2018年1月7日、北九州メディアドーム(北九州市小倉北区)で成人式が行われた。新成人の「派手さ」で知られる北九州だが、その中でもひときわ目立つ5人組が居た。緑、黄、赤、青、そしてピンク。おそろいのデザインで、ビシっと決める彼らだが、常日頃からこのような格好なわけではない。あくまで成人式という大舞台にかけた「勝負服」なのだ。


新成人の5人(以下、Jタウンネット撮影)

成人式にさきがけ、Jタウンネットの編集長Kは17年12月15日、メディアドームにほど近い貸衣装店「みやび」を訪れた。なんでも華やかな衣装の多くは、ここが手がけたものだと聞く。そこで出会った彼らは――。

新成人の夢をかなえる「みやび」さん

取材に対応してくれたのは、ヘアメイクアーティストの池田雅さん。新成人の要望にあわせた衣装にするため、みずから生地探しにも奔走する、こだわりのデザインを行っている人物だ。


池田雅さん

訪問したのは、成人式の3週間前。作業場には衣装が、すでに山積みとなっていた。見回すと「小倉」「戸畑」といった北九州市内の地名だけでなく、兵庫や京都、大阪といった宛先も。関東には支店も存在し、東京の銀座や西葛西、千葉に店舗があるという。


ところ狭しと衣装が並ぶ

目を引く衣装を作るようになったきっかけは、15年ほど前。女性用の成人式衣装はバリエーション豊富だが、自分たち向けは少ないと嘆く男性客がやってきた。

「『僕たち「金さん銀さん」で、全身金&全身銀でいきたい』って言う子がやってきて。当時は既製品では無かったので、メーカーや問屋さんをあちこちあたったけど無い。でも、和装とかブライダルなどもやってきたので、特注で『あの時に見た、あの金の糸で織ってください』と作ってもらったんです」

一般的な袴は5〜10万円程度だが、オリジナルデザインでは「何十万円ってかかります」(池田さん)。30〜40万円程度から、「めっちゃ少数」ながら100万円超えもあるそうだ。これに旗や扇子などのオプションも加わる。そういえば、オリジナルと言ってましたが、衣装は基本的にレンタルなんですよね?

「刺繍はワッペン形式になっているので、翌年には刺繍だけ外して、記念品としてお渡しするんです。なので、次の年は後輩が着れます。『○○君が着てたアレが良い!』って電話がかかってきたりします」

先輩の写真を見る3人

せっかくなので、新成人を紹介してもらった。この3人は、冒頭の写真にいた人物だ。左から黄、緑、ピンクに身を包む。なんでも、17年の成人式で先輩の姿を見て、すぐに「みやび」を訪れたのだという。

先輩のまとっていた「バラ」を受け継ぎつつ、唐獅子牡丹のオリジナル衣装に。5人で「ゴレンジャー」を意識した配色にしたという。おもわず「黄色ということは、カレーが好きなんですか?」と聞くと、「そうじゃないですね」と笑った。


デザインにあたっては、池田さんと打ち合わせを重ねた

そして、この日は、出来上がったばかりの衣装との初対面。直前の思いを聞いてみた。

「どんだけ華やかかっちゅう。そこが一番重要っちゅうか」
「楽しみですよね。自分で決めとうデザインやけぇ」
「カッコ良くなってるかどうかやね」

いざ、ご対面!

カーテンが開くと、3人の歓声があがった。

「わぁ、イイっすね!」
「ヤバくない?」

「ちょっと着せたいんだけど! 着てもらっていいですか?」。池田さんもテンションが上がる。


思わず笑みがこぼれた

「この金と銀が、試し織りで何回織っても、光らなかったんですよ。光るまでメーカーの人にやり直してもらったんです。あと、色を染めるんですが、黄色と緑とピンク......ピンクは3回やり直してもらったんですよ。『もっと濃くして!』って。柄自体のベースは、唐獅子牡丹のレトロな感じだけど、それを現代風にアレンジして『いまの技術で最高に良いもの』を作りたかったんです!」(池田さん)

言葉の端々から、熱意が伝わってくる。新成人からも笑みがこぼれる。この1年間、打ち合わせを重ねてきた新成人と池田さんが、それぞれの願いをかなえた瞬間だ。


試着しました

それから3週間。成人式会場で、髪まで大胆に染めた「ゴレンジャー」を見つけた。やはり目を引くのか、続々と取材を受けていた。その合間をぬって、写真を撮らせてもらう。

実を言うとK編集長、自分の成人式には出なかった。浪人中だったため「出られる立場じゃない」と、自宅でゴロゴロしていたのだ。しかし今回、初めて「出席してもよかったな」と後悔した。自分が主役になれる数少ない日だと気付いたからだ。一生に一度の晴れ舞台。ああ、行っときゃよかったなぁ......。


人生の大きな節目になった

「スゴイ」「ド派手」と紹介される北九州市の成人式。当日のビジュアルだけがひとり歩きしがちだが、そこへ至るまでには、新成人はもちろん、池田さんや、みやびスタッフの1年がある。そして式が終わると、「先輩」の背中を追って、来年の成人たちがみやびへと足を向ける。「来年の成人式は、もう始まっている」と言っても、おおげさじゃないだろう。