村田諒太からベルトを奪取したロブ・ブラント【写真:AP】

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試合を振り返り村田の敗因を探る

 ボクシングのWBA世界ミドル級タイトルマッチが20日(日本時間21日)、米ラスベガスのパークシアターで行われた。正規王者・村田諒太(帝拳)は指名挑戦者で同級3位ロブ・ブラント(米国)と2度目の防衛戦に臨み、フルラウンド戦い抜いた末、0-3の判定負け。自身のキャリア2敗目を喫し、ベルトを失った。絶対的有利の前評判だったが、まさかの完敗。誤算はどこにあったのだろうか。

 戦前の大方の予想は村田の「大差判定勝ち」。もしくは「終盤のKO勝ち」。ブラントはスピードと手数に優れるが、決定打に欠き、最終的にはじわじわとプレッシャーをかけ追い詰める村田が仕留めるだろうとの見方が多かった。しかし蓋を開けてみれば、フルラウンド打ち合っての判定負け。ジャッジ3人はそれぞれ118-110、119-109、119-109と大差をつけた。

 村田自身も、「『あ、負けたな』という感じ。今日はもう完敗ですね」と認めるしかない敗戦。いったい何が誤算だったのか。

 ブラントのスピード、手数の多さは1ラウンドから際立っていた。戦前の評判通りのファイトスタイルだが、そのクオリティが想定以上だった。「速かったですね。よく動くし」と村田も舌を巻くしかなかった。

 3ラウンド、4ラウンド、5ラウンドと村田も効果的なボディーブローを決めるシーンはあった。このボディーを積み重ねて、動きの落ちてきた後半一気に仕留める――。村田はそんな青写真を描いていたかもしれない。ここに第2の誤算があった。

「もっと落ちてくれるかなと思ったら落ちなかったので、よく練習してるんだろうなと思いました。ボディーは当たって効いているときもあったと思いますけど、それ以上に相手の方がインテリジェンスという面で上だったかな」

 タフさも想像以上。5ラウンドには一度、コーナーに追い詰め畳みかけるチャンスはあったが、以降もブラントの動きは落ちなかった。10点差をつけたジャッジ2人が村田にポイントをつけたのはこのラウンドだけだった。

ブラントは描いたプラン通りの展開に持ち込んだ

 そして第3の誤算。ブラントの完璧なまでの王者対策だった。村田も足を使いプレッシャーをかけることには成功したが、そこからのパンチがなかなか当たらない。逆にブラントに執拗なまでに左のショートを重ねられた。「右をしっかり見切って、左右に動いて、打ち終わりをジャブ突いてという感じ。コントロールされたな、よく研究されたなという印象です」と認めるしかなかった。

 ブラントは2か月前からラスベガス入りし村田対策を積んできた。元世界王者のエディ・ムスタファ・ムハマド氏には4か月前から師事。村田のことをよく知る、ライトヘビー級の元王者に細かい指示を受けてきた。戦前、ライター・杉浦大介氏による電話取材で、こう話していたという。

 村田にとって過去唯一の敗戦だった2017年5月のアッサン・エンダム(フランス)戦を振り返り、「あの一戦の中でムラタ攻略の青写真が示されたとも感じています。こちらがよりアクティブに動き、手数を出せば、ムラタのパンチは出なくなる。展開次第で動きが減ることがムラタの弱点ですね」と自信をのぞかせていたのだ。エンダムとブラントではタイプこそ違うが、ハンドスピードで村田を上回ることは共通している。まさに狙い通りの展開に持ち込んだわけだ。

 村田は完敗を素直に認め、「非常にいいコンディションでできてましたし、練習自体も100%やってきたんで、追い込みもしっかりやってきた。今までで一番いい追い込みができたと思ってますし、その過程においては何の後悔もない」と言い訳はしなかった。 

 村田にとってもゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグマッチなど、大きな展望が開ける一戦だったが、ほぼ無名に近い存在だったブラントにとっても、今回のタイトルマッチはボクサー人生最大のチャンスととらえていた。共に最善の準備をしたことは間違いないが、ほんの少しだけ、勝利への執念が上回ったのはブラントだったのかもしれない。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)