「レンジの「音」が変わると、慌ただしい朝が“豊か”になった──「バルミューダ ザ・ レンジ」レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

バルミューダといえば、「ザ・グリーンファン」「ザ・トースター」といった独創的な家電のヒットで知られるメーカーである。どちらも技術的には“枯れている”と思われてきたジャンルだが、そこに新しいアイデアを取り入れ、革新的な製品を生み出してきた。

そのバルミューダが、2017年12月にオーヴンレンジを発売した。「BALMUDA The Range(バルミューダ ザ・ レンジ)」と名づけられたその製品は、いかにも同社らしく、成熟市場に新たな息吹をもたらすものだ。社長の寺尾玄は、「多機能はいらない」「キッチンを少し楽しくしたい」といったキーワードを掲げている。

ひとつ目のキーワードの通り、ザ・レンジは必要最低限の機能に絞られている。ザ・トースター以降の同社のキッチン家電と共通するデザインテイストで仕上げられており、シンプルでありながら温かみも感じられる。機能面での先進性はないが、操作はモード切替スイッチとボタン、ダイヤルだけで行えるので、非常にわかりやすい。

シンプルな機能に、「音」という新機軸

大手家電メーカーのオーヴンレンジには、さまざまな機能が詰め込まれている。スチーム(過熱水蒸気)を使うことで余計な油分や塩分を取り除けたり、時短調理などに対応したりといった具合だ。ザ・レンジには、こうした付加機能はまったく搭載されていない。「温める」「焼く」といった基本的な機能だけである。

では、なにが新しいのか。それは「音」だ。

電子レンジやオーヴンレンジといえば一般的に、温めや調理が終わると「チン!」といった音で知らせてくれる。これは1961年に発売された国産初の業務用電子レンジで採用されたもので、いまでも電子レンジの象徴であり、代名詞となっている音だ。

ザ・レンジは、その音を変えた。プロのミュージシャンによるアコースティックギターやドラムの生演奏をサンプリングし、操作音や調理中の効果音、そして調理が完了したときの音として採用したのである。

「たかが音」と、あなどるなかれ。使っているうちに、その「音」が気分を盛り上げてくれることに気づいたのだ。

スイッチを回すときのギターの弦をはじく音色。温めを開始すると奏でられる小気味よいドラムの音。そして温め終わったあとに流れるメロディ──。どれも心地よさを感じるもので、思わずレンジが奏でる音に合わせて口ずさんでしまうほどだった。

例えば、こんなシーンを思い浮かべてほしい。早朝に子どもたちの弁当を用意し、家族全員の朝食をつくる。その間、レンジで冷凍のおかずやご飯を解凍し、ミルクを温めながら調理する。そんな“戦場”さながらに慌ただしい朝、キッチンにアコースティックギターのサウンドが流れる。それだけで、ちょっと嬉しくなり、気持ちが豊かになる。バルミューダの寺尾が考える「キッチンを楽しく」という意図の通りだ。

機能面での新しさがない、という価値

すでに説明したように、機能面での新しさはない。操作はシンプルで、左側のスイッチでモードを選び、右側のダイヤルを回してスタートボタンを押すだけで調理が始まる。モードは「自動あたため」「手動あたため」「飲み物」「冷凍ごはん」「解凍」「オーブン」から選べる。

例えば「飲み物」モードでは、ダイヤル操作でコーヒーやミルク、酒などの加熱を選べる。液晶画面にも「ミルク」「コーヒー」と日本語で表示されるので、わかりやすかった。

PHOTOGRAPH COURTESY OF BALMUDA

ザ・レンジの価格は、直販サイトで43,500円(ステンレス素材のモデルは54,500円、いずれも税別)。オーヴンレンジとしては中価格帯に位置し、ほかにも豊富な機能を備えた選択肢が多くある激戦区だ。それらはワンタッチでトーストが焼けたり、グリル調理ができたり、ノンフライの唐揚げをつくれたりする。そういった付加機能は、ザ・レンジにはない。

だから、万人受けする製品というわけでは決してない。複雑な機能よりもシンプルであることを潔しとし、そのデザインと家電らしからぬ「音」に納得できる人たちには、「価値のある製品」と感じられるだろう。

バルミューダ ザ・レンジ
サイズ:450×412×330mm(幅×奥行き×高さ)
本体重量:約12kg
容量:18リットル
消費電力:電子レンジ1,270W、オーヴン1,130W
電子レンジ手動出力:100W、500W、600W、800W
オーヴン機能:温度調節 40℃(発酵)、100〜250℃まで10℃単位
モード:自動あたため/手動あたため/飲み物/冷凍ごはん/解凍/オーヴン
カラー:ブラック、ホワイト、ステンレス

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