回は「相続」について――。

※本稿は、「プレジデント」(2017年6月12日号)の掲載記事を再編集したものです。

■相続か生前贈与か? 財産、子孫の数……見極めのポイントは

資産を引き継ぐには、亡くなった時点で相続をさせる方法と生前に贈与をする方法がある。どちらが有利かはケースバイケースだが、もめごとが少ないのは生前贈与だ。弁護士で税理士の長谷川裕雅さんは「生前贈与なら資産を残す人の意思を相続人にはっきり伝えることができ、不満が出にくい」と指摘する。

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ただ、贈与税の税率は相続税よりも高く設定されているため、税金の負担が重くなるというデメリットがある。そこで、相続税よりも低い税率で生前贈与をする方法を考えてみよう。

贈与をする際には、課税の方法を「暦年贈与」か「相続時精算課税制度」の2つから選択できる。暦年贈与は1年間の贈与について翌年に贈与税の申告を行い、その時点で課税関係は終了する方法。相続時精算課税制度は、贈与した分も含めて相続時に相続税を再計算する方法。トータル2500万円までの贈与であれば、贈与時に税金がかからない。超えた分には20%の税金がかかるが、この分も含めて相続時に精算をする。

大雑把に言えば、相続時に相続税がかからない程度の資産なら相続時精算課税制度を利用したほうが有利。相続税がかかる場合には、暦年贈与の利用も選択肢に入れて、生前に資産を減らしておくほうが得策だ。

暦年贈与には年間110万円の非課税枠がある。「非課税枠は贈与を受ける人ごとに利用できるので子や孫が多いほど有利。相続人の配偶者なども加えれば、合計枠はさらに広がります」(長谷川さん)。

▼子供3人に110万円ずつ3回生前贈与で手元に多く残せる金額99万円(※)

(※)遺産総額6000万円の場合

たとえば、3人の子供に6000万円を相続するとする。生前に対策を行わない場合、相続税は120万円。生前に110万円ずつ、3回贈与した場合、相続財産が990万円分減るため、相続税は21万円。その差は99万円にもなる。

ただし、資産が多すぎる場合や、老い先短い場合には、暦年贈与の効果は小さくなる。その場合には、相続税の税率と贈与税の税率を比較し、贈与したほうが合理的な範囲で贈与するのも手だ。

「暦年贈与の注意点は、贈与の事実を税務署に否認されないように証拠を残すことです」(長谷川さん)。税務署の厳しい目にかかると、贈与が成立しておらず、親が子供名義の口座を勝手につくって入金をしているだけと疑われてしまうのだ。

そのためには「贈与契約書を作成しておく、もしくは、もらったお金を本人が確実に利用している形を残すのも有効です」(長谷川さん)という。

たとえば生命保険への加入。父から子へと贈与が行われた場合、子が契約者となり、父を被保険者にして生命保険に加入する。贈与資金の入金された口座から保険料が引き落とされるようにすれば、資金の利用は明らかだ。また、相続発生と同時に保険金を受け取れるので、相続税の納税資金などにも利用できるメリットがある。

親は少しでも多く子供に残したいもの。税金を余分に納めずにすむよう準備したい。

■維持費がかかってお荷物の空き実家、どうする?

相続時に「親の家」が火種になるケースが増えている。特に深刻なのは戸建ての場合。子供はすでに家を構えており、引き取り手がなく、押し付け合いになる。長谷川さんは「家じまいするのも一策です。親が元気なうちに売却して現金化するか、賃貸収入を得やすいマンションなどに買い替えておくべき」と勧める。

しかし、親が自宅を手放さず、死後、空き家となることも多い。土地家屋を引き継いだ子供には、固定資産税やメンテナンスコストなどの負担がのしかかる。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「空き家の維持には、物件価格の3〜4%のコストがかかると考えてください」と話す。妙案はないものか?

「空き家を貸せば、このコストを賃料で賄えます。国土交通省が支援し、地方公共団体とも連携する移住・住みかえ支援機構(JTI)の『マイホーム借上げ制度』を利用すれば、周辺相場の80〜90%の賃料で貸し出せ、そこから15%の手数料を引いた金額が家賃収入として手に入ります。空き室でも最低賃料を保証し、終身で借り上げてくれるなどメリットも多いです」(黒田さん)。親が介護施設に入り、空き家になった場合にも使える。覚えておきたい制度だ。

▼親の家、「マイホーム借上げ制度」で貸せば年間手取りは88万円(※)

(※)全国賃料平均より

■遺族が困らぬように存命中の今、何にお金をかけるべきか

人生の終わりに向けて準備をする「終活」に関心を持つ人が増え、エンディングノートにも注目が集まっている。

エンディングノートは、葬儀に関する希望や個人情報を記録して活用するもの。取引金融機関の情報など、相続時に役立つ情報も記入できる。

ただ、エンディングノートには法的拘束力はない。「遺産分割の希望がある場合には遺言書が必須。エンディングノートとの機能の違いを理解し、両方準備しておくと理想的です」(長谷川さん)。

遺言には、(1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言の3種類があるが、一般的に利用されるのは(1)か(2)。「(1)は自分で簡単に作成できる一方で要件を満たさず無効になるケースも多いので、(2)が望ましいです」(黒田さん)。

公正証書遺言の作成は、信託銀行の「遺言信託」で頼めるが、費用が30万円程度かかる。保管、執行まで含めると最低100万円程度が必要になる。各種サポートはあるが手数料が高いのが難点だ。一方、自分で公正役場に出向いて作成すれば、財産の多寡にもよるが、数万円程度で作成できる。

残された家族が困らないように、コストを意識しながら準備を進めたい。

▼自分でつくるエンディングノートと遺言で、浮く金額は100万円(※)

(※)遺言信託と比較した場合

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長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
東京永田町法律事務所 弁護士・税理士
弁護士と税理士の両資格を保有し、相続問題を総合的に解決できる数少ない専門家として相談者からの絶大な信頼を得る。著書に『磯野家の相続』など多数。
 

黒田尚子(くろだ・なおこ)
CFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士
大手シンクタンク勤務後、FPとして独立。執筆、講演、個人相談など幅広く行う。著書に『50代からのお金のはなし』など多数。
 

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(向山 勇 写真=iStock.com)