野町 直弘 / 株式会社クニエ

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ちょっと仕事が忙しくて中々記事がかけずに一回飛ばしとなりました。申し訳ございません。
今回はあまり難しいトピックではなく調達購買業務=いわゆる買い物ですが、これが簡単なのか、難しいのかについて考えてみましょう。

物を買うということは誰でもやってます。また買うという立場はどちらかというと売るよりも強い立場です。また値切るとか交渉するということに抵抗を持つ人も少なくありません。
これが調達購買という仕事が簡単で誰でもできる、また面倒なことという認識につながっているのではないかと感じます。

しかし買い物って本当に簡単なのでしょうか。
豆腐を買うことを例にして考えてみましょう。美味しい豆腐を買うことはそんなに難しいことではありません。お店に行ってお気に入りの豆腐を手に取ればいいからです。多少高くてもよければいくらでも美味しい豆腐を買うことはできます。今はお店に行かなくてもインターネットで物は買えるでしょう。個人の買い物では相当希少な物を買う以外、買い物はそんなに難しいことではないです。

しかしもう少し起源を考えてみましょう。美味しい豆腐を毎日作るためには良質の大豆と水、天然のにがり、などが必要です。それを安定的に毎日仕入れなくてはなりません。それもずっと長い期間。これって難しくないでしょうか。

もちろんいい作り手がいるから成り立つことですが、いい作り手がいても安定した良質な仕入れがない限り、美味しい豆腐を作ることはできません。もちろんそれを続けることはもっと難しくなります。

調達購買という仕事(機能)は企業としての買い物であり、企業としての買い物だからこそ、継続且つ安定して買い続けなければならないので、それを仕事としてやることは簡単なことではないと言いたいのです。

いい大豆を見つけなければなりません。またその農家と話をして安定的に供給してもらうようにしなければならないでしょう。場合によっては不作な時もあります。またそれを適正な価格で購入しなければ美味しいけどとても手が出ない豆腐になってしまうのです。そういうことを考えると買い物は決して簡単ではありません。

以前ある銀座の焼き鳥屋さんで同じような経験をしたことがあります。そのお店は90年の歴史を持つ有名な焼鳥屋さんです。一口食べると感動する位美味しいお店だったと記憶しています。

私は店主に「なんでこんなに美味しいのですか?」と尋ねました。すると店主は「素材がいいからです」と一言答えたのです。「素材もそうでしょうけど、焼き方もあるのでは?」私が繰り返し尋ねると店主はこう答えました。

「いや、素材だけです。いい鳥を90年育て続けてくれている養鶏家の方が素晴らしいんです」と。

私はびっくりしました。このお店は90年間契約している養鶏家から安定的に鶏肉を調達し続けているのです。その間に戦争があったりオイルショックがあったり、バブルがあったり、それでも調達し続けているのです。話を聞いたところ、店主は今でも毎月2回この養鶏家を訪問して自分の目で鳥を確かめに行っているとのこと。

「素晴らしい素材や物を調達し続けるのは難しいし、手間もかかる」調達することって難しいことなのです。もっと言えば素晴らしい素材を調達できることはそれだけで製品や商品、サービスの価値を高めることにつながると言えます。

90年という長い年月のことを書いてもう一つ思いだしました。米国にISMという組織があります。ISMはInstitute for Supply Managementの略です。全米サプライマネジメント協会。この協会の設立は1915年です。つまり設立後100周年を超えています。102才の組織です。102年前からこのような協会を立ち上げているということにまずは驚きを隠せません。と同時に米国では調達購買の重要性にいち早く気が付いているという事実には関心せざるを得ないでしょう。

これだけ長期間に渡り職業としても学問としても扱われているということはそれだけ調達購買ということが奥深く簡単なものではないという証拠とも言えます。