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京都大学は、平田聡 野生動物研究センター教授、松沢哲郎 高等研究院特別教授、リングホーファー萌奈美 神戸大学研究員、山本真也 神戸大学准教授らの共同研究グループが、野生ウマの社会構造と霊長類の社会構造の比較を行い、霊長類社会における群内オス数に関する仮説はウマ社会には当てはまらないことを明らかにした。この研究成果は6月5日、学術誌「Primates」に掲載された。

霊長類学の源流は、野生ウマの研究に行き着くといい、野生ウマは、有蹄類には珍しく霊長類に類似した、社会的に安定した雌雄混合群を形成する。野生ウマの群れは1頭もしくは複数のオスと血縁のない複数のメス、およびその子どもから構成される。なぜウマは霊長類に似た群を形成するかを検証するには、霊長類とウマの社会の比較が必要だが、霊長類の研究に比べウマの社会に関する研究はまだ少ないのが現状である。

そこで研究グループは、野生のウマ26群の計208個体を識別し、社会生態学的データを収集した。そのうえで、霊長類社会における群内オス数(単雄・複雄)に関する3つの仮説(仮説 1:群れ内のオスの数はメスの数に規定される/仮説 2:群れ内のオスの数はメスの繁殖期間によって決まる/仮説 3:群れ内のオスの数は捕食圧の大小によって決まる)が、ウマ社会に当てはまるかを検証した。

この調査は、今回の研究のために新たに開拓した調査地である、ポルトガル北部にあるアルガ山で行った。ここには、以前は家畜としてヒトに飼われていたが、現在は野生環境下で生きているガラノ種というポルトガル原産のウマが生息している。

調査は2016年2月と6月に行われ、すべてのウマ群において、出会った場所と群サイズ・ 構成を記録し、群メンバーの個体識別を行った。個体識別は、性別・体色・たてがみの向きと色・顔および脚の白模様・耳タグの有無と色をもとにしたという。さらに、ドローンによる空中からの動画撮影とビデオによる地上からの動画撮影により、合計26群 208個体(オトナメス:108、オトナオス:45、2016年生まれの仔ウマ:45、2015年生まれの未成熟個体:5、2014年以前生まれの未成熟個体:5)を識別した。その結果、26群のうち24群が雌雄混合群、2群は全雄群であり、さまざまな社会構成の群が存在することが明らかとなった。

また、他の調査地と同様にアルガ山においても、単雄と複雄の雌雄混合群が同一地域に存在し、単雄群の方が多く全体(24群)のうち75%を占め、雌雄混合群では単雄群の方が複雄群よりも群内メス数が多いこともわかった。

その結果、霊長類社会における群内オス数に関する仮説はウマ社会には当てはまらず、霊長類とウマの社会の違いにはオス-メス関係の安定性の違いが関連していると考えられるということだ。

今後、霊長類とウマの社会を比較する研究が進めば、動物社会の発達・進化についての理解をさらに深めることができる。研究グループは、今回得られたような社会生態学的データを毎年記録していくとともに、血縁関係も分析していく予定だという。これらを基にして行動観察をおこない、ウマ社会の成り立ちの詳細を明らかにしていくと考えているとのことだ。