1.「ワタシタチノクニデワ」って言われても
「アメリカでは」「ヨーロッパのスタンダードは」といった文が嫌いですが、別にイギリス留学時代に人種差別されたとかではありません。もちろん国粋的に何でも日本サイコーとも思っていません。国を問わず良いところも悪いところもあって当然です。
意見表明において大切なのは説得力です。その根拠のオーソライズは説得材料の一つではありますが、さすがに今「外国が」というだけで説得は無理です。文化の違いはだいぶグローバル化で薄まってはいるものの、法律が違うとなれば根拠事態が揺らいできます。
人事問題を専門とする立場でいえば、日本の労働基準法がある以上、その中身の是非はさておき、法律を超える施策はできません。医療大麻とやらが合法な国があったとしても日本でやれば完全アウトです。そもそも「医療大麻」という存在自体本当なのかどうか、私は知りませんが。
2. 労働基準法
「新卒一括採用反対!」「年齢差別を排し中高年にも新しい仕事を!」「時給1500円!」などのスローガンは、一つ一つそれなりに意味のある意見だと思います。ただし、実際は労働基準法、もっと正確に言うなら法律ではなく判例によって、日本では解雇ができません。この前提に立つと、いずれも企業に要求すること自体説得力を持たないのです。
解雇が出来ないのに一人ひとり新卒学生を吟味する、給与ベースに見合わない労働しかできない中途社員を雇う、景気変動で赤字になっても減給できないという壁を超えられる説得力がないからです。能力がなくとも雇い続けろという、過大なリスクを超えるメリットを示さなければ、多分現状が変わるとは思えません。
非正規雇用の派遣労働者を使えば、直接雇用よりコストは増えます。しかしコスト増以上に、経営状況に応じた柔軟な雇用が出来る方を企業は選んでいるので、派遣は増えていると考えられます。派遣コストは当然派遣労働者にそのまま渡るのではなく、 必要経費とマージンを差し引いた後、給与は支払われますので、「派遣の方が安い」のではなく、「派遣労働者が手にする給与は安い」のです。
3. 政治の問題
外国の例を持ち出されると信じてしまうこともなんとなくありますが、やはりリテラシーの観点から、自分で検証することは外せません。良いとこ取りで外国の便利な点だけを挙げる論法が良く見られるからです。
例えば税金なら、北欧はバカ高く、デンマークは消費税25%所得税50%超(年収500万程度の場合)とのこと。その代わりに手厚い福祉政策があり、医療費教育費がほぼ無料というセットオフ関係にあります。高額税率が勤労意欲に影響することもあり得ます。この片方だけ取り上げても意味がない訳です。
アメリカで年齢差別が禁止され、中高年でも転職が容易なのは、雇ってもはずれだった時に解雇できる(される)リスクがあるからです。絶対クビにならない公務員正職員や大企業正社員というボリュームゾーンがマジョリティなのは、自分たちの既得権が守れるような政治に投票しているからです。政治に反対でも投票行動がなければ変わる訳がありません。
意見表明や海外事情に意味が無いとは全く思いません。大事です。ただし、事情紹介止まりでは、説得にならないでしょう。説得材料としてうまく使えてこそ海外情報は生きるのだと思います。