安西慎太郎 撮影/森田晃博

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 2.5次元作品から演劇性のストレート作品まで、多くの舞台に出演。近年は主演作も多数の舞台俳優、安西慎太郎さんがこの夏主演するのは『舞台「野球」飛行機雲のホームラン』。太平洋戦争中の予科練学校に召集された少年たちの野球への思いを軸に、彼らの青春の夏の日々を描くオリジナルストーリーだ。主人公の少年を演じる安西さんが、今作について最初に思ったことは──。

【写真】ユニフォーム姿の安西さん

僕らと変わらない青春があったと思う

「戦争中の若者たちの話ではありますけど、西田大輔さんが書くなら悲しさやはかなさだけではなく、希望のある作品になるんだろうなって思いました。当時の彼らがどうやって死んでいったかではなく、どういうふうに生きていたかっていうことを描くんだろうなと。きっと恋もしたでしょうし、友達とバカみたいなこともしたでしょうし、今の僕らと変わらない青春があったと思うので、そういう幸せな時間をすごく大切にした作品になるんだと思います」

 野球を愛する若者たちを演じるキャストには、2.5次元をはじめとした舞台で活躍する人気若手俳優たちが顔をそろえている。

「ビジュアル撮影でキャスト全員が初めて顔を合わせたんですけど。一発目のつかみというか、その作品の現場がどんな感じになるのかは最初がけっこう重要だったりするんですが、いい意味ですごく男くさくなると思います。同世代ってこともあるんでしょうけど壁とかも全くなく、部活のような空気感でやれるんじゃないのかな。僕は主演をさせてもらいますけど、みんなを引っ張るというよりは、むしろ誰よりもがむしゃらにダサくありたい。誰よりも怒られてもいいでしょうし。そういう姿勢をみんな見てると思うので、とにかく泥臭くやっていきたいなと思っています。今回は題材が野球ですし」

 安西さんは、幼稚園から中学まで甲子園を目指していた本物の野球少年。今でも草野球をやる大の野球好きで、まさに今作はハマリ役といえる。

「ビジュアル撮影のときに、共演する松田凌くんに“しんた、今日楽しそうだね。スチール撮影のとき、いつもそんなに笑ってたっけ”って言われて、びっくりしたんですけど(笑)。意識してなかったですけど、野球っていう言葉だけで自分がワクワクしたり、自分にとっていろんな思いが詰まってるスポーツなんだなというのは感じました。ほんとに野球っていいですよね。

 高校野球は特に大好きで、寝るときに試合の映像を流してBGMがわりに音だけ聴いてるんですよ。解説の人の声とか打球の音とかがすごく落ち着くんです。昨日は、今年の選抜の三重と大阪桐蔭の試合を流して寝ました(笑)」

指導していただく前に自主トレします

 ご自身の野球人生でいちばん印象深いことは?

「小6のとき、リトルリーグの最後の大会でのことなんですけど。ライバルチームの平塚リトルとの試合で、僅差で僕らのチームが勝ってて。その後、逆転されてボカスカ打たれて5点差になったときに、僕の打席が回ってきて、ひとつ年下の後輩を代打に送られたんですよ。僕はそのときの相手ピッチャーがすごく苦手で以前から打ててなかったからっていう理由なんですけど、リトルリーグの最終打席に代打を出されたのはすごく悔しかったですね。その試合のことは今でも細かく覚えてます」

 某有名高校からスポーツ推薦の話も来るほどだったが、高校2年の春にひじをケガして断念。俳優を目指すようになった。

「戦争とケガではぜんぜん違うものですけど、野球をやることで絶望とか希望とかを知ることはできたので、そういう意味では役とか作品に何か生かせるとは思うんですけど」

 クールな役を演じることも多いせいか、野球について熱く語る様子は、少しギャップがあって印象的。

「でも、好きなことだと、ずっとしゃべっちゃう。意外と熱血系なんですかね(笑)」

 今作は、元プロ野球選手の桑田真澄さんが野球監修することでも話題。キャストに直接、野球の指導もするという。

「いや、指導していただけるなんて、すごいことですよ。冷静に指導を受けられないんじゃないかと思ますね。芝居の稽古(けいこ)より楽しみかもしれない(笑)。だから、指導していただく前に自主トレしますから。一応、野球経験者ですから、たぶん野球経験者なんだなって見られ方をすると思うので、“ちょっとアイツやるな”って思われたいから。野球をやっていたというプライドが一応ありますのでね(笑)。稽古のオフ日も全部、野球の練習がいいですね。オフいらないから練習したい」

地元の幼なじみと過ごす時間

 多忙な日々の気分転換は、地元の幼なじみと過ごす時間だそう。

「寂しがり屋なんで、誰かにそばにいてほしんですけど。地元でいつもつるんでた男5人組が、僕以外みんな結婚しちゃって、休日は子どもと奥さんの日なんで、ずっと会ってなかったんですよ。でも今年の2月に別の地元の友達何人かと久しぶりに会ってLINEを交換して連絡とるようになって。その中に野球仲間だった消防士をやってるやつがいて、平日が休みなんで最近は週4くらいで会ってますけど(笑)。でも野郎だけで遊ぶのって、すごく楽しいなって最近思いますね。スーパー銭湯とかに行っても、下ネタばっかりとか(笑)、何もカッコつけないで素の自分のまんまでいられるんですよね。それが最高だなって」

 最後に、意気込みと読者へのメッセージをお願いします。

「西田さんの作る作品は間違いないので、あとは僕ら役者がひたすら頑張るだけだと思います。

 戦時中に彼らが生きていた意味、僕たちが今生きている意味、いろんな意味を感じられる作品になると思います。最後は見た方が前向きに考えられるような作品にしたいと思っていますので、ぜひ劇場にお越しください」

■舞台「野球」飛行機雲のホームラン〜HOMERUN of Contrail
 終戦前年の1944年夏、戦局が暗い影をもたらす中、少年の甲子園のグラウンドに立つという夢はかき消され、予科練への入隊を決意する。少年たちはぶつかり合いながらも、未来を語り合い、ひとつのチームになっていった。甲子園は叶わなくても、野球への情熱は捨てられず、その思いは“忘れられない1日”へつながっていく。演出の西田大輔書き下ろしの感動作。
東京公演:7月27日(金)〜8月5日(日)@サンシャイン劇場
大阪公演:8月25日(土)〜8月26日(日)@梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【公式HP】http://www.homerun-contrail.com

<プロフィール>
あんざい・しんたろう◎1993年12月16日、神奈川県出身。’12年、俳優デビュー。以降、舞台を中心に活動。近年は、舞台『幸福な職場』、『遠い夏のゴッホ』、舞台『四月は君の嘘』、『ゆく年く・る年冬の陣』など多くの舞台に主演している、注目の若手実力派。

(取材・文/井ノ口裕子)