東芝問題に何を学ぶか。再生ファンド、法務、会計監査からの視点
安東泰志氏
―東芝の原発問題の原因は何だったのでしょうか。
「複数の要素が絡み合っているが、大きいのはコーポレートガバナンス(企業統治)の不全だ。仕組みは立派だが“魂”が入っていなかった。例えば指名委員会は『いつでも社長を解任するぞ』という姿勢を見せなければならない。選解任を巡り両者には緊張関係が必要。しかし、そうなっていなかった。ガバナンスが機能していれば、不祥事や失敗があっても早い段階で軌道修正できる。東芝の危機もここまで大きくなっていなかったのではないか」
「債権回収を優先するのは銀行の行動原理で、仕方ない面もあるが、焦って“クラウンジュエル(魅力的な事業)”を売却する必要があったのか。東芝幹部とも話したが、判断の根底には『上場廃止は絶対ダメ』という先入観があったようだ。しかし上場廃止になっても株式の根源的な価値は変わらない。東芝メモリを軸に再建し、数年後にIPO(新規株式公開)させればベターだった」
―もっと多様な視点で再建スキームが検討されるべきだったと?
「極論すれば民事再生法を申請し、身ぎれいになって再建する道もあった。東芝に限らず日本企業は『思い込み、先入観、しがらみ』で再建スキームの選択肢を自ら狭めている。もっと柔軟に発想するべきだ」
―メモリーなき東芝の再建策は。
「不採算部門を切って成長部門に集中するのが企業再生の鉄則だが、東芝は成長部門を売ってしまう。再建の道は険しいだろう。IoT(モノのインターネット)技術を活用し、社会インフラ事業やエネルギー事業の付加価値をどう高めるかが焦点。日本には部品産業の集積があり、IoT関連の製品やサービスの実証実験を国内メーカーで完結できる。この地の利を最大限に生かしてほしい」
【略歴】安東泰志氏(あんどう・やすし)=ニューホライズンキャピタル会長。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。02年、フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業した。三菱自動車など数多くの企業再生の実績を持つ。59歳。
早川吉尚氏
―東芝は06年に買収したWHをコントロールできず、それが原発危機の遠因になりました。東芝に限らず海外の買収企業に手を焼く日本企業は多いです。
「買収相手の“箸の上げ下ろし”まで指示できる体制を構築しておくべきだ。暗黙の了解ではなく、契約で縛りをかけないといけない。相手の反発もあろうが、徹底的に交渉する覚悟が必要だ」
―東芝はWHについて「成長ありき、買収ありきの考え方で進めた」と失敗を振り返りました。
「担当者がメンツを気にして悪い情報を上げない、起死回生を狙った“ばくち”で状況がさらに悪化する、といった悪循環があったのではないか。そもそも海外案件はリスクが高い。最初から撤退も選択肢に入れた上でM&A(合併・買収)を実行し、リスクが許容範囲を超えたら潔く引くべきだ」
―メモリー事業の売却では提携先のWDと係争になりました。
「訴訟をテコに交渉を優位に進める戦略は海外企業では一般的。ただ東芝は『日本の産業界や国も巻き込んだこの案件でWDが訴えを起こすはずはない』と思っていたように見受けられる。WDが空気を読んでくれるだろうという楽観的な考えがあった」
―契約書の内容に詰めの甘さがあったとの指摘もあります。
