武田薬品工業の東京本社。大型M&Aの行方は

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「財務悪化への懸念が強く、早急に成長へのビジョンと詳細な収益見通しを示さないと株価は簡単には戻らないだろう」(市場関係者)――日本企業として過去最大規模のM&Aが本決まりとなったにも関わらず、そんな声がしきりに上がる。

創業230年超にして国内製薬最大手の老舗、武田薬品工業に対してだ。

買収によるシナジーは年間1600億円見込む

武田がアイルランド製薬大手「シャイアー」を買収する議案は、2018年12月5日に開かれた両社の株主総会で、それぞれ承認された。年明けにも買収手続きを終え、世界の製薬企業の売上高トップ10に入る「メガファーマ(巨大製薬会社)」が誕生する。

買収総額は約460億ポンド(約7兆円)。約3兆円の現金(借り入れや社債)と約4兆円は新株発行で賄う計画だ。武田の有利子負債は、買収前の約8倍の5.4兆円規模に膨らむ。

武田は5月にシャイアー買収で合意し、各国の独占禁止法当局の承認を得て、総会に諮っていた。

シャイアーは血友病など希少疾患の治療薬や血液製剤に強みがあり、遺伝子治療の分野も得意とする。開発が最終段階にある新薬の候補が16あり、武田はこれらを手中に収めることができる。2017年の売上高は武田をやや上回る規模。世界最大の市場である米国での売り上げが多く、武田は海外の販路拡大でも相乗効果が期待できるとしている。

武田のクリストフ・ウェバー社長は株主総会で、買収によるシナジー(相乗効果)を年間14億ドル(約1600億円)と見込んでいると説明し、「年間4000億円以上を研究開発に投資し、世界のグローバル企業に対抗できるようになる」と、買収の意義を強調した。

過去の大型M&Aはどうなった

株主総会では買収承認に3分の2以上の賛成が必要だった。武田OBや株主ら約130人でつくる「武田薬品の将来を考える会」が買収反対を訴え、創業家出身で社長を10年間、会長を6年間務めた武田国男氏も反対の意向を示していたが、創業家全体でも株式保有比率は10%に満たない程度とみられることもあり、反対の輪は広がらず。総会では圧倒的多数で買収が承認された。

ただ、不安も少なくない。製薬業界ではM&Aが日常茶飯事で、代表格が2000〜2009年に総額30兆円規模を投じて巨額買収を重ねた世界最大手のファイザーで、2000年に英グラクソ・ウエルカムと英スミスクライン・ビーチャムが合併したグラクソ・スミスクラインもこれに次ぐ。ただ、両社も時価総額はM&A当時から目減りしており、企業価値を維持さえできていないことになる。

医薬品業界は、新薬の特許切れとの時間の競争が宿命だ。買収が「時間を買う」戦略になるが、「その猶予の間に、新たな収益を生む新薬を開発できるかがカギ」(業界関係者)なのはいうまでもない。武田は、シャイアーとの研究開発機能の統合、開発拠点の米国シフトなどを検討している模様で、「稼ぐ力」をどれだけ高められるか、そこにおいて期待通りの相乗効果が生み出せるかが、今回の買収の成否を握る。

株価は一時年初の半値近くに

巨額買収だけに、財務面の不安は大きい。負債が5.4兆円に膨らむ結果、税引前利益に減価償却費などを加えた利益指標「EBITDA」に対する純有利子負債の倍率は、2018年3月末の1.8倍から、買収後は5倍程度に悪化する。非中核事業など資産の売却で100億ドル(1兆1000億円)規模を捻出するほか、米国事業での収益拡大を図る考えで、ウェバー社長は5年後の2023年3月をめどにEBITDAを現在と同水準の2倍程度にする考えを表明している(日経新聞12月7日朝刊)。

株式市場は、今のところ武田の戦略に冷ややかだ。新株発行で1株利益が希薄化する懸念もあって、株価は総会当日の5日の終値はやや上がって4240円、6日は反落して4104円、その後はじりじり下げて4000円を割り込み、12日には一時、3662円の年初来安値をつけた。その後はやや持ち直しているものの、買収計画が明らかになった3月下旬と比べ、約25%以上低い水準で、年明け早々に付けた年初来高値6693円からは半値近くまで下げた計算だ。