ミュージカル『刀剣乱舞』に再出陣! ――崎山つばさ「謙虚さと感謝だけは、絶対に忘れちゃいけない」
「僕、晴れ男なんです」――。撮影が始まった途端、直前まで降っていた雨がぴたりと止んだ。現在、ミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年みほとせの子守唄〜に出演中という忙しいスケジュールの合間をぬって、1時間半にわたるインタビューと撮影に駆けつけてくれた崎山つばさ。「人を引っ張るタイプではない」と謙虚に語る石切丸役の崎山だが、今回の公演では、刀剣男士たちを率いる隊長を演じる。その率直な気持ちは…? 俳優として、ひとりの男として。今、すさまじい勢いで成長を遂げる28歳の胸中を、じっくりと聞かせてもらった。

撮影/川野結李歌 取材・文/古俣千尋 制作/iD inc.



刀剣男士を熱演! 「100%石切丸になっていたい」



――ミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年みほとせの子守唄〜は、人気PCブラウザ・スマホアプリゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」を原案とした、ミュージカルとライブの二部構成からなる舞台作品。名だたる刀剣が戦士の姿となった“刀剣男士”を収集・育成・強化し、歴史改変を目論む敵を討伐していく刀剣育成シミュレーションゲームです。大成功を収めた昨年の公演に引き続き、第3弾となる今作の上演が始まりましたが、いかがですか?

お客さんの反応が本当にありがたいですね。毎回、「あ、ここで笑ってくれるんだ」「こういう反応するんだ」っていう感覚も違うので、公演ごとに、作品がどんどんいい方向に向かっていくなと感じています。

――崎山さんが演じるのは、治療・病気快癒のため平安時代に作られた大太刀、石切丸役ですね。争い事を好まない、心優しい性格ながらも、仲間の刀剣男士たちをまとめる責任感の強い隊長です。

石切丸は御神体として人の願いを受け止めてきた刀なので、その気持ちや思いを描いていきたいですね。僕は、舞台上にいるときは100%石切丸になっていたいので、「このとき、石切丸なら目線を合わせるのか?」「ここで石切丸だったらどうするか?」を、常に探りながらやっています。

――崎山さんは、一昨年の「トライアル公演」と昨年の「阿津賀志山異聞」公演に続いて3度目のミュージカル『刀剣乱舞』出演です。そして今回は、劇中で隊長も務めていますが、刀ミュ経験者として、何か思うところはありましたか?

“再出陣”に呼ばれたことはすごく嬉しかったです。その反面、経験者でもあるので、今回初めてミュージカル『刀剣乱舞』を演じる方々に、何かヒントを与えられるようなポジションにならないといけないなと。僕は人を引っ張るようなタイプではないんですけど、そういう責任と自覚は高めて臨もうと思っていました。



――人を引っ張るタイプではないけれど、責任感はしっかり持って任務に臨む…。それって、仲間の刀剣男士たちの様子を俯瞰して見ながら、皆が動きやすいように環境を整えていく隊長・石切丸とよく似ていますね。

性格は全然似ていないんですけどね(笑)。石切丸は感情を抑えるのが上手で、すごく大人で…そこが好きな部分で、尊敬しています。

――崎山さんも落ち着いていて、すごく大人な印象ですが…?

いえ、僕はまだまだです。ただ、たしかに、周りを俯瞰で見ている部分は似ているのかも。今回は僕より経験を積まれている先輩もいらっしゃるので、僕は意見を言うというよりも、様子を見ながら、経験者としてこれまでのミュージカル『刀剣乱舞』をふまえて気をつけたほうがいいことなどを伝えている感じです。そういう意味では、わりと石切丸っぽい感じで隊長になれたのかなと。

――個性豊かな6振りの刀剣男士が登場しますが、共演者のみなさんの雰囲気はいかがですか?

和気あいあいというよりは、静かで大人な感じかな(笑)。6人がそれぞれ自分の時間を生きていて、それがうまく混ざり合って、ちょうどいい空気感になっていて。僕自身、周りのメンバーから学ぶことも本当に多いですね。



――演技について、みなさんで話をしたりもしますか?

蜻蛉切役のspiくんが熱い人で、積極的に話し合いを設けてくれたりしましたね。みんなで座って、台本について思うことを話して共有したり。とくに6人で集まるラストシーンは、みんなで共通認識を持っておいたほうがいいねって、いろいろ話し合いました。

――では、最後のシーンにはとくに注目ですね!

