「みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい」――衰退する日本社会への対処法を語った上野千鶴子さん(68)の言葉が物議を醸している。

この発言が掲載されたのは、中日新聞の「この国のかたち 3人の論者に聞く」(2月11日)。 ダースレイダーさん(ラッパー)、デービッド・アトキンソンさん(小西美術工藝社社長)と並んで登場した上野さんは、人口が減少し続ける日本社会への処方箋を語った。

「泣いてもわめいても子どもは増えません」

上野さんは、日本はいま転機を迎えているという。人口の減少を止めることができないからだ。安倍晋三首相は、「人口一億人規模の維持」などを目標にしているが、上野さんは「泣いてもわめいても子どもは増えません」と一刀両断。

人口の自然増が望めない以上、人口を増やすためには移民を受け入れるしかない。そのため日本社会は「移民を入れて活力ある社会をつくる一方、社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ国にするのか、難民を含めて外国人に門戸を閉ざし、このままゆっくり衰退していくのか。どちらかを選ぶ分岐点に立たされている」という。

しかし上野さんは移民を受け入れることは無理だという。なぜなら「世界的な排外主義の波にぶつかった」からであり、「日本人は多文化共生に耐えられない」からだ。

「だとしたら、日本は人口減少と衰退を引き受けるべきです。平和に衰退していく社会のモデルになればいい。(中略)日本の場合、みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。国民負担率を増やし、再分配機能を強化する。つまり社会民主主義的な方向です」

ただし、「日本には本当の社会民主政党がない」ため、「NPOなどの『協』セクター」にこそ希望があるという。

「こちらの世代は生まれてこのかたずっと貧しくなってんじゃい」

上野さんのこの発言に対しては、反論が相次いだ。編集者の中川淳一郎さんは、次のようなツイートを投稿した。

「上野千鶴子の『平等に貧しくなろう』(中日新聞・東京新聞)には大いに意義を呈したい。理由は、『平等に豊かになるべく努力しようぜ』だからだ。なんで全員揃って貧しくならなくちゃいけねぇんだよ。努力や工夫をして豊かになってもいいだろ、オラ、と昨日の東京新聞を読んで思った次第でございます」

「みんなで貧しくなっていけばいい」語っていた上野さんに対して、「平等に豊かになろう」というのが中川さんの主張だ。

「みんなで貧しく」と言いながらも、上野さん自身は、医者の娘で東大名誉教授。自分が恵まれているのに「みんなで貧しく」は矛盾ではないのかと感じる人も多かった。

さらに、今の中高年は、戦後日本が成長していく過程で豊かさを享受してきた世代でもある。1990年代以降に社会に出て安月給と長時間労働に苦しんできた世代からすると、そんな世代にどうこう言われたくないだろう。

「高度成長もバブルも満喫した世代が自己満足で『平等に貧しくなろう』とか言ってんじゃねーよ。こちらの世代は生まれてこのかたずっと貧しくなってんじゃい。寝言は寝て言え。」

移民に関する考え方についても批判が相次いだ。政治学者の五野井郁夫さんは、「下らねえこと言う前に川崎見て頭下げてこいよ」と強い口調で批判。上野さんは「日本人は多文化共生に耐えられない」というが、外国人が多いことで知られる川崎などではすでに多文化共生が進んでいるということが言いたいのだろう。

「みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい」と上野さんは言うが、日本全体が衰退していくとき、そのしわ寄せが貧困層に偏ってしまう恐れはないのだろうか。記事では「国民負担率を増やし、再分配機能を強化する」と語っていたが、そう簡単に実現できるわけではない。中川さんの言うように「平等に豊かに」なれれば一番よいのだが……

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