「捨てる勇気を持て」「年齢という記号に囚われるな」――綾野 剛の人生論。
“こだわり”が、やたらともてはやされるこの社会で、綾野 剛は執着というものをどこかに置き忘れてきてしまったかのように、何にもこだわらない。あるのは「目の前のことに、ただ全力で取り組む」という思いだけ。その姿は、映画『新宿スワンII』で演じている主人公・白鳥龍彦とも重なる。底抜けの明るさと熱さを持つ龍彦という役は、従来の綾野のキャリアから考えると珍しいタイプと言えるが、綾野は「龍彦との出会いは、僕にとっては宝物という以上のもの」と並々ならぬ愛情を口にする。
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/澤田石和寛(SEPT) ヘアメイク/石邑麻由
――歌舞伎町でスカウトマンとしてのし上がろうとする龍彦の成長を描いた『新宿スワン』は2015年に公開され、ヒットを記録しました。今回の『新宿スワンII』で再び、龍彦として生きて、いかがでしたか?
まず、龍彦は体調がよくないと演じられないんですよね。いや、むしろ彼から僕が元気をもらっています。だから、龍彦を演じている間は体の調子がいいです。
――龍彦のキャラクターが、綾野さん自身の肉体にまで影響を与えてるんですね。
ひまわりのように、太陽のように、誰かを明るく照らすということを、主役としてできるって幸せなことです。主役でも、トーンの落ちたタイプの役を演じるのが多いですから。こんなにまっすぐで、気持ちのいい主人公を演じられることに感謝してます。
――この突き抜けた快活さを持つ龍彦という役で、公開当時、「綾野 剛のイメージを壊した」とも評されました。従来のイメージと異なるタイプの役柄が、シリーズ化されるほどの“当たり役”となったというのは面白いですね。
僕にとってもすごく大きなことだし、龍彦との出会いは宝物という以上…言葉では表現できないものです。龍彦が立体的に僕の中に存在していて、友人として会話をすることもありますし、今では僕の中から外に飛び出して、別人格として生きているような感覚もあります。
――本作では新天地・横浜で龍彦がまた大暴れします。龍彦とそのスカウト仲間で突然、歌舞伎町から消えた洋介(久保田 悠来)、龍彦の先輩である関 玄介(深水元基)とその幼なじみで横浜を牛耳る、滝 マサキ(浅野忠信)らの男の友情がテーマになっています。
男同士って、言葉も足らないものですよね。特に関と滝の関係を見てると、限りなく家族に近いから。親や兄弟といまさら何を話すんだ? という感覚は多くの人にわかっていただけるんじゃないかと思います。女性から見たら「なんでこんなに言葉が足りないの?」と不思議かもしれませんが。
――決して仲が悪いわけではなく、互いに言葉で説明しようとしない。
会話しなくても、関係が成立するようになると、言葉で表現しなくなる。それこそ、家族という例で言うと関と滝の関係なんて、反抗期みたいなもの。長すぎる反抗期(笑)。言葉はないけど、男同士だからこそ気を遣い合う部分もあります。
――遠慮がないように見えて、実は細かく気を遣っている?
自身のひと言で相手はこう考えるんじゃないか? 突き進もうとしていることをやめちゃうんじゃないか? 自分が我慢したほうが相手は幸せなんじゃないか? …と、互いが互いを思ってる。それは限りなく愛に近いんですけど。
――たったひと言あればわかるのに…と傍から見ていると、もどかしくもありますが(苦笑)。綾野さんも、同年代の俳優の仲間も多いですし、男の友情をすごく大切にされているかと思います。
もちろんです。人生の糧だと思います。ただ仲がいいだけじゃダメでしょうし、ちゃんと戦える――時に愛し合い、時に裏切り、裏切られ…それさえもすべて認めたいと思いますね。
――歌舞伎町で自分の足場を築いた龍彦は、社命による横浜行きを渋りますね。未知の場所でまたゼロから始めること、特に現状に不満があるわけでもないのに、そこを離れないといけないのを嫌がる気持ちはよくわかります。綾野さん自身、作品ごとに新しい現場、新しい出会いの連続だと思いますが…。
僕自身、新しい場所に向かうときに大事にしているのは「郷に入っては郷に従え」ということ。それは最大のコミュニケーションだと思います。撮影でいろんな場所を訪れますが、その街の匂い、空気、体温を察知する必要があります。特に地方ロケでは、その街も共演者になってもらわないといけない。
――いい作品は、風景や街が作品に溶け込んでいると言いますね。
その場所、街に対するリスペクトを持つことが大事。撮影って、道を封鎖したり、ほとんどがご迷惑をかけることばかりなんです。でもそのリスペクトをきちんと持っていれば、街も僕らを受け入れてくれ、みなさんにも理解していただけるものだと思います。
――場所だけでなく、現状でうまくいっていることをやめて、新しいことをやるということに対して、綾野さんのスタンスは?
