ホンダは新型「シビック」を、2017年夏に国内発売します。そもそも「シビック」とはどんなクルマで、そしてスポーツグレード「タイプR」を含む新型はどうなっているのでしょうか。

2017年夏、日本に「シビック」が帰ってくる

 自動車業界にとっての“仕事始め”ともいえる、カスタムカー&ドレスアップカーの国内最大イベント「東京オートサロン 2017」が、今年も1月13日(金)から15日(日)にかけ幕張メッセで開催されました。当初はアフターマーケットパーツメーカーやショップが出展していた同イベントですが、近年では自動車メーカーの積極的な参加が目立ってきており、とくにスポーツモデルなどの車種では新型車を発表する場として選ばれるケースが多くなってきています。

 そんな今年2017年の「東京オートサロン」において、ホンダは新型「シビック」の日本国内市場への導入を正式に発表しました。以前より、八郷社長が「シビック セダン」の導入に関してコメントを出していましたが、発売時期やボディ・ラインナップについて発表したのはこれが初めて。13日(金)午前10時30分のプレスカンファレンス開始前から、メインステージ上にはブルーのベールをかけられた3台の車両が並び、背後には「CIVIC」のロゴが照らし出されていたため、ブース前には大勢のファンが“その瞬間”を待っていました。

新型「シビック」の国内発売がアナウンスされた「東京オートサロン 2017」のプレスカンファレンス(写真出典:ホンダ)。

 今回、日本市場に導入されることが発表されたのは、通算10代目となる現行「シビック」。北米やアジア諸国で発売されているセダン、欧州を中心とする5ドア・ハッチバック、そして「シビック タイプR」の3モデルで、それぞれのスペックや価格帯などは明らかにされませんでしたが、いずれも2017年夏に発売開始といいます。「シビック セダン」は埼玉県の寄居工場で生産され、5ドア・ハッチバックと「タイプR」に関しては、イギリスのスウィンドン工場にて生産、日本へ輸入される形となります。なお「タイプR」は限定販売ではなく、カタログモデルとして用意される模様です。

10代目は「世界統一仕様」

 定刻どおり午前10時30分に開始されたプレスカンファレンスでは、本田技研工業執行役員・日本本部長の寺谷公良さんが登壇。ホンダの4輪車事業における、「シビック」というモデルの存在意義について説明しました。ホンダは1963(昭和38)年に4輪自動車の生産を開始し今年で54年目を迎えていますが、昨年、世界累計生産台数1億台を達成しました。「シビック」の初代モデルが登場したのは1972(昭和47)年のことですが、その1億台のうち約4分の1となる2400万台を歴代の「シビック」が占めているとのこと。ホンダの4輪車事業において、まさに柱というべきモデルなのです。

「東京オートサロン 2017」のプレスカンファレンスにて、新型「シビック タイプR」プロトタイプと本田技研工業執行役員・日本本部長の寺谷公良さん(写真出典:ホンダ)。

 しかし日本国内市場においては、「シビック」はモデルチェンジの度にボディサイズが拡大したこともあってか販売台数に陰りが見えはじめ、またコンパクトクラスの5ドア・ハッチバックである同社の「フィット」が、元来「シビック」が担ってきたポジションも受け持つようになったこともあり、2010(平成23)年に販売を終了した8代目「シビック」を最後に姿を消しました。その後は、先代(9代目)欧州「シビック」をベースにした「シビック タイプR」が750台限定で販売されたのみ。欧州や北米、アジア諸国など世界中で販売され人気となっている「シビック」は、生まれ故郷の日本で見ることができないという状況になっていました。

2017年夏に日本市場へ導入される新型「シビック ハッチバック」(2017年1月13日、佐橋健太郎撮影)。

 ところで「シビック」といえば、「北米シビック」「欧州シビック」という言葉を聞いたことはないでしょうか。ホンダは基本的に販売地域に近い工場で生産するという方針を採っており、欧州地域で販売される「シビック」はイギリス・スウィンドン工場で、アメリカ・カナダなど北米および周辺地域で販売される「シビック」はアメリカの国内工場で生産されています。じつは先代モデルまで、両者は内外装のデザインはもちろんエンジンやトランスミッションのラインナップなど、すべてが異なる別モデルでした。現行モデルである10代目「シビック」では、それを世界統一モデルとして統合。仕向地ごとに細部の仕様違いはあるものの、基本的なデザインは同一となっています。

