神戸の「バルサ化」は成功するか? 世界各地での“バルサ化失敗”の主たる原因は…
イニエスタの獲得で話題を集める神戸が、9月17日に吉田監督を解任し、「グアルディオラの師匠」とも言われるリージョを新監督に迎えた。コーチングスタッフも一新し、「バルサ化」を目指した改革が進んでいるが、果たして彼らは本家よろしく真のビッグクラブとなれるのだろうか。(『サッカーダイジェスト』10月11日号(9月27日発売)「ザ・ジャッジ」より転載)
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“監督メリーゴーランド”をやるチームは上手くいかない。フロントにビジョンと堪え性のないクラブは大抵ダメだと相場が決まっている。ただ、ヴィッセル神戸の場合はそれに当てはまらない。ビジョンははっきりしすぎているくらい、はっきりしている。
バルセロナになる──。海賊王になるくらい荒唐無稽に思えるが、神戸が本気なのはよく分かった。アンドレス・イニエスタの獲得に続いて、なんとファン・マヌエル・リージョ監督まで呼んできたからだ。
リージョは「ジョゼップ・グアルディオラの師匠」としてメディアで紹介されている。事実、現役時代の晩年には、当時メキシコのクラブ(ドラードス)を率いていたリージョ監督の下でプレーしている。引退後、指導者となるうえでの教えを乞うためであった。ヨハン・クライフ、マルセロ・ビエルサとともに、グアルディオラに多大な影響を与えた人物のひとりと言っていい。
バルサで監督を務めたことはないリージョだが、そのサッカー哲学がバルサのそれと通じるところは多い。むしろ、バルサよりバルサらしいかもしれない。その点で、リージョ監督の招聘は「バルサ化」へと突き進む神戸の選択として正しい。
一方、10代で指導者の道を志し、長い監督キャリアを持つリージョだが、これまで率いた多くのクラブで途中解任の憂き目を見ている。これだけ名を知られ、多くの人の尊敬を集めながら、これほど実績のない監督も珍しい。ビエルサ、パコ・ヘメス、ズデネク・ゼーマンと並ぶ超攻撃サッカーの旗手であると同時に、“奇人”でもある。癖の強い人物だということは、神戸のフロントも当然知っているだろう。それでも招聘したのだから、バルサ化以外は眼中になし、潔いくらいまっしぐらだ。
ちなみに一時期、世界各地でトライされたバルサ化は、ことごとく失敗に終わっている。上手くいったのはグアルディオラ監督が率いたチーム(バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティ)とマウリツィオ・サッリ監督のナポリぐらいか。Jリーグでも、かつて横浜フリューゲルス(1999年に当時の横浜マリノスと合併・消滅)が、元バルサのカルレス・レシャックを監督に招いて試みたが、成績は伴わなかった。
バルサ化を目指し、パスがつながらなかったチームはほとんどない。ボールポゼッションは目に見えて上がる。失敗の原因となるのは主に守備面だ。ボールを保持してもなかなかゴールが奪えず、逆に前がかりになったところをカウンターで突かれる。グアルディオラがバルサを率いていた当時、大きく改善されたのがディフェンスだった。もちろん、彼が就任する以前からバルサはバルサだったのだが、グアルディオラは守備面に手を加えることで、いわばバルサをバルサ化したのだ。
神戸もポゼッション自体は良くなっている。問題はやはり守備だろう。バルサの考え方でいけば、ボールを保持することが守備への準備につながるのだが、攻守の連動性がまだ弱い。というより、イニエスタとルーカス・ポドルスキを同時に起用してそれができるのか疑問だ。リージョ監督の手腕が注目される。
では、神戸はビッグクラブになれるのか。資金力という意味なら、すでにそう呼べる。タイトル争いの常連となるのが条件なら、その可能性も出てきている。ただそれ以上に必要なのは、ブランドイメージだろう。その点でもバルサ化という少々古くはなったが、依然として魅力的で分かりやすいイメージを掲げ、本気で邁進する姿勢を見せているのは大きい。あとは結果がついてくれば、ビッグクラブとして認知されると思う。