はい。それから、財木くん(財木琢磨/大倶利伽羅役)とは2人での殺陣のシーンもあるので、よく話しています。舞台上の設定は「馴れ合わない」キャラなんですけど、本当の財木くんは人懐っこくて、馴れ合っちゃってますね(笑)。一番年下の横田くん(横田龍儀/物吉貞宗役)は稽古の終盤ぐらいから、いじられキャラの頭角を現してきて…みんなに愛されています。

――年代もさまざまで、本当に個性豊かなチームですね。

そうですね。荒木さん(荒木宏文/にっかり青江役)はすごく大人で、プロ意識が高い方ですし。太田くん(太田基裕/千子村正役)は他の舞台があって途中から稽古に合流したんですけど、そのぶんを取り戻すためにずっと一人で鏡の前で練習していて、本当に、真面目な方なんだと思いました。

――そうやって仲間ひとりひとりのいい部分を冷静に捉えている崎山さんにも、やはり隊長・石切丸が重なって見えます。本番期間を通して、さらに深まっていく6人の関係性にも注目したいですね。

みんなとの距離感は、本番が始まってから一気に縮まった感があるので、僕もこれからが楽しみです!




就職活動中に気づいた、本当にやりたかったこと



――では、崎山さんご自身のことも教えてください。小さい頃は、どんな子どもでしたか?

わんぱくでしたね。野球、サッカー、水泳とか身体を動かす習い事をしていたし、クラスでも目立ちたがりで、笑いをとったりするのも好きでした。プロ野球選手になりたくて、中学3年まで野球をやっていたんですけど、高校になってからは坊主頭がイヤで…(笑)。

――思春期にありがちな(笑)。

はい。それで高校ぐらいからは、だんだんインドアになってきました。陰と陽じゃないけど、じつはもともと持っていたネクラな部分が出てきたというか。

――でも今は、人前に出るお仕事をされていますよね。

高校生のとき、エキストラの事務所に入っていたんですが、そこでこの業界に少し興味を持ったんです。自分に合っていたというか、楽しかったんでしょうね。小学生のときの「人を笑わせたい、楽しませたい」っていう気持ちが、今につながっているのかなと思います。



――エキストラの事務所に入ったキッカケは何だったんですか?

絵に描いたような理由で恥ずかしいんですけど…。当時フラれた彼女を見返すために、事務所に書類を送ったんですよ。「逃がした魚は大きかったと思わせてやる」って。そんなダサいキッカケなんです!(笑)

――そんな過去が! でも、その経験があったからこそ、今の崎山さんがあるわけですね。

そうですね。エキストラも最初は難しかったし、恥ずかしさや、自分を出しきれないこともあったんですけど、やっていくうちに楽しくなってきました。

――その後のキャリアは?

大学に入ってエキストラはやめたんですけど、読者モデルとしてメディアに出るお仕事を少しやっていました。就職活動もしたんですけど、「やっぱりなんか違うな」って思って…。もし読者モデルをやっていなかったら、そんなふうに考えることもなく、普通に就職していたと思いますね。



――就職活動、されていたんですね。

けっこう本気でやっていました。ただ「何をしたいのか」は、就活をしながら探っていくのかなという感じで、漠然としていたんです。途中で、いきなり僕が就活をやめたときは、友達に「どうしたの?」って聞かれましたけど(笑)。

――就職をやめて、俳優になろうと。

はい。「やりたいことが見つかったんだ」って言って。ただ、スタートが遅かったので大変でした。そのとき23歳だったんですが、事務所の募集要項は18歳とか、せいぜい20歳までぐらいしか受け付けないところも多くて。そんななかで、今の事務所に拾ってもらえたんです(笑)。

――そして今、俳優として活躍されている崎山さんですが、お仕事をするうえで大事にしていることは何ですか?

自分を客観視することですね。石切丸じゃないですけど、物事を俯瞰で、一歩引いて見るようになりました。前のめりになることも必要なんですけど、なりすぎちゃうと自分を見失っちゃうので。謙虚さであったり、お客さんや応援してくださる方、スタッフさんへの感謝であったり、それは絶対に忘れちゃいけないと思っています。



――そんな思いに至ったキッカケはあったんですか?

事務所に入ってからしばらくは仕事もなくて、苦しい時期もあったんですけど、昨年ぐらいから立て続けに舞台をやらせていただくことになって。その状況に追いついていない自分がいたんです。環境が急に変わったことで、自分が自分じゃない時期があって。ふと、「自分が変わってきちゃった。これじゃいけない!」って気づいたんです。

――それは大きなターニングポイントでしたね。

はい。でも、まだまだこれからだと思っています。今後また、自分を見失いそうになるときが来るかもしれないけれど、そのときに、このことを思い出せればいいなと。