 2015年11月、アメリカでのセダン発売を皮切りに、10代目「シビック」は先代同様、北米や欧州、さらに中国を始めとするアジア地域や南半球諸国など、世界中で発売されました。「グローバル・プラットフォーム」と呼ばれる新世代シャシーが与えられ、高張力剛板を59%も使用することで軽量化と高剛性を両立。前後サスペンション型式はフロントにマクファーソン・ストラット、リアにマルチリンクと、先代から変わりはありませんが、2016年の「北米カー・オブ・ザ・イヤー」(乗用車部門)を獲得するなど、多くの高評価と支持を集めました。北米ではセダンのほかクーペもラインナップ。一方、欧州ではセダンとハッチバックというラインナップになっています。

「タイプR」も世界市場へ

「シビック」といえば、忘れてはならないのがスポーツグレードである「タイプR」の存在です。これは6代目モデルであるEK世代に、1997(平成9)年から設定されたスポーツモデル。ボディの軽量化と、自然吸気エンジンとして究極のパフォーマンスを目指した1.6L DOHC VTECの組み合わせは、速さだけでなくスポーツドライビングの楽しさを具現化したモデルとして人気を集めました。

 その後、「シビック タイプR」は7代目モデル・EP世代、8代目モデル・FD世代(欧州地域ではFN世代)、9代目の欧州モデル・FK世代に設定され人気になる一方で、北米やアジア地域など「タイプR」の設定がない市場からも、販売を望む声が大きくなっていきます。これに応え、新型「タイプR」は2017年後半に欧州で発売されるほか、北米などへの輸出も予定されています。

そして先代の発売がなかった生まれ故郷である日本市場からも、ホンダの新車ラインナップに「シビック」を復活させてほしいという要望は根強く、今夏、約7年ぶりに日本市場へ導入されます。

新型「シビック セダン」は国内生産とのアナウンス(2017年1月13日、佐橋健太郎撮影)。

 10代目「シビック」の特徴は、前述のように「グローバル・プラットフォーム」と呼ばれる新世代シャシーを採用したこと。さらに搭載されるエンジンにも、省燃費性能に優れた1.5Lターボエンジンが設定されたことが話題になっています。シビックの標準モデルとしては史上初めて設定されたターボ・ユニットは、すでに「ジェイドRS」や「ステップワゴン」に搭載されているものと同じL15B。ただし北米仕様のスペックでは、最高出力174hpと最大トルク162lb-ft(約22.8kg-m)を発揮しており、「ジェイドRS」の150ps/20.7kg-mと比べ大きくパワーアップしていることも特徴です。従来どおりの2L NA i-VTECユニットも用意されていますが、こちらも日本市場に導入されるかどうかについては、何も発表されていません。

 そして2016年の「パリ・モーターショー」で発表された、注目の新型「シビック タイプR」。先代のFK型ではK20C型2Lターボを搭載し、世界中の自動車メーカーがテストコースとして使用するニュルブルクリンク・北コースにて「世界最速の2リッターFF」を目指し開発されましたが、新型ではさらなるパフォーマンスアップが確実です。

「最速」の遺伝子は引き継がれるか

 新型「シビック タイプR」は、ベースとなるハッチバックがイギリスのスウィンドン工場で生産されるため、先代FK型と同じく同工場にて生産、欧州および北米そして日本を含む世界中に出荷されることになります。

新型「シビック タイプR」のプロトタイプ(写真出典:ホンダ)。

 残念ながら詳細なスペックは未発表ですが、新型「タイプR」のスタイリングは、史上最速FFを掲げた現行モデルをさらに発展させた迫力あるもの。搭載されるエンジンはK20C型2L直噴VTECターボを発展させたもので、最高出力は350PSに達するというウワサもあります。大幅なパワーアップのウワサを裏付ける要因のひとつが、ボンネットフードに設けられたインテークダクトの存在。そのダクトを通った走行風はエンジン上部に移設されたインタークーラーに直接導かれ、サイズ自体も従来より大型化されているとのこと。

 また脚まわりにはブレンボ製対向4ポッド・ブレーキキャリパーと大型ドリルドローターを組み合わせ、ホイールはついに20インチを装着。タイヤサイズは前後とも245/30ZR20で、銘柄については未発表ながら「ニュルブルクリンク最速」をターゲットに専用開発された特別品が組み合わされるはずです。

 2017年、ついに日本市場へ本格復帰を果たす新型「シビック」。走行性能や燃費性能はもちろんのこと、最新の安全装備である「ホンダセンシング」を備え、また全車に電磁式パーキングブレーキを採用するなど、全体的な質感も大幅にアップ。セダン、ハッチバック、そして「世界最速2リッターFF」の「タイプR」が揃う新世代「シビック」ファミリーが登場する夏が、いまから楽しみです。

【写真】ホンダのレーシングスピリット、赤のエンブレム

ホンダのスポーツグレードである「タイプR」に設定されたクルマは代々、この赤いエンブレムが装着される。写真は先代「シビック タイプR」のもの(写真出典:ホンダ)。