by Mrs eNil

何年ものあいだ研究が行われることによって「運動は減量のために最も適した方法ではない」ということがいくつもの研究で示されています。マウスを対象とした新たな研究ではその理由として「運動をした後、マウスはエネルギーを温存する行動を取る」という非常に興味深い内容が示されています。

Reduced Nonexercise Activity Attenuates Negative Energy Balance in Mice Engaged in Voluntary Exercise | Diabetes

http://diabetes.diabetesjournals.org/content/early/2018/03/12/db17-1293

Why Exercise Alone May Not Be the Key to Weight Loss - The New York Times

https://www.nytimes.com/2018/04/11/well/move/why-exercise-alone-may-not-be-the-key-to-weight-loss.html

過去に行われた多くの研究では、「運動を行った被験者の体重減少は数学的な予想よりも少ない」ということが示されました。今回研究を行ったヴァンダービルト大学の動物研究者らは、このことに対し、「運動を行った後、人や動物はより貪欲になり、多くのカロリーを摂取するようになるのでは?」「あるいは運動時以外の部分では座りがち・休みがちになるのは?」と仮説を立てました。運動が行われなかったら生じなかったであろう行動によって、結果的に運動で消費したエネルギーを穴埋めしてしまい、体重が減少しないのではと考えたのです。



by bruce mars

マウスであれ人間であれ、生き物における肉体的な行動全てを測定するのは非常に難しいもの。しかし、近年は赤外線ビームを当てることで動物の動きをトラッキングできる技術が開発されており、ソフトウェアで動物の行動パターンをマッピングできるようになっていることから、ヴァンダービルト大学の動物研究者らは実験に踏み切りました。

研究者らは車輪付きのケージに若く健康で通常体重の12匹のマウスを入れ、行動をトラッキングしました。このとき、最初の4日間は車輪が固定されていましたが、次の9日間は車輪は固定されていなかったため、この期間中マウスは自由に車輪の上を走ることができたとのこと。

観察と測定の結果、車輪での運動を行うことによるマウスのエネルギー消費量は非常に大きいものであるとわかりました。また、運動量が増えたからといって、消費したエネルギーを取り戻そうとマウスが食事量を増やすことはありませんでした。

しかし、車輪を使い出した直後から、マウスは行動を変化させました。車輪をロックしていた時はケージ内をうろついていたマウスたちは、車輪のロックを外すとうろつかなくなったのです。特に車輪固定時には見られた「長い距離を歩き回る」という行動が少なくなり、マウスたちは車輪を上で走り、残りの時間は車輪の外で休憩するか、あるいは短い散歩を行うかという行動パターンになったとのこと。ヴァンダービルド大学の分子生理学者であるダニエル・ラーク氏は「車輪外でのマウスの行動の変化は、車輪によるカロリー消費を打ち消します」と語っています。



by Maarten

車輪の固定が外された後のマウスはエネルギーの消費量が摂取量をわずかに上回ったとのことですが、もし車輪の固定が外された後でもマウスが車輪が固定されていた時のように動いていたら、1日の消費カロリーは45%も大きくなったであろうと見られています。

なぜマウスの行動が変化したのかは不明ですが、「疲れたか、時間がなくなったからでしょう」とラーク氏は説明しています。また、動物の体や脳がエネルギー不足を感知すると脳に「スローダウンするように」という信号が送られ、エネルギーを保存し、ホメオスタシスを保とうとするがゆえに体重が減らないのだとも考えられています。

もちろん今回の研究はマウスについてのものであって、人間を対象とした研究では異なる結果が出る可能性は多いにあるのですが、「減量したい」と考えている人にとっては興味深い示唆を含んでいると言えそうです。