あまりに興奮して宮藤官九郎脚本・2019年大河ドラマ「オリンピック」登場人物・配役を予想してみた
3年後の2019年に放送されるNHK大河ドラマでは、オリンピックを題材に宮藤官九郎がオリジナル脚本を手がけることがきのう発表された。もちろんこれは翌20年の東京でのオリンピック開催にあわせたもの。
大河ドラマではかつて1984年から86年にかけて近現代をとりあげた作品が放送されたことがある。このうち86年放送の「いのち」(橋田壽賀子作)は、歴史上の人物が一切登場せず、三田佳子演じる架空の医師・高原未希を主人公に戦後史を描いた異色作だった。
未希は青森県弘前の出身で、当初は農村医療を志して地元で開業するも、やがて親友に請われて東京郊外の新興住宅地で医院を開く。ちょうど高度成長期に入り、急増する都市人口に対して医師が不足していたころだった。1964年10月10日の東京オリンピック開会式の当日には、未希の新たな病院の起工式が行なわれている。そのシーンでは実際の開会式のテレビ中継の映像も使われていたと記憶する。
「いのち」では高度成長の陰の部分もきちんと描いていたのが印象深い。オリンピック直前の東京では空前の建設ブームが起こる。それを支えたのは農村からの出稼ぎ労働者たちだったが、彼らの労働条件は過酷だった。劇中では、未希と同郷の男(演じていたのは鈴木正幸)が大けがを負い、彼女の病院に担ぎこまれるも、結局亡くなってしまう。
このほかにも農地改革や集団就職など、「いのち」は農村の視点から戦後をとらえた点も特筆に値する。これに対して、今回の宮藤官九郎の大河ドラマはオリンピックとあわせて東京を題材にとりあげるという。これまで池袋、下北沢、高円寺など東京の各街をドラマの舞台にとりあげてきた宮藤だが、東京を総体としてどんなふうに描き出すのか? それも気になるところだ。
さて、この記事では、かなり気が早いが、宮藤脚本の大河ドラマに登場しそうな人物と、それにふさわしいと思われる配役を予想、というかほぼ妄想だが、私なりにあげてみたい。
NHKの発表によれば、今回のドラマでは、日本が初参加した1912年のストックホルムオリンピックから、1964年の東京オリンピックまでの約半世紀を描くという。
半世紀の真ん中は1936〜1938年、日中戦争の勃発する前後ということになる。ちょうどこのころ持ち上がったのが1940年の東京オリンピック招致だった。1936年7月には、ドイツ・ベルリンでのIOC(国際オリンピック委員会)総会で、次のオリンピック開催地に東京が選ばれる。だが、それからちょうど1年後に中国大陸で始まった戦争は泥沼化、結局東京でのオリンピックは翌38年に中止が決まった。
1940年の東京開催決定の立役者といえば、当時IOC委員だった教育家の嘉納治五郎(1860〜1938)である。嘉納は古来より伝わる柔術を合理化・体系化して「柔道」を創始し、その普及に努めた。一方で明治末よりIOC委員、大日本体育協会(現・日本体育協会)の初代会長などを歴任している。前出のストックホルムオリンピックでは日本選手団の団長を務めた。
この経歴からすれば、オリンピックの歴史を描く大河ドラマにおいて、主に前半で主人公クラスで登場することは間違いない。演じるのも十分に実績のある俳優がふさわしかろう。私のなかでは西田敏行、平泉成、柄本明などの名前が浮かぶが、嘉納の肖像写真を見るかぎり、笹野高史にそっくりであることに気づいた。もちろん風貌ばかりでなく、笹野は大河ではすでに「天地人」で豊臣秀吉を演じるなど申し分のない活躍をしている点も考慮すれば、適役といえるのではないか。
前半で1940年の東京オリンピック返上までを描くとするなら、後半の舞台は太平洋戦争から戦後復興、高度成長へといたる時代ということになる。嘉納治五郎は返上直前の1938年5月、エジプト・カイロでのIOC総会から帰国の途上に客死しているので、後半まで登場させるのは難しい。
全体の構成を考えれば、前半と後半を何らかの形で結びつける人物を主人公クラスに据えたいところだ。そこで思い浮かぶのが、大島鎌吉(けんきち。1908〜85)という人物である。大島は1932年のロサンゼルスオリンピックの陸上・三段跳の銅メダリストで、戦前から戦後にかけて毎日新聞の記者として活躍する一方で、1964年の東京オリンピックでは招致活動に奔走、開催時には日本選手団長を務めた。
