人生やビジネスで誰かに相談されたとき、本当に相手の役に立つために何をすべきか?
■本当の意味で「誰かの役に立つ」ための原則
人生やビジネスで、誰かに相談される場面は多々ある。
特に、ビジネスは「こうしたい」「こんなものを作りたい」という種があり、それらを「どうしたらいい?」と“相談すること”の連続であると言っても過言ではない。
クライアントは会社に、経営者は部下に、部下は同僚や友人に、といった具合に、いつも誰かが誰かの助力を求めている。
そして、その助力の専門家が「コンサルタント」という仕事だ。
組織やプロセスコンサルテーションのエキスパート、エドガー・H・シャイン氏が一冊の書籍を上梓した。
それが『謙虚なコンサルティング― クライアントにとって「本当の支援」とは何か』(エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監修、野津智子訳、英治出版刊)である。
シャイン氏は、組織心理学と組織開発の第一人者であり、その功績は枚挙にいとまがない。これまで、アップル、P&G、ヒューレット・パッカード、シンガポール経済開発庁など、数々の企業や公的機関のコンサルタントとして大きな成果を上げており、世界でも指折りのコンサルタントの一人だ。
本書で、シャイン氏が投げかけているのは、相談者や助力を求めている人にとって、本当の意味で役に立つ支援とはどのように成されるべきか、ということだ。
コンサルタントのイメージと言えば、財務表や企業の人材、状況などのデータを元に診断を下し、「こうすれば経営が良くなりますよ」と自分の意見や方針を提案する、といったものだろう。
しかし、その提案は本当に相手の役に立っているのだろうか?
これは人生でも同じことが言える。友人からの相談に、自分の考える解決策を伝えたとして、本当にその友人の役に立っているだろうか?
著者が、長年コンサルティングを行うなかで目に留めてきたのは、「専門家として提供する情報と助言は、範囲の限定された問題に対してしか効果がない」という事実だ。
コンサルティングでも人生の相談でも、大切なのは以下の3つであると著者は述べる。
・どんな問題に悩まされているのかを、相手が隠さず話せること。
・それも遠慮なく安心して相手が話せること。
・そして、相手が自ら問題の根本に気づき、行動を起こせるようにすること。
さらに、これを体現するのに必要なのがこの3つだ。
・これまでとは違う姿勢
・相手との新たな関係性の構築
・新しいタイプの聴き方
本書では、これらのポイントを過去の実例を挙げながら解説、分析し、本当の意味で相手の役に立つための方法と真髄が語られている。
■問題の根本原因を探るための「姿勢」
相手の役に立つために、まず必要なのが「これまでとは違う姿勢」だ。
とりわけ、「謙虚な姿勢」「支援したいという積極的な気持ち」「好奇心」がなくてはならない。
相手が直面している困難に謙虚な気持ちで共感的に向き合い、自分や自分の知識やスキルを売り込む欲求ではなく、相手とともに相手が陥っている状況に集中する。そのために真摯な好奇心を全開にする。この姿勢を持つことが大事なのだ。
この姿勢は、相手が自分の抱える悩みを安心して包み隠さず話すためのベースとなる。相手の状況や真意を正確につかんでいなければ、どんな助言や助力も的を外れたものになってしまうだろう。
例えば、「我が社の開発プロセスを見直す相談に乗ってほしい」という言葉だけでは、問題の根本が、本当に「プロセス」なのか、もしかしたら「人材」や「社内風土」に起因しているのかどうかが判然としない。
また、相談者自身が本当に開発プロセスに問題を感じているのか、本当は別の問題を感じているのかも見極められないし、客観的に見て、開発プロセスを変える必要があるのか、他の部分を変えたほうがいいのかの判断もしにくいだろう。
この無数にある根本原因の可能性を探るためにも、「これまでとは違う姿勢」で、相談者と向き合うことが大切なのだ。
■「レベル2」の関係性と「ジャズの即興」のような話の聴き方
では、その「これまでとは違う姿勢」を体現するためにはどうすればいいのだろうか。
それは、「相手との新たな関係性の構築」と「新しいタイプの聴き方」を意識することだ。
本書では、「新たな関係性の構築」として、パーソナライゼーション(打ち解けた関係)である「レベル2」の関係を目指すことを勧めている。
この関係性のレベルは、
レベル−1: 囚人と看守、奴隷と商人などのネガティブな敵対関係や不当な関係
レベル1:相手のパーソナルに踏み込まない「ほどほどの距離感」の関係
レベル2:個人的な知り合い、仕事上で信頼感のある人間などの関係
レベル3:深い友情や愛情がある親密な関係
という段階がある。
コンサルタントとクライアントの関係は、一般的に「レベル1」だ。それを「レベル2」の関係にすることが大切だという。(「レベル3」まで関係を進めると、馴れ合いや贔屓が生まれたりして、判断に問題が生じる可能性がある)
この「レベル2」関係を構築するには「新しいタイプの聴き方」が効果を発揮する。
・診断的な問いかけ
・プロセスにフォーカスした問いかけ
・示唆的な問いかけ
著者は、これら3つの聴き方をジャズの即興のように会話の流れに応じて投げかけることで、問題の根本を明らかにし、相談者自身が解決のヒントを得られるように話すことが大切だと述べる。
また、「新しいタイプの聴き方」は本書の要諦でもあり、非常に奥深い部分だ。詳しくは本書を読んで、その真髄をつかんでほしい。
本書で学べることは、コンサルタントの仕事に限らず広く応用できるだろう。企業のマネジャーやリーダー、ビジネスパーソンが自らの仕事の中で抱える問題の解決や、教育や子育てにもその効果を発揮するはずだ。
(ライター/大村佑介)
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特に、ビジネスは「こうしたい」「こんなものを作りたい」という種があり、それらを「どうしたらいい?」と“相談すること”の連続であると言っても過言ではない。
クライアントは会社に、経営者は部下に、部下は同僚や友人に、といった具合に、いつも誰かが誰かの助力を求めている。
そして、その助力の専門家が「コンサルタント」という仕事だ。
それが『謙虚なコンサルティング― クライアントにとって「本当の支援」とは何か』(エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監修、野津智子訳、英治出版刊)である。
シャイン氏は、組織心理学と組織開発の第一人者であり、その功績は枚挙にいとまがない。これまで、アップル、P&G、ヒューレット・パッカード、シンガポール経済開発庁など、数々の企業や公的機関のコンサルタントとして大きな成果を上げており、世界でも指折りのコンサルタントの一人だ。
本書で、シャイン氏が投げかけているのは、相談者や助力を求めている人にとって、本当の意味で役に立つ支援とはどのように成されるべきか、ということだ。
コンサルタントのイメージと言えば、財務表や企業の人材、状況などのデータを元に診断を下し、「こうすれば経営が良くなりますよ」と自分の意見や方針を提案する、といったものだろう。
しかし、その提案は本当に相手の役に立っているのだろうか?
