「客観的に見ても、オランダは我々よりワンランク上だ」

 3月3日、韓国・高尺ドームで行なわれたオランダと尚武(韓国の兵役選手で構成された2軍チーム)との練習試合後、観戦した韓国代表の金寅植(キム・インシク)監督はそうコメントした。試合は11対1でオランダが勝利したが、金寅植監督の言葉は、単に点差をなぞったものではなかった。


メジャーでゴールドグラブ賞を2度獲得したオランダ代表のアンドレルトン・シモンズ WBCのA組は、韓国で開催される。これまでは台湾で多くの国際大会が開催されてきたが、韓国に初のドーム球場ができたことが後押しとなった。自国開催だけでも韓国にとって大きなアドバンテージだと思えるが、だからといって簡単に1位通過とはならないだろう。それだけ参加国のレベルが高い。

 筆頭はオランダだ。ザンダー・ボガーツ(レッドソックス)、ディディ・グレゴリアス(ヤンキース)、ジュリクソン・プロファー(レンジャーズ)、ジョナサン・スクープ(オリオールズ)、アンドレルトン・シモンズ(エンゼルス)のメジャー5選手に、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト)、リック・バンデンハーク(ソフトバンク)など、日本で実績を残した選手で編成されたチーム。

 すでに多くのメディアで伝えられているが、実際、ショートのシモンズらはメジャーといっても、ただ40人枠に入っているだけの選手ではなく(それだけでもすごいのだが)、堂々たる成績、実績を残しており、オランダ代表の核になっている。それに比してバンデンハーク以外の投手のレベルが云々されるが、それを差し引いてもやはり強い集団だといえる。

 その最大の理由は、結束力だ。これはオランダに限ったことではないが、「母国のユニフォームを着て共にプレーする」という意識が強いチーム(国)ほど、WBCで好結果を残している。オランダの選手たちは、メジャーという”異国”で日々プレーしているぶん、集まるときの結束力は強くなる。これは韓国や日本には当てはまらない感覚だろう。

 今大会で同じA組、本戦初参加となるイスラエルも同様だ。10年間で通算285本塁打のライアン・ブラウン(ブルワーズ)など、メジャーでもトップクラスの参加が期待されたものの、結局は3Aクラスの編成となった。それでも2016年9月にニューヨーク・ブルックリンで開催された世界最終予選を勝ち抜いたメンバーは、マイナークラスながらも、手堅い布陣と見られている。

 以前、NPB関係者からも「軽視していたら痛い目を見る。NPBでも最初にデータ収集し始めたのは、韓国でもキューバでもなく、イスラエルでしたから」という話を聞いたことがある。

 ちなみにA組で大会のオープニングゲームとなる3月6日のイスラエルvs韓国戦には、すでにジェイソン・マーキーの先発が公表されている。38歳のベテランで、メジャー14年間で124勝(118敗)の成績を残している投手だ。昨季は所属先がなくプレーしていないが、9月の予選では2試合登板し、健在ぶりを披露している。

 オランダ、イスラエルに比べて台湾は、明らかに戦力ダウンしている。プロとアマの間での長年にわたる主導権争いがここに来て激しくなり、いわばボイコットする形でプロの「ラミゴ・モンキーズ」が選手の拠出を拒んだ。

 結果、昨季に打率.414で新人王を獲得した王柏融(ワン・ブォロン)ら、本来代表に入るべき選手4、5名が抜けている。モチベーション的にも光明は見出しにくい。台湾プロ野球関係者からも「今回は惨敗し、プロ・アマ両組織の幹部が目を覚ます契機になってくれれば、1次ラウンド敗退も意味がある」という言葉さえ漏れている。

 そんな各国を迎え撃つ韓国はといえば、やはりモチベーションの問題が影を落とす。韓国球界は昨季、八百長事件や選手の違法賭博問題など、不祥事が相次いだ。選手選考時には、パイレーツで103試合に出場し、21本塁打を記録した姜正浩(カン・ジョンホ)に飲酒運転での事故が発覚。当然、代表からは外れた(3月3日には懲役8カ月、執行猶予2年の有罪判決が下された)。

 そうした事件が国内の野球人気に水を差すことになっただけに、WBCでは是が非でも1次ラウンド突破はもちろんのこと、2次ラウンド、決勝ラウンドへと求められる声は大きい。だが、戦力としては微妙だ。

 下馬評ではオランダが頭ひとつ抜けており、次が韓国でそれをイスラエルが追い越すか、という展開。しかし野球という競技は、サッカーやラグビーとは異なり、偶発的な要素が多いスポーツでもある。9イニングの中でなにが起こるかわからない。さらには、前述のような結束力の違いもある。

 チームの置かれている背景、モチベーションの有無を考えると、案外、戦力以上に結束力が雌雄を決するのではないか。A組はそんな国が期せずして揃った。

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