大島については岡邦行『大島鎌吉の東京オリンピック』にくわしいが、彼の生涯はエピソードに事欠かない。第二次世界大戦中には毎日新聞のドイツ特派員となり、ベルリン陥落まで取材している。この間、けっきょく記事にはならなかったものの、ヒトラーへの単独会見にも成功した。終戦直後、毎日新聞社がプロ野球球団・毎日オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)を発足させたときには、アマチュア精神を重んじる立場から強く反対し、運動部長昇進のチャンスをふいにしたこともあった。
この気骨ある人物を演じるには誰がふさわしいか。宮藤官九郎とはその出世作「池袋ウエストゲートパーク」以来、何度となくタッグを組んできた長瀬智也などぴったりではないだろうか。
オリンピック招致では大島とともに、朝日新聞社の常務で日本水泳連盟会長なども務めた田畑政治(まさじ。1898〜1984)が重要な役割を担った。きっとドラマにも出てくることだろう。
大島鎌吉と田畑政治はもともとスポーツ振興をめぐり意見を異にしていた。田畑は、オリンピックで日本人選手が活躍すれば、スポーツへの関心は自然と高まり、競技する人たちの底も広がると考えていた。いわば「オリンピック至上主義」である。これに対して大島は、底を広げることこそ第一と考え、そのために日本スポーツ少年団を結成するなどしている。
だが、田畑はJOC(日本オリンピック委員会)の総務主事を務めていた1959年、5年後のオリンピック開催地を決めるIOC総会を目前に控え、招致運動の切り札として大島をJOC委員に抜擢する。田畑は当時の共産圏であるソ連・東欧諸国の票を獲得することが東京開催の決め手になると考え、大島に各国への説得をまかせたのだった。
なお、一昨年にフジテレビで放送されたドラマ「東京にオリンピックを呼んだ男」では田畑を西田敏行が演じている。西田といえば大河ドラマで何度も大役を演じてきたし、長瀬とは宮藤作品の「タイガー&ドラゴン」での共演も印象深い。ここはいっそ、同じ役で今度の作品にも出演を願おうか。
このほかにも、オリンピックの各大会で活躍したアスリートの配役も気になるところだ。たとえば人見絹枝(1907〜31)。人見は1928年のアムステルダム大会に出場、800メートル走で2位となり、日本女子初のメダルを獲得した。しかしそれからわずか3年後、24歳で早世している。宮藤作品「あまちゃん」でアイドルを夢見ながらも何度も挫折する少女を演じた橋本愛など、人見を演じたらハマるのではないか。
今回のNHKの発表では、日本初参加となったストックホルム大会に出場した2選手のうち一人は「日射病で失神して大惨敗」との一文があったが、それはマラソンの金栗四三(1891〜1983)のことである。このとき途中18キロで倒れて棄権した金栗だが、このあともアントワープ大会(1920年)とパリ大会(1924年)に参加、後半生は後身の育成に尽力した。そんな金栗の役には、宮藤の最近作「ゆとりですがなにか」で、ここぞという場面で逃げ出すなど面倒くさいキャラを演じたことが記憶に新しい太賀はどうだろうか。
さらに直感で配役していくなら、前出のアムステルダム大会において日本選手で初めて優勝した三段跳の織田幹雄(1905〜98)には同じく陸上経験者である武井壮、1936年のベルリン大会で日本女子初の金メダルを得た200メートル平泳ぎの前畑秀子(1914〜95)には、宮藤の映画最新作「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」にも出演していた清野菜名、あるいは森川葵か。
敗戦直後に競泳で33もの世界新記録を打ち立てた「フジヤマのトビウオ」古橋廣之進(1928〜2008)には松坂桃李、その盟友で1952年のヘルシンキ大会では不振の古橋に代わってエース格となり、1500メートル自由形で銀メダルを獲得した橋爪四郎(1928〜)には、前出の「ゆとりですがなにか」で松坂と共演した岡田将生をあてたい。
そして東京オリンピックでもっとも日本国民の注目を集めた日本女子バレーボールチーム。「東洋の魔女」と呼ばれる同チームで主将を務めた河西昌枝(1933〜2013)には誰がふさわしいか。演技ができるのはもちろん、ドラマ放送時30歳前後で長身という条件がつく分、悩むところだが、そこで思い浮かんだのが、モデルとあわせ女優としても活躍する山本美月だ。このほかチームのメンバーには安藤サクラなど演技派を集めて、宮藤の得意とする群像劇に仕立ててくれたのなら、きっと面白いと思うのだが。そして鬼コーチと呼ばれた全日本監督の大松博文(1921〜78)には、「あまちゃん」ほか宮藤作品の常連である古田新太でぜひ!
