ホンネとタテマエを使い分ける日本人。そして「タテマエ」の中には江戸っ子が大事にする感覚「やせ我慢」も見え隠れします。それはどうやら江戸特有の食文化にも影響を与えているようで……。今回は、そんな「やせ我慢」から生まれた食べ物のお話です。


江戸の蕎麦汁が「しょっぱすぎる」理由とは？



「粋」にこだわった江戸っ子。
その条件はいろいろとありますが、重要な要素のひとつに「やせ我慢」があります。
どんなにつらくても簡単には弱音を吐かないのが、江戸の粋。
そのやせ我慢は、食べ物にも大きく影響を与えました。

たとえば江戸っ子のソウルフード、お蕎麦。
彼らにとって蕎麦とは「盛り蕎麦」のことを指し、丼に入ったお蕎麦などは「田舎蕎麦」といって嫌われました。
よく「関東の蕎麦汁はしょっぱすぎる」と言われますが、それは江戸の人々も重々承知。
しょっぱい汁に浸けるようになったのにはワケがあります。

江戸時代、西浅草にあったお寺の和尚さんが、きまぐれで蕎麦を打ちました。
自家製の蕎麦は美味しかったのですが、その汁のしょっぱいこと。
ですが、偉いお坊さんのお手製とあっては「辛すぎる」と言うこともできず、皆口々に「このしょっぱさがおいしいのだ」と言って食べたのだそうです。
次々に集まる食通たち。
「しょっぱい汁に蕎麦を浸け、ズルルっとやるのが粋なのよ」
いつの間にかこの食べ方が定着します。
やがてお蕎麦は「しょっぱい汁にちょっとだけ浸して食べる」ものになったのだとか。

お寿司もおなじこと。
シャリとネタの間に置かれた、こぼれ落ちんばかりのワサビ……。
これを素手でつまみ、醤油につけ、垂れた醤油を指の股から舐め上げる。
これが江戸っ子の粋なお寿司の食べ方です。
口が裂けても「辛い」なんて言って涙を流してはいけません。
関西の定番だった「押し寿司」ではなく「握り寿司」が流行したのも、パッと2、3個食べてすぐに帰るその潔さが、江戸っ子のこだわりに合っていたからだと言われています。

昔は今のような凝った料理はなく、シンプルで質素な料理ばかりでした。
だからこそ食べ方やスタイルにこだわるようになった、というのは共感できます。
ですが、しょっぱい汁に辛いワサビ……そこまでしなくても！
と、ちょっぴり思ってしまいますね。

文／岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「江戸の蕎麦汁がしょっぱい理由は？」として、7月27日に放送しました。

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＜番組概要＞
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