これは人生でも同じことが言える。友人からの相談に、自分の考える解決策を伝えたとして、本当にその友人の役に立っているだろうか?
著者が、長年コンサルティングを行うなかで目に留めてきたのは、「専門家として提供する情報と助言は、範囲の限定された問題に対してしか効果がない」という事実だ。
コンサルティングでも人生の相談でも、大切なのは以下の3つであると著者は述べる。
・どんな問題に悩まされているのかを、相手が隠さず話せること。
・それも遠慮なく安心して相手が話せること。
・そして、相手が自ら問題の根本に気づき、行動を起こせるようにすること。
さらに、これを体現するのに必要なのがこの3つだ。
・これまでとは違う姿勢
・相手との新たな関係性の構築
・新しいタイプの聴き方
本書では、これらのポイントを過去の実例を挙げながら解説、分析し、本当の意味で相手の役に立つための方法と真髄が語られている。
■問題の根本原因を探るための「姿勢」
相手の役に立つために、まず必要なのが「これまでとは違う姿勢」だ。
とりわけ、「謙虚な姿勢」「支援したいという積極的な気持ち」「好奇心」がなくてはならない。
相手が直面している困難に謙虚な気持ちで共感的に向き合い、自分や自分の知識やスキルを売り込む欲求ではなく、相手とともに相手が陥っている状況に集中する。そのために真摯な好奇心を全開にする。この姿勢を持つことが大事なのだ。
この姿勢は、相手が自分の抱える悩みを安心して包み隠さず話すためのベースとなる。相手の状況や真意を正確につかんでいなければ、どんな助言や助力も的を外れたものになってしまうだろう。
例えば、「我が社の開発プロセスを見直す相談に乗ってほしい」という言葉だけでは、問題の根本が、本当に「プロセス」なのか、もしかしたら「人材」や「社内風土」に起因しているのかどうかが判然としない。
また、相談者自身が本当に開発プロセスに問題を感じているのか、本当は別の問題を感じているのかも見極められないし、客観的に見て、開発プロセスを変える必要があるのか、他の部分を変えたほうがいいのかの判断もしにくいだろう。
この無数にある根本原因の可能性を探るためにも、「これまでとは違う姿勢」で、相談者と向き合うことが大切なのだ。
■「レベル2」の関係性と「ジャズの即興」のような話の聴き方
では、その「これまでとは違う姿勢」を体現するためにはどうすればいいのだろうか。
それは、「相手との新たな関係性の構築」と「新しいタイプの聴き方」を意識することだ。
本書では、「新たな関係性の構築」として、パーソナライゼーション(打ち解けた関係)である「レベル2」の関係を目指すことを勧めている。
この関係性のレベルは、
レベル−1: 囚人と看守、奴隷と商人などのネガティブな敵対関係や不当な関係
レベル1:相手のパーソナルに踏み込まない「ほどほどの距離感」の関係
レベル2:個人的な知り合い、仕事上で信頼感のある人間などの関係
レベル3:深い友情や愛情がある親密な関係
という段階がある。
コンサルタントとクライアントの関係は、一般的に「レベル1」だ。それを「レベル2」の関係にすることが大切だという。(「レベル3」まで関係を進めると、馴れ合いや贔屓が生まれたりして、判断に問題が生じる可能性がある)
この「レベル2」関係を構築するには「新しいタイプの聴き方」が効果を発揮する。
・診断的な問いかけ
・プロセスにフォーカスした問いかけ
・示唆的な問いかけ
著者は、これら3つの聴き方をジャズの即興のように会話の流れに応じて投げかけることで、問題の根本を明らかにし、相談者自身が解決のヒントを得られるように話すことが大切だと述べる。
また、「新しいタイプの聴き方」は本書の要諦でもあり、非常に奥深い部分だ。詳しくは本書を読んで、その真髄をつかんでほしい。
本書で学べることは、コンサルタントの仕事に限らず広く応用できるだろう。企業のマネジャーやリーダー、ビジネスパーソンが自らの仕事の中で抱える問題の解決や、教育や子育てにもその効果を発揮するはずだ。
(ライター/大村佑介)
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