【明田川進の「音物語」】第13回 「はだしのゲン」で広島の子どもを起用した話と西城秀樹さんの思い出
今回は、1983年にマッドハウスが制作した劇場アニメ「はだしのゲン」についてお話したいと思います。作品の舞台はご存知のとおり広島で、メインの役者は、現地でオーディションをして選ばれた地元の子どもたちに演じてもらいました。
今ではだいぶ多くなってきましたが、大人が子どもの役を演じるのではなく、実際に子どもにやってもらうのがいいのではないかとの意見が当時からでていました。企画当初から、リアルさをだすために広島の子にでてもらおうと言われ、地元の団体と一緒に大々的なオーディションをやることになりました。
オーディションは朝からの1日がかりで、広島に1泊した記憶があります。主役のほかに、同級生など同年齢の子どもが複数でることが分かっていましたから、オーディションでは何人かピックアップすることになり、そのなかで選ばれたのがゲン役の宮崎一成君、進次・隆太役の甲田将樹君らでした。甲田君はたしか広島大付属の小学校に通っていた子で、映画のあとは業界に残らず、おそらく進学したのではないかと思います。宮崎君は「はだしのゲン」の参加をきっかけに、そちらの方向に進みたいと考えたのでしょうね。今も声優として活動しています。
声優事務所のサイトに載っているプロフィールに何々県出身とあって、特定の方言がしゃべれるとの記載がよくありますが、方言は時代によって変遷していきます。年代によって方言の感じが違ってくる場合もあって、大人の広島弁は乱暴な印象があるけれど、子どものしゃべり方だとすごくかわいらしいんですよね。「はだしのゲン」では、実際に現地の子どもにやってもらうと全然違うなという実感があって、成功したと感じました。子役の皆さんも一生懸命やってくれて、芝居もなかなかいいかたちになったと思います。
方言をいかした作品を収録するときは、その地方の出身で方言指導もできる人に入ってもらうことにしています。僕はもともと江戸っ子で、そうした方面はさっぱりですので。阪神・淡路大震災をモチーフにした「地球が動いた日」という作品のときも、神戸出身の声優さんに大人の役としてでてもらい、子どもの役は「はだしのゲン」と同じように、現地でオーディションを行いました。
マッドハウス制作ではありませんが、「はだしのゲン」と同じ中沢啓治さん原作の「黒い雨にうたれて」という作品では、西城秀樹さんに出演していただきました。この作品の主役は青年で、いろいろ調べているなかで西城さんが広島出身だと分かったんです。ちょうど僕の会社で西城さんのコンサートのPAなどをやっている人がいて、つながりがあったので担当のスタッフに紹介してもらい、くわしい話をしにいきました。広島が舞台の映画であることもふくめ、そういう話ならぜひとの話になり、出演していただけることになりました。勘がすごくいい方で、すぐに声優さんたちとなじまれていました。「黒い雨にうたれて」は子どもには見せられないハードな描写もありますが、そうしたリアルな部分もきちんとやりたいとの意向で描かれています。