国内の移動の自由すらない北朝鮮国民にとって、海外渡航はごくごく限られた人にだけ許された特権だ。それがようやく認められたというのに、浮かない顔をしている人々がいるという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

この6年間、中国にいる親戚を訪ねたいと10回以上申請を出したがことごとく拒否され続けてきた、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住む情報筋。ワイロを渡す経済力もなければ、コネもないため、あきらめていた。

ところが、ある日突然、保衛部(秘密警察)が予告もなく自宅に旅行証を持ってやってきた。しかし、タダでもらえるわけがない。

中国で5000元(約8万6000円)を用立てて上納せよというのだ。せっかく受け取ったものの、そんな大金を調達するあてがないため、中国に行こうにも行けずにいるという。

この情報筋以外も、保衛部から旅行証を突きつけられた人がいるようだ。

旅行証を受け取って中国に行ってきたという別の情報筋は、出国の1ヶ月前から「南朝鮮(韓国)のテレビや雑誌など不健全要素に近寄るな」と言った教育を保衛部から受けさせられ、「決まりを守らなかったり、南朝鮮への逃走を試みたりした場合には、家族まで処罰される」との文書に署名させられたという。

「元帥様(金正恩党委員長)の特別な配慮で旅行証が発行された」と告げられたと語るこの情報筋。行かなければ政治犯になりかねないため、同じように旅行証を押し付けられた20人ほどの人々と一緒に中国に向かった。

5000元を調達するために親戚が営む食堂で皿洗いの仕事をしていたというが、そうやって働いても稼げるのは1ヶ月に2000元(約3万4000円)がやっと。親戚からもらった古着や食べ物をすべて市場で売り払うはめになったという

実は、同じようなことは以前から行われていた。

別の情報筋が今年3月にRFAに語ったところによると、中国行きの申請をすると保衛部から品物のリストを手渡され、そこから上納する品物を1つ選ばされるという。肥料、農業機械、運動器具、生活必需品など、数、額まで事細かく指定されており、拒否したり、定められた数を上納しなければ、旅行証が発行されなくなってしまう。

つまり、品物の上納が事前審査の一部になっているわけだが、今では事後納付に変わった。国内の物資不足と物価高騰のせいだと思われる。

北朝鮮当局が国民に自由な出国を認めないのは、情報やモノなどが国内に流入することで体制が脅かされることを恐れてのことだ。しかし、もはや多少のことは気にしていられないほど、当局は困窮しているのかもしれない。