2018年7月に発表されたプラグインハイブリッド車の「CLARITY PHEV」(写真:ホンダ

環境車のラインナップに精力的に取り組むホンダは、2030年までに新車の3分の2を電動化すると宣言している。その取り組みを具現化したモデルのひとつが、「CLARITY(クラリティ)」だ。

日本市場では、2016年春に燃料電池車「CLARITY FUEL CELL」の市販化を実現したが、北米ではすでに、このモデルをベースにEV(電気自動車)を登場させている。さらに、日本では2018年7月にプラグインハイブリッド車(PHEV)の「CLARITY PHEV(クラリティPHEV)」を発表した。

厳しさを増していく燃費/CO2規制

自動車にとって、ますます厳しさを増していく燃費/CO2規制。欧州では2021年に2015年当時と比較して約3割のCO2削減が求められており、エンジン=内燃機関の効率化だけで対応することが今後難しくなっていきそうだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

欧州各国では、2040年までにガソリン・ディーゼル乗用車の販売を禁止することが検討されるなか、日本では2018年7月、経済産業省の会議において「2050年までに世界で販売する日本の乗用車をすべて電動化することを目指す」という声が報じられた。これは、2050年までに温室効果ガスの排出を2010年比で8割減とする目標を達成するうえでの方策。ここ日本においても、電動化に向けた動きは急ピッチで加速することになりそうだ。

「ガソリン・ディーゼルエンジン車の販売を禁止」というニュースや「電動化」と耳にすると、バッテリーの電力で走る電気自動車(EV)が往来する姿を想像しがちだが、電動化技術の利用法はピュアEVだけなく、さまざまだ。

現状を踏まえれば、ピュアEVを内燃機関で走るクルマと同じ感覚で活用するには、バッテリーのエネルギー効率や充電設備の普及の課題もあって、ハードルが高い。一方で、車両タンクに貯蔵した水素と酸素を反応させて発電し、モーターで走る燃料電池車(FCV)の場合、満タンでの航続距離はエンジン車に近いものの、要となる水素ステーションの普及が進んでいない。


市場拡大の兆しをみせているのが、PHEVだ(写真:ホンダ

いま私たちにとって、最も身近な電動車はエンジンとモーターを連携して走るハイブリッド(HV)だが、EVとHVカーの間を埋める一歩先の現実的な選択肢として、市場拡大の兆しをみせているのが、PHEVだ。

ホンダのクラリティも排ガスが出ないゼロエミッション車としてはFCVやEVにインパクトはあるが、シリーズ中でボリュームリーダーとなりうるのはPHEVだ。HVと同様の航続距離の長さと、コンセントから充電可能な大容量バッテリーの搭載によって、HV並みの手軽さで向き合えて、EVの走行感覚が得られる時間が長い“いいとこ取り”の仕組みは身近な電動車として受け入れやすい。

車両価格は高級車を手にする価格帯に位置する

ただし、その反面、車両価格は高価になりがちだ。エンジン、モーター、大容量のバッテリーを搭載するとあって、車両価格は588万600円(8%消費税込)。高級車を手にする価格帯に位置することになる。

クラリティPHEVは、車格でいえばマツダ「アテンザ」やメルセデス・ベンツ「Cクラス」が属するDセグメントにあたるセダン。エンジンと2つのモーターをエンジンルーム内に搭載し、床下にバッテリーを含めた大型ユニットを配置している。

全高は1480mmと低めに設定しながらも、燃料タンクはトランク下に格納することで、大人5人がくつろげる室内空間と、ホンダのHVセダントップの広さの荷室空間を確保したパッケージングを実現。静かで快適で滑らかな走りが得られるモーター走行のメリットを生かして、新時代の電動プレミアムカーを目指して作りこまれた。

クラリティPHEVのスタイリングは、ワイドに構えたフォルムの中に、9灯式のフルLEDヘッドライトからつながるL字型のLEDポジションランプを採用。よく見ると、フロントグリルは開口部を狭め、空気抵抗を減らす専用デザインを採用している。堂々とした構えの中に上質さや洗練性を感じさせる姿は、ホンダのプレミアムセダンらしいクールな佇まいを印象付ける。

また、18インチのアルミホイールは空気の流入を抑える機能的なデザインのものを採用。F1マシンの開発でも活用されている風洞を使って開発が進められたというウンチクが聞こえるあたりも、ホンダらしいチャレンジスピリットが感じられて、夢があるではないか。

環境車というと、効率重視で走りが味気ないイメージを抱きがちだが、クラリティPHEVのハンドルを握って走り出したとき、思わずニヤリとしてしまった。その時の印象を端的に表現するとすれば、「乗り味の良さに唸らされた」というのが最適な表現だ。


