優れたサービスとは 【連載サービスサイエンス:第38回】/松井 拓己
「日本サービス大賞」が日本最高峰のサービス表彰制度として2015年に創設され、第一回受賞企業が発表されました。この表彰制度は、サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度です。サービスの生産性というと「効率化」の方ばかりが着目されがちですが、今まさに「サービスの価値を高めること」への関心が高まっています。しかし、いざサービスを磨き上げようと思っても、いったい何から手を付けたら良いのかと悩んでしまいます。そもそも、優れたサービスとはどんなものなのでしょうか。これまでの記事で、目に見えない「サービス」を科学することで、お客様からの評価の高いサービスを実現するために必要な本質的な考え方や方法論を明らかにしてきました。これらの考え方にも触れながら、「優れたサービス」とはどんなものなのかをひも解いてみたいと思います。
「日本サービス大賞」が定義する優れたサービスとは
日本サービス大賞では、「優れたサービスとは、受け手の期待を超える経験価値を提供するサービスである」としています。つまり、優れたサービスはお客様の期待を超えるサービスだということです。ちなみにサービスサイエンスでは、サービスの定義は「提供される機能の中で、お客様の事前期待に合っているものだけをサービスという」としています。お客様の事前期待を掴んでそれに応えなければ「サービス」ですらないということです。
このように、お客様の期待に応える・期待を超えると聞くと、つい我々は「どうやったら期待に応えられるだろう、期待を超えることができるだろうか」と考えがちです。実際に多くの企業では、サービス向上に取り組む場合、「具体的に何をやったら良いだろうか」という観点で議論しています。
しかし、「何をやるか」以上に大切なことがあります。それは、「我々はどんな事前期待に応えるサービスを提供するのか」を明らかにすることです。つまり、「満たすべき事前期待」の目標を決めずにあれこれ努力することは、目隠しをして的を狙うようなものです。これでは、まぐれ当たりくらいはあるかもしれませんが、優れたサービスは提供できません。まずは、目標地点として「満たすべき事前期待」をしっかりと見定めることが大切なのです。
どの事前期待に応えるかで、サービスの評価は大きく変わる
満たすべき事前期待の目標地点を決めるといっても、応えて当然な事前期待を目標にしたところで、サービスの評価は高まりません。どの事前期待に応えると価値があるのかをしっかりと見定めるべきなのです。
例えば、事前期待の中にはお客様全員が共通的に持っているもの(共通的な事前期待)があります。これにいくら応えても、お客様からは「当たり前でしょ」と言われてしまいます。サービスの評価を高めたいと思ったら、共通的な事前期待に応えるだけではダメなのです。お客様ひとりひとりで異なる「個別的な事前期待」や、「状況で変化する事前期待」「潜在的な事前期待」に応えることができると、感動サービスやホスピタリティーサービスのような高い評価を得ることができます。
期待を超えるサービスであれば何でも良いのだろうか?
日本には素晴らしいサービスがたくさんあります。その多くが、お客様の期待を超えています。しかしそういったサービスであっても、カリスマやベテランの個人的な経験やセンスに頼って生み出されていることが少なくありません。もちろん経験やセンスは大切ですが、それだけに頼っていては、素晴らしいサービスを提供し続けることはできません。そこで今、多くの企業では、現場任せ、個人任せなサービスから脱却して、組織的にサービスを高めることに熱心に取り組んでいます。つまり、日本サービス大賞でいうところの、優れたサービスを「つくりとどけるしくみ」の構築や強化に積極的に取り組んでいるのです。
優れたサービスとは、「価値ある事前期待」に応えるものであり、サービスを「つくりとどけるしくみ」によってそれを現場や個人に任せっきりにせずに組織的に実現しているサービスだと捉えることができます。
日本には優れたサービスはもっとたくさんあるはず
これからますます注目されるであろう「優れたサービス」を単に事例として表面的に捉えるのではなく、「どんな事前期待に応えているのか」、「そのサービスをつくりとどけるしくみはどんなものなのか」という視点でひも解いてみると、そのサービスの本質に迫ることができるかもしれません。そうすることで、例え他業界のサービスであっても、自社のサービスとして活かすべきヒントが得られるはずです。このように、業種や業界の枠を超えて刺激しあうことで、日本らしい優れたサービスがもっと増えてくることに期待したいと思います。