西脇俊二医師 撮影/北村史成

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 広く一般に知られるようになった糖質制限のダイエット法だが、継続はなかなか難しく、リバウンドしてしまったといった声も多く耳にする。『断糖ダイエット 元ぽっちゃり医師が成功した最高のやせ方』(宝島社)の著者・西脇俊二医師はその大きな理由を、「糖質の依存性から抜け切れていないことが原因。ここから抜け出せない限り、また同じ食生活に戻ってしまいリバウンドを繰り返すのは当然です」と語る。

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米や麺類などは麻薬のような依存性が!

 もともとは「うつ病」などを研究していた精神科医の西脇医師。『僕の歩く道』『相棒』『ATARU』など数多くのドラマの医療監修者としても知られる人物だ。7月スタートの『グッド・ドクター』(フジテレビ系)でもコミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動などの症状が知られる自閉症スペクトラム障害を持つ主人公(山崎賢人さん)の医療監修を担当する。

 また、医療現場で多くの患者と向き合った経験から、糖質摂取が身体にも心にも悪い影響があることを確信し、ベストセラーとなった『断糖のすすめ』を執筆した経緯がある。西脇医師によると、そもそも現代の日本人の多くは、米や麺類など炭水化物を必要以上に食べすぎだという。

「炭水化物はそのほとんどが糖質のことが多く、糖質の過剰摂取により消費しきれなかったブドウ糖は、体内で内臓脂肪や皮下脂肪に変化したり、脳内のβ-エンドルフィンという物質の量を増やす。そして、このβ-エンドルフィンには一種の“麻薬作用”、つまり中毒性があるのです。特に糖質と脂肪を一緒にとるとβ-エンドルフィンはより増えることがわかっています」

 なんと! 炭水化物には麻薬作用があるのだ。依存性も高く、炭水化物を食べれば食べるほど、“また糖質を体内に取り込みたい!”という気持ちに脳内のβ-エンドルフィンがさせてしまうという。これが糖質制限のダイエット法が継続できない大きな理由のひとつだったのだ。

「このように糖質には強い依存性があるので、その依存体質から抜け出すことが最初の一歩。そのためにもまずは3日間、徹底的に糖質カットに取り組むのが断糖を続ける秘訣です」

 何でも自分でまずは試してみるのがモットーの西脇医師は、自身も断糖を実践。3か月で17kg減量、体脂肪率マイナス16%に成功した経験を持つ。

「病気の患者さんには身体の糖質依存を徹底的に抜くために1日の糖質の摂取量を5g〜10gに制限することをすすめてきました。ですが、これには病気を治したいという強い、緊迫したモチベーションが必要。本書の目的はダイエットなので、キレイになりたいという人がスムーズに断糖をスタートできるように、糖質の摂取量を1日30gにゆるく設定しました」

 さらに、2児を育児中というイラストレーターのアベナオミさんに断糖ダイエットに挑戦してもらい、その経過を綴(つづ)ったコミックエッセイも西脇医師の解説文とともに収録。アべさんのダイエット前の体重は66.5kg、体脂肪率は34.2%。パンやご飯が大好き、かつ運動らしい運動の経験はなく、さらに仕事はデスクワークの自宅作業という、なかなか親近感の持てるプロフィールの持ち主だ。

「私も最初は大丈夫かな!? と心配しました(笑)。でも、2か月半で7kgも減量に成功。その後も継続され、さらに1kg減ったと報告がありました」

 コミックエッセイには、アベさんの心の叫びともいえる不安や戸惑い、身体の変化に対する喜びや発見が盛り込まれ、彼女とともに断糖ダイエットを擬似体験できる。もちろん断糖ダイエットのルールや継続する工夫なども楽しく紹介している。そして何より、断糖ダイエットのやり方の大筋がエッセイで読み取れるのはありがたい!

外食やお酒も上手にセレクトすればOK

 ダイエット中の大敵といえば仕事関係、友人からの外食やお酒のお誘い……。

「アルコールを飲む場合、ビールなどはホップと麦芽だけでつくられたものを選びましょう。米とコンスターチが入ったビールは、糖質が高くなるので避けること。醸造酒よりも蒸留酒のほうが糖質は少ないので、焼酎のお湯割りやソーダ割りなども大丈夫。外食なら肉や魚介類をオリーブオイルで調理することが多いイタリアンは断糖向きですが、パンやパスタは食べないこと。果糖もNGですから、流行(はや)りのスムージーなどはもってのほかです(笑)。いちばんのおすすめは、好きなものを注文できる居酒屋です。刺身や焼き魚、アサリの酒蒸し、ヤキトリなどをつまみに焼酎というのがおすすめオーダーですね」

 そのほかコンビニ食も「断糖の知識を持って、糖質の少ない商品や食材をセレクトすれば問題なし」といううれしいお言葉!

「断糖ダイエットは糖質摂取量を減らすだけでなく、運動も取り入れるため、1度、理想の体重、体脂肪にたどり着けば、リバウンド知らずです」

 つまり体重や体脂肪率を自在にコントロールできるダイエット法なのだ。

「人間の行動の大部分は、潜在意識で決まると言われていますから“糖質は毒である”と脳に刷り込むことがダイエット継続のカギ。タバコやアルコールなどへの依存も、いかにそれが自分に悪影響を与えるのかの知識を得ることが大事です」

 と精神科医の立場から成功の秘訣を語ってくれた。糖質=美味しい! から糖質=悪いヤツ! という頭の切り替えからスタートすることが、なにより重要なようだ。

ライターは見た!著者の素顔

 ドラマの医療監修者としても知られる西脇医師。 中居正広さん主演の『ATARU』ではサヴァン症候群の特徴的な癖や行動、仕草などを提案し採用された。また、「主人公と同じ症状を持つ私の患者さんの協力を得て、俳優さんと直接会ってもらうことが多かったですね」と振り返る。ドラマの医療監修から糖質制限の食事療法、難病治療など活躍の場は幅広い。豊富な医療知識はもちろん、自身の経験を交えた興味深い話の数々に時間を忘れる取材となった。

<プロフィール>
ハタイクリニック院長。精神科医師、認定産業医。日本アーユルヴェーダ学会上級教師。弘前大学医学部を卒業後、国立国際医療センター精神科に勤務。その後、数々の医療機関を経て、2009年より現職。漢方医学やアーユルヴェーダ医学、超高濃度ビタミンCや糖質制限の食事療法での治療を行う。ドラマの医療監修も担当。著書に『ビタミンC点滴と断糖療法でガンが消える』(KKベストセラーズ)など多数。

(取材・文/松岡理恵)