“港区女子=モデルやタレントの卵”は、もう古い。進化した港区女子の新たな勢力図とは
港区女子。
それは港区に夜な夜な集う、得体の知れない女性たち。
煌びやかで豪勢な生活を送る彼女たちだが、いつか“強制的に”この街を卒業する時がやってくる。
果たして、その後の人生は、幸せなのだろうか?
これまで、20代でいい思いをし過ぎて自分を見失った美咲や千葉の実家に戻った由梨、食事会で女の子を呼ぶ手配師となった美紗子などを紹介してきた。
甘い蜜を存分に吸った、港区女子の末路とは・・・?

-港区女子。
ひと昔前は、そんな言葉はなかったような気がする。
私が、そう呼ばれるようになったのはいつからだろうか。
この街にいると、言葉にしなくても分かるのだ。
港区女子が滅びることは永遠にない、と・・・
◆
「麻莉奈ってさ、可愛いけど中身がないよね」
お手洗いへ行って席へ戻ろうとした際に、友人の夏実が私の彼氏である拓郎にそう話していたのを偶然に聞いてしまったのは、3年前の夏の終わりだった。
酔っ払っていたのかもしれない。だが人の彼氏にそんなことを言う女友達なんて、一体どこにいるのだろうか。
「そう?麻莉奈は可愛いし、それでいいんじゃない?」
拓郎がそうフォローしてくれたことに救われるが、どんな顔をして席に戻れば良いのか分からず、思わず立ち尽くす。
「なになに?何の話をしているの〜?」
とりあえず何も聞いていないフリをして席に戻るが、夏実は笑顔でこう言い放った。
「あ、麻莉奈が戻って来た♡麻莉奈って可愛いよねって言っていたんだよ〜」
-怖っ…。この虚構の“友達ごっこ”にも疲れたなぁ。
上っ面だけの人間関係への虚しさを、私は肌で感じていた。
港区女子の友情なんて紙切れより薄い。ペラペラな友達ごっこ
あれから3年が経ち、私は今、丸の内のオフィスにいる。
「麻莉奈ちゃん、明日社長が出張から戻ってくるから、それまでにスケジュールもう一度確認しといてね」
「はい、分かりました。」
大企業の社長秘書として働き始め、早2年。
ただの腰掛け感覚でやっていた秘書という仕事に、真剣に向き合うと決めた。以前は知人の小さな会社で適当に楽しく仕事をしていたが、2年前に意を決し、転職したのだった。
「麻莉奈が真剣に仕事とか嘘でしょ?次はどこの男の寄生虫になったの?」
働き始めた当初、私が輪の中から抜け出そうとしたのが気に食わなかったのか、夏美から散々足を引っ張られた。
だが今では、当時の友達とはほとんど連絡を取っていない。たまにInstagramでコメントが来る程度だ。
薄っぺらい人間関係はいらないということに気づいてから、私は“断捨離”したのだ。
乃木坂から代々木上原の方へと引っ越し、最近では全く港区へ行っていない。六本木界隈なんて、もってのほかだ。
私が仕事に精を出し、港区を卒業した理由。
それは人間関係に疲れたから、だけではない。港区にも“キャリア女子の波”が押し寄せてきたことも大きかった。

変わる港区事情、レベルアップする港区女子たち
以前の港区の集まりだと、皆モデルやタレントの卵ばかりで、ルックスは人並み以上、世間一般で言うところのSクラス美女がゴロゴロいた。
しかしそのほとんどは、“何をやって暮らしているのか分からない”女子ばかり。世間相場と比較すると、就職率はかなり低かっただろう。
だがそんな港区にも、変化が訪れ始める。
何かしらの仕事に就いている女たちが、突如港区に進出してきたのだ。
中には医者や外銀勤務などかなりのハイスペ女子たちもおり、顔も良くて且つ自立しているキラキラ女子に、仕事も何もかもが中途半端な私に勝てる余地なんて何処にもなかった。
「麻莉奈さんって、お仕事は何をされているんですか?」
呼ばれて顔を出した食事会で、私よりはるかに年下であろう美梨から質問を投げかけられた。
「秘書をやっています。美梨さんは?」
「ふぅ〜ん。秘書なんだ。私は自分で会社やっています。PR的な?」
-出た!PR女子!
そう心の中で叫びながらも、この若さで自分でバリバリと仕事をしている美梨をまじまじと見つめる。お肌は若さゆえにツヤツヤしており、脚も細い。しかも、顔も可愛い。
もはやぐうの音も出ない。そして私は気がついたのだ。
何かを頑張らない限り、もうこの街にもいられないことに。
2018年版、元・港区女子とは?
◆
「あ〜美味しい!」
代々木上原にある『Lanterne』で、ハイボールとこの店名物の唐揚げを食べながら思わず唸る。最近の楽しみは彼氏の京太と一緒に、近所のお店を開拓することだった。

「やっぱりさ、仕事終わりの酒はうまいよな〜」
京太は大手メーカー勤務の31歳。学生時代の2つ上の先輩だ。港区で散々遊んでいた私は、一周回ってとても“まともな”男性と付き合うことになったのだ。
結局、結婚するならば港区で派手に遊んでいる人よりも、堅実で健康で真面目な人が一番だと気がついたから。
「でもさ、麻莉奈も毎日仕事頑張っていて偉いよなぁ」
目の前でニコニコとする京太。特に華やかでもなければ大金持ちでもないけれど、私は彼といてこの笑顔を見ると、とにかくホッとするのだ。
京太は、以前私が港区で派手に遊んでいたことを知らない。知っているのかもしれないが、一言も聞いてこない。
私の中で、20代を思いっきり港区で遊びつくしたことに、後悔なんて微塵も感じたことがない。ただ毎日が楽しくて、永遠にこんな日々が続くと信じて疑っていなかったあの頃。
振り返ると女友達や男関係でかなりドロドロしていたはずなのに、不思議なことに全てがダイヤモンドのように、キラキラと光っている思い出となっているのだ。
しかも散々遊びつくしたからこそ、今のこの平凡な毎日が最大限に愛おしく思えるようになった。
燃え尽きた結果、虚構の幸せよりも、身近にあって、自分らしく生きられることが一番の幸せだと気がついたのだ。
-トップも底辺も知っている人間が一番強い。そして雨があるから、晴れの良さがわかる。
こんなセリフを、港区の誰かに聞いたことをたまに思い出す。
人生は儚くて脆くて、そして短い。
だからこそ、若いうちにしか飛び込めない港区へ飛び込み、散々良い思いをさせてもらい、そしてサッと身を引くことが最高に綺麗な卒業の形なのかもしれない。
「なーなー、20代でやっとけばよかったと後悔してることとかある?」
酔っぱらってきた京太の質問に、私は笑顔で答えた。
「何もないよ。」
後悔なんて何もない。そんなもの、意味がない。今の時代、名乗った者勝ちなところもあるし、何歳になっても人生は大きく変えることができる。
自分の未来を切り開けるのは、ただ自分一人。
何でもない私が、特別な存在になれた街。それが港区だった。
そしてそこに飛び込むも飛び込まないも、自分次第。
ただ短くて儚い人生の中で、一度くらいあの独特の世界を体験しておくのも、意外に悪くないものだ。
そんなことを思いながら、私は目の前にあるハイボールを一気に飲み干した。
―Fin.

