荷室開口面積からくる剛性やボディ形状による空力でセダンが有利

 セダンとワゴンを同じモデルで比べた場合、最大の違いはリヤまわりのボディ形状にある。一般的にはセダンのほうがワゴンよりも剛性面で有利とされており、さらにワゴンはガラス面が大きく、リヤまわりの重心がやや高くなることから、走りの面でもセダンのほうが有利と言われる。

 筒状のボディシェルを輪切りにしたようなワゴンボディよりも、荷室の開口部が小さく、リヤウインドウと荷室を仕切るパネル(バルクヘッド部)があって、さらにCピラーを太く構成できるセダンのほうが強いボディを作りやすいは確かだ。

 6世代の歴代モデルのすべてにセダンとワゴンを設定し続けているレガシィでも、ニューモデルが出るたびにセダンよりもワゴンのボディのほうが剛性の向上に苦労したことがうかがえる。

 その傾向は古いモデルではより顕著で、たとえば2代目レガシィのボディ剛性向上率を見ると、セダンの捻り剛性は旧型比で+5%だが、ワゴンでは旧型比で+14%と向上率が大きい。曲げ剛性にいたっては、セダンは旧型比で+15%なのに対し、ワゴンではじつに+30%も向上。これはワゴンのほうが剛性を向上させる伸び代が大きかったということで、逆に言えば、初代モデルのボディはセダンとワゴンで剛性の格差が大きかった。

 完成された実車を見比べてもイマイチわからないが、生産工場などで組み立て中のホワイトボディやプレスされたボディパネルを見ると、セダンよりもワゴンのボディ後端は剛性の確保が難しそうに見えるものだ。セダンのピラーはA、B、Cの3本で済むのに対し、ワゴンではボディ後端を支えるDピラーがもう1本必要となるなど、重量もかさむ。

 3代目レガシィでは、開発をまとめた桂田 勝さんが「セダンからワゴンを作るのではなく、ツーリングワゴンはワゴン専用車として開発した」と熱く語ったことが思い出されるように、セダンよりもワゴンのほうが設計時における制約や難点が多い。

 セダンもワゴンも、剛性確保のためには荷室の開口部を小さくしたいが、荷物の搭載性を考えると大きくせざるを得ない。とくに荷室の使いやすさが重視されるワゴンではなるべく開口部を大きくしたいので、剛性の確保との両立という難題が立ちはだかる。

 ワゴンでは、リヤサスからの入力による車体の変形の中では、とくにリヤゲート開口部の変形抑制が大きなテーマとして掲げられており、ワゴンの販売比率が高いスバルでは長年にわたり対策が講じられてきた。

 現行型レガシィのワゴン(アウトバック)では、リヤゲートやDピラーの交差する部分にセパレーターを追加することでリヤゲート開口部の骨格を環状とし、開口部の変形を抑制。

 現行型インプレッサでも、ハッチバックスタイルの5ドア車のほうは最大荷室幅を拡大しつつ、捻り剛性と車体固有値を向上させるために、リヤゲート開口部まわりの構造が見直され、Dピラーの結合部にセパレーターを設けて開口部の変形を抑制する工夫が見られる。

 セダンでは、リヤサスからの入力を受け止める部位がワゴンよりもリヤサス近くにあるため、バルクヘッド部をタワーバーのような補剛パーツとして使うことができる。現行型インプレッサのセダンでも、骨格のストレート化により強化したバルクヘッドでリヤサスからの入力により車体の変形を抑制している。

 さらに、空力面でもワゴンはセダンよりも不利となる。レガシィではワゴンボディ後端の大気の流れをどれだけ綺麗に剥離させるかが、常に大きな開発テーマとして掲げられてきた。

 このように、セダンとワゴンでは剛性や空力など、走行性能や動的な質感に影響を及ぼす部分の差が少なからず存在しているので、運転フィールにも違いが出ると言えるのだ。

 セダンとワゴンの差は世代を重ねるごとに小さくなっているのも確かなので、一般道で普通に運転する分には違いを体感することはほとんどないが、サーキット走行レベルになるとその差は比較的わかりやすい。

 サーキットで同じモデルのセダンとワゴンを乗り比べると、ワゴンのほうにリヤまわりの剛性不足と慣性モーメントの大きさに起因する、わずかなリヤの追従遅れや応答遅れがみられることがある。