本田圭佑(撮影:Noriko NAGANO)

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2016年11月15日、日本代表が埼玉スタジアムに現れたときに、ちょっとした変化があった。選手がバスを降りてきたときの映像で、本田圭佑が下を向いて歩いていたのだ。いつも堂々と振る舞う本田にしては不思議な姿だった。

バス到着から約1時間後、ワールドカップアジア3次予選、サウジアラビア戦のスターティングメンバーが発表される。そしてそこには本田の名前はなかった。それまで常に先発して苦しいときにチームを救ってきた背番号「4」は、ベンチから久保裕也が溌剌と走り回る姿を45分間見ることになった。

当時、ミランで出番を失い、それでも日本代表に帰ってくると出番が保証されていると本田への風当たりは強かった。報道陣からの質問も対戦相手よりも本田自身の身の振り方が多い。本田は言葉を慎重に選びながら答えていったが、覇気はなかった。

ところが今回、本田の表情が明るい。トレーニングに登場して子供たちから「本田!」という声が飛ぶと、片手を上げて応える。報道陣に決めた日しか話さない「本田ルール」は健在だが、記者たちを笑わせるなど余裕もある。

Jリーグへの復帰の可能性を聞かれて「正直に言うと日本という選択肢はないです」と言うと、慌てたように「悪くは捉えないでくださいね」と付け加えて笑いを誘い、さらに「海外の2メートルの男と喧嘩したい日本人がいるわけです」などとフォローするあたりは、言葉を噛みしめるように語っていた3月の受け答えとはまるで違う。

また「本田ルール」のため無愛想に思われがちな本田だが、実は通り過ぎるときに顔を知る記者とさりげない会話もしているのだ。今回は観客からの歓声が多かったことに「人気ですね」と言われると、振り返って手を挙げつつ「いやいや」と謙遜してみせた。

さらに記者の顔を見つけ、自分から先に「お疲れ様でした」と声をかけて会釈をする場面もあった。「表情が明るくなった」と声をかけられて、ニッコリと笑いながら振り返ったりもしていた。この予選の中ではもっとも朗らかだ。

ミランとの契約が切れたこと、そして最後の2試合は活躍できたことも、本人の気を楽にさせているのだろう。やっと本田の本来の明るさが戻っている。これで日本代表のムードはさらに高まることだろう。

【日本蹴球合同会社/森雅史】