アスリートや指導者だけでなく、オリンピックを裏方として支えた人たちのエピソードもふんだんに盛り込まれることだろう。
たとえば、東京オリンピックでも使われた旧国立競技場の聖火台は、1958年の東京でのアジア大会のため、当時鋳物産業が盛んだった埼玉県川口市の鋳物師(いもじ)が製作を請け負ったものだ。鋳物師は2カ月かけて鋳型を完成させるも、鋳鉄を流し込む「湯入れ」という作業中に爆発してしまう。このショックから鋳物師は急死、このあと聖火台は、共同で製作にあたっていた息子が不眠不休の作業の末に完成させたという。
川口の鋳物工場といえば、吉永小百合主演の映画「キューポラのある街」(1962年)が思い出される。ここはオマージュを込めて、鋳物師の妻の役ででも吉永に出演を願えないものだろうか。
最後に、オリンピックで開会宣言を行なった昭和天皇(1901〜89)は、密室芸人時代にモノマネのレパートリーにしていたというタモリにぜひ演じていただきたい。「第18回近代オリンピアードを祝い、ここにオリンピック東京大会の開会を宣言します」の一言だけで、もう十分に出演の価値はあるはずだ。
さて、2019年の大河ドラマでは、脚本の宮藤官九郎のほか、制作統括には訓覇圭、演出には井上剛と、2013年の連続テレビ小説「あまちゃん」のスタッフが再結集するという。そこでどうしても気になるのは、「あまちゃん」のヒロインだった能年玲奈改め「のん」が出演するのかどうかということだ。
ちょうど久々の主演作となったアニメ映画「この世界の片隅に」が公開され、話題となっていることもあり、今回の発表を受けて、大河への出演を期待しているファンも多いことだろう。
「この世界の片隅に」で彼女の演じた役は実在の人物ではないけれど、その真に迫った演技から、本当にいたかのような印象を受けた。ならば大河でも、実在の人物というよりは、たとえば狂言回しとして全編にわたり物語にかかわる役として登場させるというのも手だろう。過去の大河でいえば「獅子の時代」(1980年)の菅原文太がそんな役柄だった。
そしてできることならば、のんには本名での復帰を望みたい。今後3年間で彼女を取り巻く状況が好転することを願うばかりだ。
(近藤正高)
大河ドラマではかつて1984年から86年にかけて近現代をとりあげた作品が放送されたことがある。このうち86年放送の「いのち」(橋田壽賀子作)は、歴史上の人物が一切登場せず、三田佳子演じる架空の医師・高原未希を主人公に戦後史を描いた異色作だった。
「いのち」では高度成長の陰の部分もきちんと描いていたのが印象深い。オリンピック直前の東京では空前の建設ブームが起こる。それを支えたのは農村からの出稼ぎ労働者たちだったが、彼らの労働条件は過酷だった。劇中では、未希と同郷の男(演じていたのは鈴木正幸)が大けがを負い、彼女の病院に担ぎこまれるも、結局亡くなってしまう。
このほかにも農地改革や集団就職など、「いのち」は農村の視点から戦後をとらえた点も特筆に値する。これに対して、今回の宮藤官九郎の大河ドラマはオリンピックとあわせて東京を題材にとりあげるという。これまで池袋、下北沢、高円寺など東京の各街をドラマの舞台にとりあげてきた宮藤だが、東京を総体としてどんなふうに描き出すのか? それも気になるところだ。
さて、この記事では、かなり気が早いが、宮藤脚本の大河ドラマに登場しそうな人物と、それにふさわしいと思われる配役を予想、というかほぼ妄想だが、私なりにあげてみたい。
「幻の東京オリンピック」を区切りに2部構成?