新しいことに進むというのは、生きているうえで当然だと思っています。毎朝、昨日とは異なる自分と向き合わないといけないし、自分が前日までとは違う自分であり、異なる環境にいるということを受け止めることから朝が始まります。
――毎朝!?
それを受け止めるキャパシティがないと、苦痛ですよね。自分と対峙し、今日の自分はちゃんと生きていけるか? と確認する毎日です。
――綾野さん自身、そこに苦痛を感じることはないんでしょうか?
僕は、“捨てていく”という作業をこれまでも当たり前のようにやっています。現状維持は、僕にとって後退なんです。毎日前進し、続けることは体力を使うことだけど、性に合っているのかもしれません。基本、僕は“捨てる勇気”しか持ってないですから。
――捨てる勇気?
何かに固執した瞬間、それは自分の首を絞めることになる。これまでそういう経験を何度もしてきてます。龍彦を演じててもそうです。「よーい、スタート!」の声が掛かったとき、「あぁ、昨日までの龍彦じゃもうダメなんだ」と気づかされるんです。
――綾野さん自身だけでなく、役柄も日々、変化・成長していく。
そう、それはちょっとしたニュアンスや曖昧なものではなく、確固たるもの――「龍彦は今日をこういうふうに生きるんだ!」というものを明確に決めてやらないといけないんです。新年を迎えると、なおさら「変化や成長を」って意識するものだけど、それを365日ずっと続けていかないといけないし、その先にいつか366日目が生まれるのを願っています。
――366日目というのは?
365日が過ぎると、また新年を迎えて1月1日となるけど、そこで“戻る”のではなく、366日、367日、368日…と新しい場所に行かないといけない。それは、今回の映画でもそうで、僕はこの映画は続編ではなく新章だと言い続けてるんです。名目上は『新宿スワンII』ですが、新しい風が吹いている。
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/澤田石和寛(SEPT) ヘアメイク/石邑麻由
時に戦い、愛し合える…男同士の友情は「人生の糧!」
――歌舞伎町でスカウトマンとしてのし上がろうとする龍彦の成長を描いた『新宿スワン』は2015年に公開され、ヒットを記録しました。今回の『新宿スワンII』で再び、龍彦として生きて、いかがでしたか?
まず、龍彦は体調がよくないと演じられないんですよね。いや、むしろ彼から僕が元気をもらっています。だから、龍彦を演じている間は体の調子がいいです。
――龍彦のキャラクターが、綾野さん自身の肉体にまで影響を与えてるんですね。
ひまわりのように、太陽のように、誰かを明るく照らすということを、主役としてできるって幸せなことです。主役でも、トーンの落ちたタイプの役を演じるのが多いですから。こんなにまっすぐで、気持ちのいい主人公を演じられることに感謝してます。
――この突き抜けた快活さを持つ龍彦という役で、公開当時、「綾野 剛のイメージを壊した」とも評されました。従来のイメージと異なるタイプの役柄が、シリーズ化されるほどの“当たり役”となったというのは面白いですね。
僕にとってもすごく大きなことだし、龍彦との出会いは宝物という以上…言葉では表現できないものです。龍彦が立体的に僕の中に存在していて、友人として会話をすることもありますし、今では僕の中から外に飛び出して、別人格として生きているような感覚もあります。
――本作では新天地・横浜で龍彦がまた大暴れします。龍彦とそのスカウト仲間で突然、歌舞伎町から消えた洋介(久保田 悠来)、龍彦の先輩である関 玄介(深水元基)とその幼なじみで横浜を牛耳る、滝 マサキ(浅野忠信)らの男の友情がテーマになっています。
男同士って、言葉も足らないものですよね。特に関と滝の関係を見てると、限りなく家族に近いから。親や兄弟といまさら何を話すんだ? という感覚は多くの人にわかっていただけるんじゃないかと思います。女性から見たら「なんでこんなに言葉が足りないの?」と不思議かもしれませんが。
――決して仲が悪いわけではなく、互いに言葉で説明しようとしない。
会話しなくても、関係が成立するようになると、言葉で表現しなくなる。それこそ、家族という例で言うと関と滝の関係なんて、反抗期みたいなもの。長すぎる反抗期(笑)。言葉はないけど、男同士だからこそ気を遣い合う部分もあります。
――遠慮がないように見えて、実は細かく気を遣っている?