運転席に座ってスタートスイッチを押すと……(写真:ホンダ

運転席に座ってスタートスイッチを押すと、エンジンが掛かる音がなく、電子音で走り出す準備が整ったことを伝えるあたりが未来的な演出。モーターによるシームレスな加速に加えて、車両の適度な重たさも手伝って、滑らかな動きとともに走り出す。

荒れた路面では、時折ゴロついた振動を受け取る瞬間があることは否めないが、路面のうねりや継ぎ目を乗り越えるときは、ガッチリしたボディがしなやかな足さばきで入力をいなし、タイヤを丁寧に路面に沿わせながら、フラットライドな走りを披露する。

素直なハンドリングを実現

多くの電動車は減速エネルギーを回収する「回生ブレーキ」を採用しているが、クラリティPHEVの場合、カーブの手前でアクセルを抜くと、軽くブレーキを掛けた時と同じような減速感が発生する。その際、車両は自然と前傾姿勢に持ち込まれて曲がりやすい体勢が整う。車体の中心付近の低い位置に重量物を配置していることによって、素直なハンドリングを実現しており、クルマと一体感を得て走る愉しさにつながっているのだ。

また、モーター走行時は、エンジンの振動から解放されるぶん、加減速の際に車体が前後に揺すられにくい。車速もコントロールしやすいので、運転に不慣れなドライバーでもイメージ通りに走らせやすく、リラックスした気分でドライブできそうだ。回生ブレーキの減速度はハンドルに備え付けられているパドルで調節できる。

走行モードを切り替えて、SPORTモードで走行時に回生量を最大にした場合、アクセルペダルから足を離すと、まるでブレーキペダルを踏んでいるかのように強めの減速が始まって、アクセルペダルのオンオフ操作で車速が調節できる。ブレーキペダルとの踏み替えを頻繁に行わずに走れる点では、イージードライブができそうだ。

EV走行領域がHV車より長くとれることも、大容量バッテリーを搭載するPHEVの特徴だ。クラリティPHEVには、1.5Lのアトキンソンサイクルエンジンに2モーターが組み合わされている。バッテリーは17kWhの高出力・高容量のものが搭載されているが、アコードPHEVと比較すると、バッテリーのパワーユニットは水冷化によって冷却性能が3.5倍向上し、出力は1.4倍に向上した。

パワーコントロールユニットはアコードPHEVと同等サイズでありながら、新構造の磁気結合インダクターの採用で、EV出力は3.3倍に。最高速は160km/hに達したという。走行と発電を担う2モーターは巻線の高密度化など、ホンダ独自の技術で小型軽量化した一方で、トルクと出力を向上させている。

最大114.6kmの距離をモーターのみで走れる

満充電の状態であれば、JC08モードで最大114.6kmの距離を、ガソリンを消費せず、モーターのみで走れる計算になる。日常的な移動であれば、ほぼモーターのみで走るEV感覚で使いこなせることになるわけだ。


EV走行領域がHV車より長くとれることも、大容量バッテリーを搭載するPHEVの特徴(写真:ホンダ

実際には、バッテリー残量やアクセルの踏み込み量などによって「EVドライブ」「ハイブリッドドライブ」「エンジンドライブ」モードからクルマが最適な状況を選択して走ることになるが、さらに、「ノーマル」「ECON」「スポーツ」の3つの走行モードの組み合わせが可能だ。

モーターのみで走るEV走行時はシームレスに走れる感覚にインパクトがあるが、そこからアクセルを踏み込んでみても、エンジンが掛かる際に嫌な衝撃を与えることもない。エンジンを回して走るときでも、モーターのトルクで加速を補うHV走行を行ってくれるので、低めのエンジン回転を保ちながら、十分な加速力を得られる。余裕をもって走れる点では、プレミアムセダンにふさわしいパワーユニットといえるだろう。

上級セダン「レジェンド」の大幅改良、ミニバン「ステップワゴン」に追加された待望のハイブリッド仕様の「スパーダ ハイブリッド」など、このところ、ホンダクルマづくりは、乗り味の良さに唸らせられることが増えてきている。その点、今回試乗したクラリティ PHEVはホンダ独自の優れたパッケージ技術と洗練された乗り味のクルマに仕上がっていると感じた。

ただし、そうした流れは、ともすれば、これから加速する電動化の波の中で、他社の商品に埋もれがちだ。今後、よりホンダらしい価値をもつ商品を提供することを踏まえれば、電動化しながらも、エンジンの回転フィールを徹底的に磨きあげるなど、ホンダファンの期待に応える個性的なクルマづくりをしてほしいという思いが芽生えてきた。