NHKの発表によれば、今回のドラマでは、日本が初参加した1912年のストックホルムオリンピックから、1964年の東京オリンピックまでの約半世紀を描くという。
半世紀の真ん中は1936〜1938年、日中戦争の勃発する前後ということになる。ちょうどこのころ持ち上がったのが1940年の東京オリンピック招致だった。1936年7月には、ドイツ・ベルリンでのIOC(国際オリンピック委員会)総会で、次のオリンピック開催地に東京が選ばれる。だが、それからちょうど1年後に中国大陸で始まった戦争は泥沼化、結局東京でのオリンピックは翌38年に中止が決まった。
1940年の東京開催決定の立役者といえば、当時IOC委員だった教育家の嘉納治五郎(1860〜1938)である。嘉納は古来より伝わる柔術を合理化・体系化して「柔道」を創始し、その普及に努めた。一方で明治末よりIOC委員、大日本体育協会(現・日本体育協会)の初代会長などを歴任している。前出のストックホルムオリンピックでは日本選手団の団長を務めた。
この経歴からすれば、オリンピックの歴史を描く大河ドラマにおいて、主に前半で主人公クラスで登場することは間違いない。演じるのも十分に実績のある俳優がふさわしかろう。私のなかでは西田敏行、平泉成、柄本明などの名前が浮かぶが、嘉納の肖像写真を見るかぎり、笹野高史にそっくりであることに気づいた。もちろん風貌ばかりでなく、笹野は大河ではすでに「天地人」で豊臣秀吉を演じるなど申し分のない活躍をしている点も考慮すれば、適役といえるのではないか。
1964年東京招致の立役者には「タイガー&ドラゴン」の名コンビを
前半で1940年の東京オリンピック返上までを描くとするなら、後半の舞台は太平洋戦争から戦後復興、高度成長へといたる時代ということになる。嘉納治五郎は返上直前の1938年5月、エジプト・カイロでのIOC総会から帰国の途上に客死しているので、後半まで登場させるのは難しい。
全体の構成を考えれば、前半と後半を何らかの形で結びつける人物を主人公クラスに据えたいところだ。そこで思い浮かぶのが、大島鎌吉(けんきち。1908〜85)という人物である。大島は1932年のロサンゼルスオリンピックの陸上・三段跳の銅メダリストで、戦前から戦後にかけて毎日新聞の記者として活躍する一方で、1964年の東京オリンピックでは招致活動に奔走、開催時には日本選手団長を務めた。
大島については岡邦行『大島鎌吉の東京オリンピック』にくわしいが、彼の生涯はエピソードに事欠かない。第二次世界大戦中には毎日新聞のドイツ特派員となり、ベルリン陥落まで取材している。この間、けっきょく記事にはならなかったものの、ヒトラーへの単独会見にも成功した。終戦直後、毎日新聞社がプロ野球球団・毎日オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)を発足させたときには、アマチュア精神を重んじる立場から強く反対し、運動部長昇進のチャンスをふいにしたこともあった。
この気骨ある人物を演じるには誰がふさわしいか。宮藤官九郎とはその出世作「池袋ウエストゲートパーク」以来、何度となくタッグを組んできた長瀬智也などぴったりではないだろうか。
オリンピック招致では大島とともに、朝日新聞社の常務で日本水泳連盟会長なども務めた田畑政治(まさじ。1898〜1984)が重要な役割を担った。きっとドラマにも出てくることだろう。
大島鎌吉と田畑政治はもともとスポーツ振興をめぐり意見を異にしていた。田畑は、オリンピックで日本人選手が活躍すれば、スポーツへの関心は自然と高まり、競技する人たちの底も広がると考えていた。いわば「オリンピック至上主義」である。これに対して大島は、底を広げることこそ第一と考え、そのために日本スポーツ少年団を結成するなどしている。
だが、田畑はJOC(日本オリンピック委員会)の総務主事を務めていた1959年、5年後のオリンピック開催地を決めるIOC総会を目前に控え、招致運動の切り札として大島をJOC委員に抜擢する。田畑は当時の共産圏であるソ連・東欧諸国の票を獲得することが東京開催の決め手になると考え、大島に各国への説得をまかせたのだった。
なお、一昨年にフジテレビで放送されたドラマ「東京にオリンピックを呼んだ男」では田畑を西田敏行が演じている。西田といえば大河ドラマで何度も大役を演じてきたし、長瀬とは宮藤作品の「タイガー&ドラゴン」での共演も印象深い。ここはいっそ、同じ役で今度の作品にも出演を願おうか。
「東洋の魔女」は宮藤お得意の群像劇で!