自身のひと言で相手はこう考えるんじゃないか? 突き進もうとしていることをやめちゃうんじゃないか? 自分が我慢したほうが相手は幸せなんじゃないか? …と、互いが互いを思ってる。それは限りなく愛に近いんですけど。
――たったひと言あればわかるのに…と傍から見ていると、もどかしくもありますが(苦笑)。綾野さんも、同年代の俳優の仲間も多いですし、男の友情をすごく大切にされているかと思います。
もちろんです。人生の糧だと思います。ただ仲がいいだけじゃダメでしょうし、ちゃんと戦える――時に愛し合い、時に裏切り、裏切られ…それさえもすべて認めたいと思いますね。
現状維持は後退であり「366日目が生まれることを願う」
――歌舞伎町で自分の足場を築いた龍彦は、社命による横浜行きを渋りますね。未知の場所でまたゼロから始めること、特に現状に不満があるわけでもないのに、そこを離れないといけないのを嫌がる気持ちはよくわかります。綾野さん自身、作品ごとに新しい現場、新しい出会いの連続だと思いますが…。
僕自身、新しい場所に向かうときに大事にしているのは「郷に入っては郷に従え」ということ。それは最大のコミュニケーションだと思います。撮影でいろんな場所を訪れますが、その街の匂い、空気、体温を察知する必要があります。特に地方ロケでは、その街も共演者になってもらわないといけない。
――いい作品は、風景や街が作品に溶け込んでいると言いますね。
その場所、街に対するリスペクトを持つことが大事。撮影って、道を封鎖したり、ほとんどがご迷惑をかけることばかりなんです。でもそのリスペクトをきちんと持っていれば、街も僕らを受け入れてくれ、みなさんにも理解していただけるものだと思います。
――場所だけでなく、現状でうまくいっていることをやめて、新しいことをやるということに対して、綾野さんのスタンスは?
新しいことに進むというのは、生きているうえで当然だと思っています。毎朝、昨日とは異なる自分と向き合わないといけないし、自分が前日までとは違う自分であり、異なる環境にいるということを受け止めることから朝が始まります。
――毎朝!?
それを受け止めるキャパシティがないと、苦痛ですよね。自分と対峙し、今日の自分はちゃんと生きていけるか? と確認する毎日です。
――綾野さん自身、そこに苦痛を感じることはないんでしょうか?
僕は、“捨てていく”という作業をこれまでも当たり前のようにやっています。現状維持は、僕にとって後退なんです。毎日前進し、続けることは体力を使うことだけど、性に合っているのかもしれません。基本、僕は“捨てる勇気”しか持ってないですから。
――捨てる勇気?
何かに固執した瞬間、それは自分の首を絞めることになる。これまでそういう経験を何度もしてきてます。龍彦を演じててもそうです。「よーい、スタート!」の声が掛かったとき、「あぁ、昨日までの龍彦じゃもうダメなんだ」と気づかされるんです。
――綾野さん自身だけでなく、役柄も日々、変化・成長していく。
そう、それはちょっとしたニュアンスや曖昧なものではなく、確固たるもの――「龍彦は今日をこういうふうに生きるんだ!」というものを明確に決めてやらないといけないんです。新年を迎えると、なおさら「変化や成長を」って意識するものだけど、それを365日ずっと続けていかないといけないし、その先にいつか366日目が生まれるのを願っています。
――366日目というのは?
365日が過ぎると、また新年を迎えて1月1日となるけど、そこで“戻る”のではなく、366日、367日、368日…と新しい場所に行かないといけない。それは、今回の映画でもそうで、僕はこの映画は続編ではなく新章だと言い続けてるんです。名目上は『新宿スワンII』ですが、新しい風が吹いている。