とはいえ、「バルサ化+リージョ招聘」という、かなり危ない橋を渡っているのも事実。ブランド品を身に付けるようにバルサに飛びついただけなら、一過性に終わるだろう。
文●西部謙司(スポーツライター)
『サッカーダイジェスト』10月11日号(9月27日発売)・「ザ・ジャッジ」より転載
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バルセロナになる──。海賊王になるくらい荒唐無稽に思えるが、神戸が本気なのはよく分かった。アンドレス・イニエスタの獲得に続いて、なんとファン・マヌエル・リージョ監督まで呼んできたからだ。
リージョは「ジョゼップ・グアルディオラの師匠」としてメディアで紹介されている。事実、現役時代の晩年には、当時メキシコのクラブ(ドラードス)を率いていたリージョ監督の下でプレーしている。引退後、指導者となるうえでの教えを乞うためであった。ヨハン・クライフ、マルセロ・ビエルサとともに、グアルディオラに多大な影響を与えた人物のひとりと言っていい。
バルサで監督を務めたことはないリージョだが、そのサッカー哲学がバルサのそれと通じるところは多い。むしろ、バルサよりバルサらしいかもしれない。その点で、リージョ監督の招聘は「バルサ化」へと突き進む神戸の選択として正しい。
一方、10代で指導者の道を志し、長い監督キャリアを持つリージョだが、これまで率いた多くのクラブで途中解任の憂き目を見ている。これだけ名を知られ、多くの人の尊敬を集めながら、これほど実績のない監督も珍しい。ビエルサ、パコ・ヘメス、ズデネク・ゼーマンと並ぶ超攻撃サッカーの旗手であると同時に、“奇人”でもある。癖の強い人物だということは、神戸のフロントも当然知っているだろう。それでも招聘したのだから、バルサ化以外は眼中になし、潔いくらいまっしぐらだ。
ちなみに一時期、世界各地でトライされたバルサ化は、ことごとく失敗に終わっている。上手くいったのはグアルディオラ監督が率いたチーム(バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティ)とマウリツィオ・サッリ監督のナポリぐらいか。Jリーグでも、かつて横浜フリューゲルス(1999年に当時の横浜マリノスと合併・消滅)が、元バルサのカルレス・レシャックを監督に招いて試みたが、成績は伴わなかった。
バルサ化を目指し、パスがつながらなかったチームはほとんどない。ボールポゼッションは目に見えて上がる。失敗の原因となるのは主に守備面だ。ボールを保持してもなかなかゴールが奪えず、逆に前がかりになったところをカウンターで突かれる。グアルディオラがバルサを率いていた当時、大きく改善されたのがディフェンスだった。もちろん、彼が就任する以前からバルサはバルサだったのだが、グアルディオラは守備面に手を加えることで、いわばバルサをバルサ化したのだ。
神戸もポゼッション自体は良くなっている。問題はやはり守備だろう。バルサの考え方でいけば、ボールを保持することが守備への準備につながるのだが、攻守の連動性がまだ弱い。というより、イニエスタとルーカス・ポドルスキを同時に起用してそれができるのか疑問だ。リージョ監督の手腕が注目される。
では、神戸はビッグクラブになれるのか。資金力という意味なら、すでにそう呼べる。タイトル争いの常連となるのが条件なら、その可能性も出てきている。ただそれ以上に必要なのは、ブランドイメージだろう。その点でもバルサ化という少々古くはなったが、依然として魅力的で分かりやすいイメージを掲げ、本気で邁進する姿勢を見せているのは大きい。あとは結果がついてくれば、ビッグクラブとして認知されると思う。
とはいえ、「バルサ化+リージョ招聘」という、かなり危ない橋を渡っているのも事実。ブランド品を身に付けるようにバルサに飛びついただけなら、一過性に終わるだろう。
文●西部謙司(スポーツライター)
『サッカーダイジェスト』10月11日号(9月27日発売)・「ザ・ジャッジ」より転載