このほかにも、オリンピックの各大会で活躍したアスリートの配役も気になるところだ。たとえば人見絹枝(1907〜31)。人見は1928年のアムステルダム大会に出場、800メートル走で2位となり、日本女子初のメダルを獲得した。しかしそれからわずか3年後、24歳で早世している。宮藤作品「あまちゃん」でアイドルを夢見ながらも何度も挫折する少女を演じた橋本愛など、人見を演じたらハマるのではないか。
今回のNHKの発表では、日本初参加となったストックホルム大会に出場した2選手のうち一人は「日射病で失神して大惨敗」との一文があったが、それはマラソンの金栗四三(1891〜1983)のことである。このとき途中18キロで倒れて棄権した金栗だが、このあともアントワープ大会(1920年)とパリ大会(1924年)に参加、後半生は後身の育成に尽力した。そんな金栗の役には、宮藤の最近作「ゆとりですがなにか」で、ここぞという場面で逃げ出すなど面倒くさいキャラを演じたことが記憶に新しい太賀はどうだろうか。
さらに直感で配役していくなら、前出のアムステルダム大会において日本選手で初めて優勝した三段跳の織田幹雄(1905〜98)には同じく陸上経験者である武井壮、1936年のベルリン大会で日本女子初の金メダルを得た200メートル平泳ぎの前畑秀子(1914〜95)には、宮藤の映画最新作「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」にも出演していた清野菜名、あるいは森川葵か。
敗戦直後に競泳で33もの世界新記録を打ち立てた「フジヤマのトビウオ」古橋廣之進(1928〜2008)には松坂桃李、その盟友で1952年のヘルシンキ大会では不振の古橋に代わってエース格となり、1500メートル自由形で銀メダルを獲得した橋爪四郎(1928〜)には、前出の「ゆとりですがなにか」で松坂と共演した岡田将生をあてたい。
そして東京オリンピックでもっとも日本国民の注目を集めた日本女子バレーボールチーム。「東洋の魔女」と呼ばれる同チームで主将を務めた河西昌枝(1933〜2013)には誰がふさわしいか。演技ができるのはもちろん、ドラマ放送時30歳前後で長身という条件がつく分、悩むところだが、そこで思い浮かんだのが、モデルとあわせ女優としても活躍する山本美月だ。このほかチームのメンバーには安藤サクラなど演技派を集めて、宮藤の得意とする群像劇に仕立ててくれたのなら、きっと面白いと思うのだが。そして鬼コーチと呼ばれた全日本監督の大松博文(1921〜78)には、「あまちゃん」ほか宮藤作品の常連である古田新太でぜひ!
国民的女優と司会者にもぜひ出演を
アスリートや指導者だけでなく、オリンピックを裏方として支えた人たちのエピソードもふんだんに盛り込まれることだろう。
たとえば、東京オリンピックでも使われた旧国立競技場の聖火台は、1958年の東京でのアジア大会のため、当時鋳物産業が盛んだった埼玉県川口市の鋳物師(いもじ)が製作を請け負ったものだ。鋳物師は2カ月かけて鋳型を完成させるも、鋳鉄を流し込む「湯入れ」という作業中に爆発してしまう。このショックから鋳物師は急死、このあと聖火台は、共同で製作にあたっていた息子が不眠不休の作業の末に完成させたという。
川口の鋳物工場といえば、吉永小百合主演の映画「キューポラのある街」(1962年)が思い出される。ここはオマージュを込めて、鋳物師の妻の役ででも吉永に出演を願えないものだろうか。
最後に、オリンピックで開会宣言を行なった昭和天皇(1901〜89)は、密室芸人時代にモノマネのレパートリーにしていたというタモリにぜひ演じていただきたい。「第18回近代オリンピアードを祝い、ここにオリンピック東京大会の開会を宣言します」の一言だけで、もう十分に出演の価値はあるはずだ。
「あまちゃん」ヒロインの彼女の出演はあるのか
さて、2019年の大河ドラマでは、脚本の宮藤官九郎のほか、制作統括には訓覇圭、演出には井上剛と、2013年の連続テレビ小説「あまちゃん」のスタッフが再結集するという。そこでどうしても気になるのは、「あまちゃん」のヒロインだった能年玲奈改め「のん」が出演するのかどうかということだ。
ちょうど久々の主演作となったアニメ映画「この世界の片隅に」が公開され、話題となっていることもあり、今回の発表を受けて、大河への出演を期待しているファンも多いことだろう。
「この世界の片隅に」で彼女の演じた役は実在の人物ではないけれど、その真に迫った演技から、本当にいたかのような印象を受けた。ならば大河でも、実在の人物というよりは、たとえば狂言回しとして全編にわたり物語にかかわる役として登場させるというのも手だろう。過去の大河でいえば「獅子の時代」(1980年)の菅原文太がそんな役柄だった。
そしてできることならば、のんには本名での復帰を望みたい。今後3年間で彼女を取り巻く状況が好転することを願うばかりだ。
(近藤正高)