日本の優れたサービス〜選ばれ続ける6つのポイント〜(1)【連載サービスサイエンス:第39回】/松井 拓己
日本には選ばれ続ける優れたサービスがたくさんあります。
・出発前に既に感動が生まれているクルーズトレイン。
・人間と動物の関係を逆転させて生まれ変わった動物園。
・森に入り木を選んで自分で切るところから始まる家づくり。
・地域ブランドの象徴となり世界中から訪問者が絶えない日本文化体験。
一方で、サービスの向上にいくら取り組んでもうまくいかず、悩みを抱える企業が多く存在するのも事実です。優れたサービスを実現して成果を出している企業と、行き詰まっている企業の差はどこにあるのでしょうか。
現在、日本のサービス産業の生産性向上が大きな課題になっています。しかし長年、「生産性」といっても効率化の取り組みが中心でした。効率的にサービス事業を運営することは重要ですが、サービスの価値を高めなければ、これからの厳しいビジネス環境を生き抜くことはできません。サービスの価値を高めることで、顧客から評価され、他社に差をつけ、選ばれ続ける優れたサービスの実現が必要とされる時代になっています。
顧客、従業員、事業を犠牲にしないサービス向上を
サービスの開発や価値向上といっても、「いかに売るか」にしか着目できていない取り組みが散見されます。もちろん事業である以上、事業成長は欠かせません。しかし、そのための取り組みが提供者都合の押しつけでは、顧客からの評価は低下し、従業員は疲弊してしまいます。
また近年、「おもてなし」の取り組みにも熱心な企業が増えています。おもてなしは、日本のサービスの大切な価値観ですが、これが拡大解釈されて、サービス提供者が自己犠牲もいとわず顧客に尽くすことを良しとするような取り組みも見受けられます。
最近では、「働き方改革」に熱心な企業が増えています。サービスは忙しさとの戦いでもあるため、従業員の疲弊を解消することは重要です。しかし例えば、残業時間を減らすことに成功した結果、「働き甲斐」までも削り落としてしまい、人材が退職してしまったというケースがあります。また、サービス提供者側の都合で一方的にサービスをやめたり、顧客対応を手薄にしてしまっては、大切な顧客からの評価の低下を招きます。
これらの結果、顧客、従業員、事業の誰かが犠牲になってしまうことで、事業が傾いてしまうことすらあるのです。顧客満足、従業員満足、事業成長のどれかを犠牲にするのではなく、三者が価値を実感できるサービス向上が求められています。
サービス事業に潜む6つの壁
現場や個人に任せきりにするのではんく、組織的にサービスを向上させようと思うと、なかなかうまくいかない。これまで様々なサービスに関する悩みや課題に触れてきた中で、いくつかの壁があることがわかりました。それは、「建前の壁」「情熱の壁」「顧客不在の壁」「闇雲の壁」「実行の壁」「継続の壁」です。サービス向上の壁の全体像が分かっていれば、今ぶつかっている壁や、これからぶつかりそうな壁に対して、効果的な対策を打つことができます。次回はこれら6つの壁をそれぞれ解説したいと思います。サービス向上に苦戦している方が、今どの壁にぶつかっていて、今後どうしたらその壁を乗り越えられそうか、そのヒントを掴んで頂ければ幸いです。